第3話

「データを保存して、解析にかけておけ。今日はもうバックアップだけとって帰っていいぞ。レポートは後日、早めに提出しろ」


それだけを言い残して、隊長は去って行く。


機動隊防護服の下から、スーツが現れた。


「どうした?」


「いえ、なんでもないです」


俺たちは最敬礼で、その背中を見送る。


隊長はまた別の何かを守るために、戦いに行こうとしている。


それはきっと俺たちが考えるものより、もっと単純で簡単で、やさしいものなのかもしれない。


広場周辺に並んだ支柱のような柱が、全てある一点に集中する角度で傾いていた。


もし都庁ロボが起動すれば、このミサイルでロボットごと破壊するつもりだったのだろう。


その何かを守るために、隊長の下した決断の後だ。


「あらやだ。かわいそうな人って、どこにでもいるのねぇ」


ワイドショーの場面が切り替わる。


鳥獣保護管理法で捕まったという男が報道されていた。


「自分の飼っていたカラスが襲われたからって、ハヤブサを傷つけたんだって。ひどいわねぇ」


飯塚さんは本部隊員の手によって逮捕された。


数ある罪状のなかから、公表するに選ばれたのが、これだったのだろう。


「でもきっとその人は、そのカラスを本当にかわいがっていたんだよ」


「だから『ひどい』って言ってるんじゃない。報道する必要ある?」


画面に映し出された名前が、本当の名前なのかどうかは知らない。


だけどそこに映っている飯塚さんの、年齢だけは真実のようだった。


「あ、お友達が来たわよ」


玄関の開く音がして、竹内は俺の隣にもぞもぞと腰を下ろした。


同じ事情聴取仲間がコンビニのバイト上司と知って、母が誘ったのだ。


その母は挨拶を済ませると、食事の準備のために席を立つ。


テレビは都庁爆破情報の、いい加減な内容に切り替わった。

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