第11話:鶏と卵の価値

 俺は暑い寒いがない境内にある社務所で寝た。

 本当に御都合主義なのだが、境内の一角には神主がいなくなった社務所がある。

 しかも祭りの夜警に備えて寝具まであった。

 社務所のトイレは汲み取り式なのだが、境内の南側に市民公園を建設した際に、境内の一角に市のお金で公衆トイレが設置されている。

 そのお陰で15年前に卒業した汲み取りトイレに戻らなくてすんだ。


「女神様、配祀神様、今日鶏が産んだ卵でございます、どうぞお納めください」


 翌朝早々、俺と石姫皇女の前に鶏の産んだ卵が差し出された。

 これだけの卵を見るのは両親が鶏卵卸業をしていた頃以来だ。

 1500羽の鶏が産んだ卵は700個はあった。

 サイズ揃っていないし、廃鶏だから1500個という訳にはいかないが、それでもLLサイズなら6箱分はある。

 それを全部俺と石姫皇女で食べるなどありえない。


「今日の分は100個ほど置いておけばいい、そんなには食べられない。

 残りは下げ渡すから、朝ご飯に食べるがよい」


 昨晩確認したが、社務所にはちゃんと電気も水も来ていた。

 だったら簡単な話で、炊飯器で白米を炊き卵を料理すればいい。

 生活レベルが違い過ぎるから、異世界の氏子衆に遠慮すると長続きしなくなる。

 俺の事は配祀神だと思ってくれているのだから、それを利用する。

 社務所に焼き鳥の臭いを充満させてしまったら、日本に戻った時に問題が起こるが、境内の駐車場部分なら大丈夫だ。

 幸いと言っては何だが、電気の野外延長コードが家にある。


「おい、生ケーキとアイスクリームケーキを忘れるでない」


 石姫皇女をなだめるために、どうせ何度も異世界と日本を往復するのだ。

 その時にホットプレートとフライパン、玉子焼き器を持ち込めばいい。

 鶏は食べてしまったらそれまでだが、卵を産ませれば毎日食べられる。

 鶏が食べたくなった休産期間に入った鶏を潰せばいい。

 鶏を潰すか、酷い表現だが、幼い頃を思い出して懐かしい。


「女神様、配祀神様、貴重な卵を下げ渡していただき感謝の言葉もございません」


 異世界氏子衆が地に頭をつけんばかりにありがたがってくれる。

 日本の江戸時代でも卵は結構貴重だったと聞く。

 終戦からしばらくの間は、庭に放し飼いにしていた鶏が産む10個程度の卵も、家族で食べずに現金収入にしていたと祖母から聞いている。

 この世界では卵がとても貴重なのかもしれない。


「長老、この鶏は売ればいくらくらいになるのだ」


「都市で売れば、安くても10羽で銀貨8枚になります。

 上手く売れば1羽で銀貨1枚になるかもしれません」


「卵の方はどうだ、いくらで売れる」


「24個で銀貨1枚になります」


「銅貨何枚で銀貨に交換できるのだ」


「銅貨6枚で銀貨1枚に交換することができます」


 よくよく話を聞くと、多くの国の色んな時代に使われていた硬貨が混在して使用されていて、結局硬貨を計量して使わなければいけない状態のようだ。

 損をしないように契約には気をつけなければいけない。

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