おまけ3 星の記憶3

“ギキキキキン・・・!!!”

町のあちらこちらで響く衝撃音と悪魔の断末魔の叫び。たった3人の剣士達の前に1体、また1体と次々に武装した悪魔達が切り伏されて霧の様に肉体が霧散していく。弱点のコアを砕かれた巨獣の断末魔の叫びも響き渡り、慌てふためく悪魔達。

何よりも恐ろしいのは、目の前の男達が深い傷を負っても全く怯まず、まるで痛みを感じていないかのように剣を激しく鋭く振ってくる。嵐の様な霊気を纏って突進してくる。

 悪魔達には目の前の人間達こそが真の悪魔だ、いや、悪魔をも食らう羅刹にすら思えた。こんな人間は惑星ネイにはいない。異常だ。普通じゃない。その状況は遠くの玉座に座って苦慮していたドラッケンにもヒシヒシと伝わっていた。

「くそ!!みんながどんどんやられていく!!」

周囲を強い霊気に囲まれてしまい徐々に精神的に追い込まれていくドラッケン。特に中央前方から突破してくる一人の霊気がやばかった。まるで竜巻の様にこちらの兵力を蹴散らしながら城へとどんどん近づいてくる。

「どうする・・・、どうする・・・」

まともに戦って勝てる気がしない。いつものように一度地中深くに逃げて機を伺うべきか。

 そうしよう。スバルタカシの霊気に戦意喪失したドラッケンが逃走を決意して、さっそく床下にえいっとダイブして潜ろうとしたのだが、ゴツンとぶつかって弾かれてしまった。頭を両手で押さえながらじたばた転げて悶絶するドラッケン。

「ば、馬鹿な!何で潜れねぇんだよ!!ここの物質は霊気をまったく宿してねぇんだぞ!?」

物質に強い霊気が宿っているほど、逃げた際に見つかりづらいが、その霊気が邪魔して溶け込みづらくもある。だから、ネイよりもヴィーナの方が簡単に地中深くに逃げられるはずなのだ。しかし、なぜか弾かれてしまう。

「そうか!今は夜だった!!だからドロールの奴もここから逃げられなかったのか!!」

城の上空を赤黒い雲が覆っているのであまり気にしなかったが、遠くの空は普通に夜空が広がっている。ドラッケンは壁をすり抜けて外に逃げられたはずのドロールが城から逃げられなかった本当の理由に気付いた。すると、慌てふためくドラッケンの頭に直接何者かの声が聞こえてきた。

“敵前逃亡は士道不覚悟、という言葉を知らぬのか?”

「だ、誰だ!!」

“私の名はユリコ。偽りの神が仕組んだこのふざけた茶番劇に終止符を打つ者だ。”

謎の女性の声に翻弄されるドラッケン。偽りの神とは何なのか。仕組んだ、とはどういう事なのか。

 わけが分からないといった様子のドラッケンにユリコは今回の騒動の真相を教えた。何ともふざけた事実を。彼が殺した泥人間も、彼らがこの惑星ヴィーナに転送させられたのも全てその偽神が仕組んだというのだ。

 しかし、その話を聞いたドラッケンは真実を受け入れない。受け入れたくない。そんな馬鹿な話があってたまるか。

「そいつがやったってんなら、どうしてドロールを俺達に始末させたんだ!?」

“あの程度の個体では外で戦っている人間達に敵わないと判断したからだろう。”

ユリコが言うには、要するに用済みになったから始末させたというのだ。あの泥人間は偽神に命令されて国王と王妃を毒殺してこの国を乗っ取っただけ。奴隷制を設けたのも全て、国内外から反感を買って戦争の火種にするためだ。そして、大規模な戦争が起きたら逃がしてやると言われていた。

 最初から逃がすつもりなどないくせに。

「そいつがやったってんなら、どうしてドロールを俺達に始末させたんだ!?」

“あの程度の個体では外で戦っている人間達に敵わないと判断したからだろう。”

ユリコが言うには、要するに用済みになったから始末させたというのだ。あの泥人間は偽神に命令されて国王と王妃を毒殺してこの国を乗っ取っただけ。奴隷制を設けたのも全て、国内外から反感を買って戦争の火種にするためだ。そして、大規模な戦争が起きたら逃がしてやると言われていた。最初から逃がすつもりなどないくせに。

「せん・・・そう・・・?なんで、人間同士じゃなく、俺達を・・・?」

全ては偽りの神が仕組んだゲームなのだ。偽神は人間の運命をある程度は操れるが、意識に関しては、まだ、ほとんど操れない。それでも、使えるものを使って殺し合いゲームを外から眺めて愉悦に浸っているのだ。

 もっとも、偽神は邪気とそれによって具現化した影人間しか異星間移送が出来ないという理由もある。

 そして、前田達が自分達の国を求めていたので目を付けられてしまい、惑星ネイの地中に溜まっていた邪気を与えられた上にこの地に飛ばされ、そうとも知らずにこの国の兵士達を皆殺しにしたのだ。

“どの道、奴に選ばれてしまった時点でお前達に逃げ場は無い。ならば、その体・・・私がもらう!!”

「ちょ!なにし、やめてけれぇ~!!」

ドラッケンは見えない力でピュ~っと強制的に体を追い出されて宙を漂う非力な思念体へと成り下がった。人魂のような霊的物質が宙をふわふわと漂う。そして、目の前に立つ自分の体に唖然としている。

「うむ。なかなか良い体じゃないか。」

声はドラッケンだが、明らかにドラッケンではない。中身は完全にユリコだ。そんな彼女は手に入れた体を吟味するように確認すると、玉座の前に突き刺さっている大剣を引き抜いた。邪気で創り出したものとはいえ、なかなかにセンスを感じさせる豪快な一振りだ。

「なかなか見事な大剣だが・・・、性に合わんな。」

そう言うと、ユリコは大剣を霧散させて代わりに剣闘士達と同じ、片手剣と盾のスタイルへと切り替えた。更に、気合を入れると、マッチョな肉体が更にごつい筋骨隆々のものとなり、太い尻尾が生えてきて背中からは大きな両翼まで出現した。

「破壊衝動を満たすには最低でもこれくらいじゃないとな。これで邪竜剣士ユリコの出来上がりだ。」

“ま、待ってくれ!!オラの体を返してけろ!!”

「うん?何だ、まだいたのか。とっとと失せろ、田舎もんが!!」

そう言うと、ユリコは盾でドラッケンをパコンと引っぱたいてその勢いで地中深くに叩き込んでしまった。意識を失い地中を漂う邪魂。盗賊団の頭領が身ぐるみどころか体ごと盗まれるという情けない結末。食らう側が次の瞬間には食らわれる側となる。これもまた、理不尽な弱肉強食の結果である。

「地下に4人いるが・・・、まぁ、いいだろう。女達に危害を加えている様子もないしな。」

ドラッケン達は従順な奴隷には手を出さない。彼らが欲しいのは張りぼてなどではなく、ちゃんと機能する国なので、むしろ働き手がいないと困るのだ。しかし、そんな野望もむなしく、意識を失ったドラッケンはその後、10年間を無力な思念体としてこの大陸で静かに過ごす事になる。


――決戦――

スバルタカシと2名の剣闘士達は中央突破し続け、ついに水路の石橋をも越えて門をも通過して城の前の大きな噴水がある広場まで辿り着いた。そして、そのまま場内に突入しようとしたのだが、足を止めてその場で再び身構えた。

“何か来る・・・”

タカシを先頭に、2人も身構えて3角形の様な陣形を組む。頭上からとてつもなく恐ろしいほどの殺意が向けられている。そんな3人の前に、それは城の見晴らし台から飛び出し、もの凄い速度で飛んできて地上に降り立った。爆風が周囲に巻き起こる。

「よくぞここまで辿り着いた。フローラ国剣闘士、いや、諜報員スバルタカシ、クリタスグル、そして、オノマキオ。」

“!?”

3人は目の前の悪魔が自分たちの名前だけじゃなく正体まで知っている事に驚いた。

「私は邪竜剣士ユリコ。フローラの剣闘士部隊隊長スバルタカシ・・・、この場にてお前の命、もらい受ける!!」

いきなりのご指名に困惑するタカシ。だが、その直後に全身が淡い緑色の光に包まれると、不思議な事に、消費していた霊力が元に戻り、ここに来るまでの疲労感も一瞬にして消し飛んだ。どうなっているのだろうか。タカシは困惑しつつ目の前の悪魔を睨みつける。すぐにこの悪魔がやった事だと本能的に分かったのだ。

「何の真似だ?」

「殺し合いはフェアにいかんとな。」

あくまで全力で戦う為のものだというのか。悪魔から感じる闘争本能に魂が刺激させられる。

「面白い。お前が何者かは分からないが、受けてたとうではないか。」

そう言葉を発してタカシが戦う姿勢を見せると、スグルとマキオは取り敢えずタカシから距離を取り始めた。そんな2人にタカシは姿勢を保ったまま声を掛ける。

「お前達は今のうちに城へ。娘達はまだ生きているはずだ。」

「分かった。死ぬなよ!!」

「お前達もな!!」

スグルとマキオはタカシに目配せをすると、再びファルスを放出させて城へと駆け込んでいった。そして、この場に残った2人は改めて睨み合う。

「噂に聞くその霊気と武闘術。見せてもらおうか!!」

ユリコは気合を入れて稲光を放つ強烈な赤黒い邪気を纏い始めた。ガタガタと地面が揺れ動き、その波動で背後にある噴水設備が粉々に吹き飛んでしまった。水が周囲に飛び散る。それに対し、タカシも負けまいと稲光を放つ凄まじいファルスを放出し始めた。霊気と邪気がぶつかり合い、相殺し合うかのように地面の揺れが収まっていく。

以下、2人の身体能力情報


◎スバルタカシ

ファルスの基礎値:8118 EP:816 性質:ノーマル EPの基礎硬度:1027.5 EPの肉体強化基礎値:2053.8

AP6万731.6(426.7)、LP20万413.0(1408.1)、S336.0(28.2)

身長及び体重:182.2cm、103.8kg


◎邪竜剣士ユリコ

邪気の基礎値:6269 EP:750 性質:ノーマル EPの基礎硬度:1080.0 EPの肉体強化基礎値:1316.4 

AP6万211.3(858.8)、LP19万8694.5(2834.0)、S342.0(43.0)

身長及び体重:184.6cm、198.1kg

〇補足

苦手な性質はないです。また、ユリコの力によってPが1.35倍、Sが1.26倍に上昇し、更に、EP(圧、硬度、強化)もそれぞれ約1.15倍、1.27倍、1.09倍に上昇しています。


――ドン!!――

互いに睨み合う中、先手を取ったのはタカシだった。大地が陥没するほどの強烈な踏み込みからの時速300kmを超える超高速による移動で一瞬にして距離を詰めたタカシがそのまま強烈な斬撃を振り下ろした。

“ガギン!!”

しかし、ユリコは斬撃を盾で受け止めた。その直後に凄まじい衝撃波が周囲に巻き起こる。そして、今度はユリコが鋭い切り上げを繰り出す。すると、タカシはこれを盾で受け流しつつ、反転して裏拳のようにユリコの首目掛けて回転切りを繰り出した。

“ブン!!”

しかし、ユリコはこれを即座にしゃがんで綺麗に躱した。そして、瞬時に後方へ飛び退くと、宙に浮いたまま大きく息を吸い込んで口から灼熱の炎を吐き出した。

“ゴアアアア・・・!!!”

タカシを2万7000度もの高熱の炎の波が襲い掛かる。地面を瞬時に焼き焦がし、周囲の空間が大きく歪むほどの熱波。しかし、タカシは怯まず、ファルスを集中させて熱を防ぎつつユリコの気配を頼りに炎を波に向かって突進した。そして、視界にその姿を捉えるや否や一瞬で距離を詰めて鋭い突きを繰り出した。

“ザシュ!!”

タカシの突きが斬撃を躱しきれなかったユリコの右肩をかすめ、ユリコは直後に尻尾を高速で振り払って反撃に転じた。そして、これをタカシが盾でブロックしたが、その衝撃で防御態勢のまま後方へ飛ばされ、それを追うようにしてユリコは猛突進していき、ここから凄まじい乱撃戦となり、互いに一歩も引かない状況が続いた。凄まじい衝撃音が夜の街に響き渡り、その衝撃波で広場の周囲にある城壁や外堀の壁が次々と崩れていく。そんな中、タカシはすぐに異変に気が付いた。斬撃を当ててユリコに手傷を負わせても、即座に傷口が塞がってしまうのだ。傷が入った盾ですら一瞬にして元通りになってしまう。

“肉体の修復が早すぎる!!”

悪魔は肉体を高速再生させるが、ユリコの再生速度はこれまで戦ってきた悪魔達とはまるで別次元の速さだった。その一方、ユリコはニヤリと笑みを見せている。

「大した男だ!心技体揃った、まさしく強者よ!それでこそわざわざ出張ってきた甲斐があるというものだ!!」

両者が激しくぶつかり合う中、ユリコが再び距離を取ると、今度は剣に邪気を溜めて勢いよく振り上げて邪気の刃を飛ばし始めた。だが、タカシはこれを冷静に躱し、或いは盾で受け流しながら距離を詰めていく。飛んできた霊気の刃によって離れた場所にある会議棟や遊戯棟までも崩壊し、もはや廃墟の様な状況となっている。

“ギキン!!”

互いの剣が火花を散らしながらぶつかり合い、衝突の度に薄暗い広場を火花が照らしていく。そして、互いの渾身の一撃が衝突し、そのまま剣と盾の力比べとなった。ユリコの気合の叫びと共にタカシの足元が大きく陥没し、また、それを押し返そうとするタカシの気合の叫びと共にユリコの足元も大きく陥没した。至近距離で互いに睨み合う。

「お前は何者だ!!その体、お前のものではあるまい!!」

タカシは居住区域での戦いの最中でも城内で起きた邪気の変化に気づいていた。ボスと思われる強い邪気の質がいきなり変化した上に、大きく強化されたのだ。

「よく気が付いた、正解だ!この体の主は地中でおねんねだ。もっとも、再びこの体と一つになることはないがな!!」

「何だと!?」

不可解な出来事が目の前で起きている。悪魔が他の悪魔の肉体を奪うなど聞いたことがない。目の前にいるのは悪魔を食らう悪魔だとでも言うのか。

「しかし、まさか、僅かな邪気の変化を捉えるほど霊気のコントロールが可能とは。流石は我が母なるヴィーナの子と言うべきか!!」

「どういう事だ!!」

「知る必要はない。知ったところで、お前達この星の人間は、これからも他所の星の人間の欲望を、負担を背負い続けるのだからな!!」

ユリコは剣を強引に押し切ると、そのまま後方へと下がって距離を取りつつ、その場でしゃがみ込むようにして剣を地面に突き刺した。

“ザン!!”

何と、スバルタカシの足元から漆黒の刃が付きあがってきたのだ。しかし、タカシは反射的にそれをサイドステップで躱し、尚も次々と地面から襲い来る刃を躱しつつ剣に霊気を込めていく。

――ブン!!――

タカシが剣を振り上げると、ユリコが見せたように霊気の刃が彼女に向かって飛んで行った。驚きつつ辛うじて刃を躱すユリコ。背後にあった外堀の壁がズバンと斬り崩された。そして、尚も2撃、3撃とタカシが次々に刃を飛ばしてくる。戦闘中にユリコの技を盗み取ったのだ。ユリコもまさかここまで出来るとは思っていなかった。

「やりおる!!だが、そうこなくてはな!!」

その後も激闘は続き、タカシの鍛え抜いた剣技は徐々にユリコを押していった。しかし、ユリコは傷を負っても直後に修復してしまうのでタカシに焦りの色が見え始めてきた。そして、状況は一変する。

“ガキン!!”

ユリコがタカシの斬撃を受け止めたと同時に宙返りをしてタカシの体を上空へと蹴り上げた。“ドゴン”という鈍い音と共に空高く舞い上げられるタカシ。苦痛に顔を歪める。そして、ユリコは、タカシを追うようにそのまま飛び上がって空中戦へと持ち込んだ。

「我が機動力に付いてこられるかな?」

その大きな両翼が生み出す機動力による緩急を付けた攻撃がタカシを襲い掛かる。“ズババン!!”とユリコの斬撃が次々と入ってタカシの右肩、左太ももに入り血飛沫が舞い上がる。苦痛にタカシの表情が歪む。圧倒的な空中での機動力の差が徐々にタカシを追い詰めていき、ユリコの高笑いが響き渡る。

「それにしても、あの小娘もなかなかに強かな女だ。奴隷解放を大義名分に掲げて国の乗っ取りを企てるとは!!」

ユリコの猛攻に防戦一方のタカシ。反撃に転ずるも剣は空を切るのみ。地上に戻ろうとしても、空中での圧倒的起動力で先回りされつつ邪気の刃がいくつも飛んできて押し戻されてしまう。

「もっとも、この体の主に殺された人間モドキが統治し続けるよりかは遥かに有意義だがな!!」

“人間モドキ?”

気になる言葉が聞こえてきたが、今はそれどころではない。ユリコの邪気の刃に対応しきれなくなってきて、更なる窮地に立たされるタカシ。四方八方から死の刃が飛んでくる。

“このままでは・・・!!”

防御し続けるだけとなって血だらけになっていくタカシ。死の刃に額も切られ右目に血が流れて視界までもが封じられていき、絶体絶命の危機に陥った。




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