第6話:感情豊かなライラ

「ライラと申します、何なりとお申し付けください」


 長老の孫娘だという女性は、金髪を短く切った絶世の美女だった。

 少しでも食糧を購入するために、村の女性全員が髪を売ったという話だ。

 短髪だと男女の違いを出しにくいのだが、秋の花セージを耳に飾っている。

 衣服も同じ粗い織り方の葛布なのだが、他の女性達とはどこか着こなしが違う。

 配祀神の俺に仕えるためだろう、水浴びをして小奇麗にしている。

 垢脂の嫌な臭いではなく、女性のいい香りがする。


「ありがとう、色々としてもらわなければいけないと思うが、まずは女神様に挨拶をしてもらおう」


「はい、配祀神様」


 さっきから石姫皇女から強い嫌な視線を感じる。

 自分よりも俺が敬われているのが気に喰わないのだろう。

 だがそれも仕方がない、俺がこの村に食糧を与えたのだから。

 しかし石姫皇女の機嫌を損ねたら、もうこの世界に来れないのは明白だ。

 神々は本当に嫌なるくらい身勝手だからな。

 内心を見抜かれているのは分かっているが、ちゃんと事情を説明して納得してもらわなければいけない。


「女神様、人間の身で直接女神様にお仕えするのは畏れ多く、女神様のお世話は配祀神の私が行い、配祀神である私のお世話を人間がするという事でございます。

 全ては女神様を敬っての事、お気を悪くなされませんように」


「そんな事は分かっています、それよりもケーキです、ケーキを寄こしなさい」


「恐れながら女神様、配祀神である私の力では、それほど多くのケーキを購入する事ができません、どうか一日に生ケーキ1個とアイスクリームケーキ1個で我慢していただきとうございます。

 この世界で十分な金が手に入ったら、その時はもっと多くのケーキを買ってまいりますので、それまでお待ちください」


 ライラが興味津々の表情をしている。

 ファッションだけでなく、他の事にも好奇心が旺盛なのだろう。

 くるくるとよく動く大きな目がとても魅力的だ。

 

「恐れながら女神様に申し上げます。

 体力が回復し次第に兄達が交易に向かいますので、それまでお待ちください。

 兄は武芸にも交渉にも秀でておりますので、必ず交易を成功させてくれます。

 その暁には、配祀神様に御礼の金貨をお渡しし、生ケーキと言うモノやアイスクリームケーキというモノを数多く買えるはずでございます」


 石姫皇女が不機嫌そうにライラを見ている。

 調子のいい言葉が信じられないのか、自分の無力が腹立たしいのか。

 神は基本身勝手な存在だと思うので、機嫌を損ねて理不尽にライラを傷つけなければいいのだが……

 どれほど口先でへりくだってお追従の限りを尽くしても、内心を読まれてしまいから逆効果だ、どうしようもない。

 真摯に話すしかないのだが、身勝手な神が納得してくれるかどうか……

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