第7話:玄米と小麦粉と塩と駆け引き

 全ての商品が届くまで3日かかった。

 その間に300kgもの玄米を3日連続買って、26万1000円もかかった。

 5号サイズの生ケーキも3個で1万3932円かかかった。

 アイスクリームケーキも3個で7500円かかった。

 仕入れに25kgで1200円の塩を20袋2万4000円分買った。

 同じく25kgで3870円の小麦粉を20袋7万7400円分買った。


「これは、何と真っ白で美しい、こんな小麦粉も塩も見た事がありません」


 長老が腰を抜かしそうなくらい驚いている。

 この世界この村の地域性は北ヨーロッパで、文化レベルは中世前期だろう。

 それなら製粉にとても労力が必要で、貧しい農民が穀物を粉にして食べる余裕などなかったはずだから、大麦粥が主食だったはずだ。

 小麦粉の、しかも白く製粉されたパンを食べられるのは、貴族か大商人だけだったはずで、純白の小麦粉はかなり高く買ってもらえるはず。


「小麦粉も塩も高く買ってもらえそうかな」


「ええ、ええ、ええ、とても高く買ってもらえると思います」


 長老の話に間違いはないだろし、俺に対するお追従もないだろう。

 恐らくだが、この地域に流通している塩はかなり品質が悪い。

 良質な岩塩鉱があればともかく、長老の話ではないようだ。

 塩田技術が低いのなら、砂や塵が混じっていて当然だ。

 いや、多くの人力を投入して丁寧に作ったり選別すれば、それなりの品質の塩を作ることはできるだろうが、そうなるとどうしてもとても高価になる。

 餓えるような貧乏農民に買えるのは、手間を少なくした質の悪い塩になる。


「おい、話より先に生ケーキとアイスクリームケーキをよこしなさい。

 1日1個ずつで許してあげたのに、それすら守らないというのなら、この世界に行き来させないわよ、早く寄越すのです」


 自分が話題の中心でないのが許せないのか、それとも思うままに甘味を堪能できないのが許せないのか、予想通り石姫皇女が邪魔をしてきた。

 だがこのような邪魔なら想定通りで何の問題もない。


「承りました、私には女神様に満足して頂けるだけの神通力がございません。

 また女神様にも私の願いをかなえるだけの神通力がないようでございます。

 今ここで主従関係を解消させていただきましょう」


「うぬぬぬぬぬ、本気か」


 長老が俺と石姫皇女の言い争いをハラハラとした表情で見ている。

 ライラは興味津々、いや、俺と石姫皇女の力関係を見極めようとしている。

 どうやらライラは俺と石姫皇女の力関係を上手く利用しようとしているようだ。

 ライラはともかく、石姫皇女は俺の本心などお見通しだろう。

 村人達を助けたいという俺の表の顔と願いも、完璧にできないくらいなら全て投げ出して逃げてしまおうという醜い本心も。

 さて、最初からそれを知っていて、このあとどうするよ、石姫皇女。

 俺は決して聖人君主じゃないぞ、お前達神々と同じ身勝手なゲスだぞ。

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