第13話:大商人アルフィとの交渉

 異世界にある神社の境内前に、ツベカウの大商人アルフィと護衛の戦士四人、合わせて五人が雁首並べて交渉してくる。

 だが、長老のジェイコブはもちろん、村長のオスカーも若衆頭のアーサーも、無条件にアルフィを村の中に入れたわけではない。

 総勢百人近い護衛と輸送のための奴隷が、村の防壁の外側にいる。

 アルフィと四人の護衛は人質でもあるのだ。


「いや、まさか、本当に神々が降臨されているとは思いませんでした。

 それとも神々を名乗る悪魔の手先なのでしょうか、よくわかりませんね」


 商売の交渉で弱味をつかみたいのか、アルフィが憎まれ口をたたく。

 しかも何度も境内に入ろうとしては弾き飛ばされている。

 神通力を確認したうえで憎まれ口を叩くのだから、度胸があるのだけは確かだ。

 問題は信用できるかどうかだが、永続的な利益を与えれば裏切らないと、石姫皇女がアルフィの心を読んで断言しているのだから、それは大丈夫なのだろう。

 それにどうやら本当に、俺には配祀神から分け与えられた力があるようだ。


「別にアルフィが我らの事を神だと思おうが悪魔だと思おうがどちらでも構わない。

 我々を信じてくれる氏子衆を助けるために、神の国の品物を分け与えるだけだ。

 それをアルフィが買うのか買わないのか、直ぐに決めろ。

 買わないのならゲーラに若衆頭を送る、それだけの事だ」


「いや、いや、それはせっかち過ぎますよ神様。

 もう少し商売の駆け引きを愉しんでいただきたいのですよ、神様」


 交渉を愉しむ気はなかったし、神の力を見せつけておく必要もあったので、うざいアルフィに配祀神となっている熊野権現祭神の一柱、軻遇突智命の力を使った。

 指先から火の玉を生みだして、アルフィの鼻先を焼いてやった。

 だがこれくらいの事なら、百円ライターでもできたのだと思ってしまった。

 まあ、俺としても配祀神の力を使えるのを確認できたのはよかったのが。


「あっちちちち、申し訳ありません、ごめんなさん、お許しください。

 もう二度と神様を試すような真似は致しません、だからどうかお許しください」


 配祀神の力を使って脅かしたのがよかったのか、その後の交渉は全てこちらの条件が通ったし、嘘偽りがないのも石姫皇女が確かめてくれた。

 というか、石姫皇女がアルフィの心を読んでくれて、上限ギリギリの値段で売りつけることができた。

 小麦粉25kgを純金10gで買い取ってくれることになった。

 塩25kgは純金15gで買い取ってくれた。


 小麦粉が20袋あったから純金で200gを受け取ったが、これは戦争中に不作になって絶望的な食糧不足なうえに、冬前の秋だからこその高値だった。

 塩も20袋あったから純金で300gを受け取ったが、これも海からとても遠くて塩が貴重な内陸部だからこその高値だった。


 俺が異世界に来る前に確認していた金の小売買取価格は1g6941円だった。

 その価格で買い取ってもらえれば、全部で208万2300円になる

 塩と小麦粉の仕入れに10万1400円使っているから、198万900円の利益になり、当面は住宅ローンの心配をしなくてよくなる。

 次の取引の約束をしてアルフィにはツベカウに帰ってもらった。

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