第2話
「言え、言ってみろよ!」
「秀樹、その手を離せ」
機体に登ってきた隊長は、俺たちを見下ろした。
「重人はちゃんと押したよ。この俺が証明する」
隊長の目は、いつか見たあの目の同じ、優しい目をしていた。
「俺が緊急停止ボタンを押すその前に、起動は止まった。重人が先に押したんだ。だから、離してやれ」
竹内の強くかみしめた口元が、わずかに緩む。
俺をつかんでいたその手は、だらりと垂れ落ちた。
隊長の大きな手が、俺と竹内の頭に乗る。
「さ、まだ仕事が残っている。ついて来い」
歩き始めた隊長の後ろを、竹内はすぐに追いかける。
俺はその並んだ背中を見ながら歩いた。
……やっぱりこの人には、かないそうにない。
「何があるんっすか?」
「ん? まぁまぁ」
竹内がぶっきらぼうにそう尋ねたのを、隊長は笑ってごまかした。
地上に出た俺たちを待っていたのは、俺の姉と父親だった。
俺が都庁前広場にいないことを心配した姉は、姉を心配して電話をかけてきた父に俺のことを伝えた。
父が二人を心配して広場にたどり着いた時には、隊長は俺たちを連れて外に出ていた。
「重人が、重人がどうかしたんですか!」
機動隊の装備を身につけた隊長は姉に、庁舎内に閉じ込められていた俺たちを救出し、外に誘導したんだと伝える。
「事情聴取がありますので、すぐに帰宅は出来ないと思いますが、連絡をとることは可能です。他にも数人が聴取の対象になっていますので、少し時間はかかるかもしれません」
その時の姉は、じっと隊長を見上げていた。
不安そうに見上げる彼女に向かって、隊長は微笑む。
「今日中には必ず、家に帰れますよ」
それはもうそのまま、隊長と姉との約束になった。
夕焼けの都庁前広場で、姉と親父はその背に頭を下げる。
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