第5話:行商準備
「それでは、交易のために行商隊を編成してくれるのですね」
「はい、お任せください」
俺が玄米300kgを村に持ち込んだことで、村の食糧事情が劇的に変化した。
俺が1日分程度だと思った量が、この村では3日分だという。
確かに江戸時代でも女性は1人玄米3合が食事量の基準だった。
まして極貧の飢餓状態の村なら、細く長く食いつなぐのだろう。
玄米分の食糧が増えた事で、備蓄されていたライ麦を保存食に焼いて、行商に行ってくれるというのだ。
「では、村に残る人達に青銅製の武器が残貸し与えられるのですね」
「はい、行商中に武器を奪われるわけにはいきませんし、行商に成功して帰ってきても、村が全滅していては意味がありませんから」
村が生き残る事が一番大切な事なのだろう、長老がはっきりと言い切った。
小麦パンに比べて硬くてボソボソしたライ麦パンを、日持ちがするようにわざと硬く焼くのも、燃料の薪すら節約しなければいけないほど貧乏だからだ。
村の周りのやせた土地にはライ麦畑が広がっているが、その周囲はとても深い村になっていて、秋には豚を放してドングリを喰わすという。
人間が食べる小麦やライ麦を喰わさずにすんで、牛より成長が早く鶏よりも食べ応えがある豚を太らせて肉にする。
塩漬けした豚肉で雪に閉じ込められた冬を越さなければいけない。
その全てが村の貧しさを表しているが、それでもまだましな村だという。
「塩は十分あるのですか、そもそもこそあたりの塩はいくらするんですか」
「この辺は海が遠く岩塩鉱もないので、塩が高いのです」
氏子総代を務める長老の話では、今年は十分な塩を買えなかったそうだ。
海の近くなら5ポンド(2・3kg)で小銀貨2枚程度だが、この辺りでは1ポンド(454g)で小銀貨1枚もするという。
これは、この村用と交易用に塩を購入すべきだな。
ネットを使って最安値で買おうと思うと、少々時間がかかるだろう。
「この辺りで塩を売る事は可能ですか、あまりに高価な物を一度に売ると盗賊や領主に眼を付けられるでしょうから、少しずつ目立たない範囲で売れる物はなんですか」
「そうでございますね、この辺で売っても目立たない物となりますと、小麦とライ麦くらいになります。
高く売るのなら以前お聞きになられた胡椒やサフランですが、目立ち過ぎます。
村が困窮して、一か八か港町まで商品を仕入れに行った事にしても、大量に購入する資金がそもそもありませんから、少量になります」
長老に色々と話を聞いた結果、借金をして港町まで仕入れに行ったという嘘をついて、少しずつ高価な物を売ることにした。
だが主力商品は小麦粉にする事にした。
日本ではライ麦よりも小麦粉の方が手に入り易い。
それに真っ白に製粉された小麦粉の方が、加工賃も加えて売ることができる。
問題はどれくらいの値段で売れるかだ、購入費よりも高く売れればいいのだが。
「それで、今のままでは何かと御不自由かと思い、配祀神をお世話する者を決めさせていただきました、孫娘のライラでございます」
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