第4話

「なぁ、重人」


竹内は居心地の悪そうに座っていたのを、ぼそりとつぶやく。


「任務は終わった。成功した。隊長の目的は完遂された。……だから、それでいいんだよな」


これが俺たちの望んだ世界だ。


「俺はそう信じているよ」


その返事に、彼は不服そうな表情を浮かべる。


そうだよな。


「信じてる」だなんて、そんな曖昧な言葉を、竹内は信じない。


母はお盆にてんこ盛りの朝食を用意して運んできた。


「コンビニの上に住んでるんだって? それじゃ大変でしょう」


母は真新しい箸を竹内のために用意していた。


茶碗もおろす。


そこにこれでもかと白飯を盛り付けた。


「そ、そんなには食べられないです……」


竹内は蚊の鳴くような声でつぶやいた。


だけど渡されたそれを、黙って受け取る。


「一緒にご飯食べたら、お部屋でゲームするんでしょ? それが終わったら、ちゃんとお仕事しなさいね」


「仕事?」


俺はその言葉にビクリとなる。竹内もだ。


「あら、そのためにうちに来たんじゃないの? コンビニの方は、なんていうの? あれ、メンテナンスってやつだから」


俺たちは目を合わせる。


「予算申請から行動計画と報告書まで、あなたが全部一人でやってるんですって? それでずっと2階に引きこもってパソコンいじってるなんて、絶対よくないわよ」


「え、どういうこと?」


「あの新庁舎の設計にね、私も関わったことがあるのよ。ほら、旧庁舎からの引っ越しがようやく表で決まったばかりで、中の設計が本格化しててねぇ~。まぁ大変だったわよ」


母は味噌汁をよそう。


今日はいつもの卵焼きが目玉焼きで、ウインナーまでついていた。


「あのロボットのカラクリね、提案したの、実はあたし。今の東京国際フォーラムから一個一個移送させるの、大変だったんだからぁ!」


「……母さん、なに言ってるの?」


「ふふ、そんな昔の話、今の人には興味ないわね。あら、私も急いでパートに行かなくっちゃ」


母は立ち上がると、エプロンを外した。


「じゃ、重人。いつものように食べ終わったら、食洗機にお願いね」


「母さん!」


「あら、これからあなたたちがするのは、本当にお仕事なの? それとも調べ物かしら」


満面の笑みを残して、母はうちを出て行く。


俺たちは慌てて端末を取り出すと、この人の経歴を検索し始めた。




 

【完】

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コンビニバイト店員ですが、実は特殊公安警察やってます 岡智 みみか @mimika

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