第4話
――アクマ商会――
アクマ商会はサクラ都コンゴウ区猫手町に本社を置く、100年以上も前に会長のオウ・ダイマが全国各地の建設会社の経営者らに声をかけて組合を結成させたのがきっかけで生まれた企業で、現在は全国の区画整理や原油プラントの建設などこの国の経済を支えている国内最大手のグループ企業となっている。
“プルルル・・・、ガチャ”
『はい、ダイマです。』
「おう、ダイマか?ちょっと頼み事があってな。」
ヴィステの事務所にある固定電話と彼女のショルダーホンは専用回線を使っており、アクマ商会の会長室にある電話と直に繋げることが出来る。
「フィオナって娘を知っているだろ?テイシャンのラグウェル家ってとこの娘。その子に旦那の犯人を捜して欲しいって頼まれてさ。」
ヴィステの話を聞いて深い溜め息をつくダイマ。本当ならフィオナに助力して事件を解決に導いてやりたいところなのだが、難しい立場もあって中々それが出来ないでいる。忙しくて警察に任せっきりなのだ。
「でさ、警察の調査資料が見たいから、ちょっと話を通しておいてほしいんだ。」
『分かりました。警察庁長官には連絡を入れておきます。』
「よろしく。あと、旦那の交友関係を当たりたいから、悪いんだけど、旦那と特に仲が良かった、柳原って男と、鳴神って男の2人の現住所と電話番号を調べてほしいんだ。」
『ヤナギハラ、ナルカミ・・・』
「覚えてないか?フィオナがティファの影人間2人に襲われた時に、ジョージと一緒に彼女を助けた2人なんだけど。お前が紡いだんだろ?一部改悪されたみたいだけど。」
『・・・あぁ、あの2人か。分かりました。総務大臣に連絡を入れて調べさせますので、分かり次第、連絡します。』
「よろしく。」
『調べるのは、その2人だけで良いですか?』
「そうだな、今はその2人だけでいいや。また、調べてほしい人物が出てきたら連絡する。」
『分かりました。』
「いつも助かるよ。」
アクマ商会の会長の協力を得たヴィステは、まずは当時の捜査資料を拝見すべくベロニカ警察署に向にした。
事務所から車を北に1時間ほど走らせて警察署に辿り着いたヴィステは、駐車場に車を停めて外に出ると、警察署全体やその周囲を見渡した。駐車場の広さもそうだが、建物自体が大きい。
――ベロニカ警察署――
ツバキ市のツバキ市の中枢に位置するベロニカ区にある警察署で、市内にある警察署の中では最も大きな建物となっている。
「さて、何が分かるのか・・・」
ヴィステはさっそく1階の入り口を通って近くにある総合受付に向かった。ロビーには多くの市民らしき私服姿の人達がうろついており、カウンターの向こう側には事務処理をしている警察官らの姿が見える。そんな普通の光景だが、ヴィステの目には僅かの間ではあるが、彼らとは別に、過去の者達の姿も、今いる彼らと交差するようにして映し出されている。これは、建物が記憶したもので、建物に宿った当時の彼らの思念、とも言える。彼女の目にはよくこれが映し出される時がある。そんな中、ヴィステは受付にいる若そうなルシェイン系の女性事務官に声を掛けた。
「あの、すいません。私、桜坂探偵事務所の山田、という者なんですけど。」
ヴィステの言葉を聞いて、女性事務官は目を見開いた。その様子から、どうやら、自分が思っていた人物像とはかけ離れていたようだ。まさか、こんなに若そうな女性が来るとは思ってもみなかったのだろう。
「あ!少々お待ちください。」
女性事務官は少し慌てた素振りでどこかに連絡をし、しばらくして、ヴィステの前に1人の大和系の女性警察官がやってきた。この女性も若そうな感じがするが、ヴィステを見るや否や、やはり驚いたといった表情を見せた。
「山田さんですね?お話は伺っておりますので、どうぞ、こちらへ・・・」
「あ、すいません。」
ヴィステは女性警察官の後について階段に向かった。廊下ですれ違う警察官達が彼女を気にしてチラチラと見てくる。姿恰好もそうだが、上からの連絡が署長を通じて色々と噂が広まったのだろう。
“この人、歳いくつなんだろ・・・、ってか、背が高いな・・・、180以上はありそう。”
色気を漂わせる雰囲気もそうだが、顔が整い過ぎているせいで、かえって不気味さを感じてしまう。前を歩く女性警察官は色々と勘ぐっているようだ。その背中からひしひしとそういった感情がヴィステに伝わってきて、ヴィステも微笑しながら後について歩いていく。そして、2階の第3会議室まで連れてこられ、入口のドアを開けて中へ入ると、テーブル席に座っている1人の男性警察官の姿が目に飛び込んできた。ボリューム感たっぷりのアフロヘアーのマッチョな体形のナハトリア系(黒髪茶瞳褐色肌系の人種)の警察官だ。年齢は30代前後といったところか。
“あれっぽいな・・・”
テーブルの上には資料らしき黒い書類が何冊かある。当時の状況を書き記した捜査資料ファイルだろう。ヴィステが資料に目をやっていると、男性警察官がヴィステの姿に、やはり少し驚いたといった表情を見せつつ、席から立って2人の方に歩み寄ってきた。
「刑事部捜査第一課の金川です。どうぞ、よろしく。」
「山田です。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」
捜査資料の閲覧の立ち合いをしてくれる彼の名前はモウリーニョ・Y(安浦)・金川。刑事部捜査第一課に所属する準キャリアの警察官で、3年前に起きた事件の捜査を担当していた。また、悪魔対策本部ツバキ支部の隊長でもある。
――悪魔対策本部――
この世界は割と普通に悪魔が出現する関係もあって、その対策として身体能力と霊的能力に秀でた警察官をもって特別部隊を組織している。それを統括しているのがサクラ都にある中央警察庁に設置されている悪魔対策本部である。
「それでは、失礼いたします。」
女性警察官はモウリーニョに一礼をして扉を閉めて部屋を去っていった。そして、ヴィステはモウリーニョから席を案内されて座ると、改めて部屋を見渡した。TVドラマ等でよく見る、いくつものテーブルが並べられた大所帯用の広い部屋ではなく、部屋の奥に1台のテーブルがあり、その手前を10台のテーブルが2列に別れて整然と並べられている、割と小さな会議室だ。
“まぁ、資料を見せてもらうだけだから、資料室とか、そういう場所のわけないか。”
少しがっかりするヴィステ。ただ、ここを出入りしている警察官達の残滓は感じる。そんな彼女をじっとテーブル越しに見下ろすモウリーニョ。それは、どこか不思議な感覚を覚えたからだ。顔立ちは、それこそ10代にも見えるのに、なぜか年上と接しているような感じがする。雰囲気が妙に落ち着いている気がするのだ。
“こんな美人がいるもんなんだな。でかい大和人形が動いているみたいだ。”
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、しっかし、所長の命令とは言え、あなたは一体何者なんですか?妙な力を持つ探偵がサクラ都にいるって噂は聞いていましたけど。」
「まぁ、ちょっとコネを持っているだけですよ。」
おどけてみせるヴィステ。そんな彼女から不思議な魅力を感じつつ、モウリーニョは彼女の前に3年前の事件の捜査資料を置いた。すると、ヴィステはさっそくとばかりに捜査資料の閲覧を始めた。
“なんか、刑事ドラマみたいでいいね。”
ヴィステはパラララッと素早く内容を確認しつつ脳に記憶していき、モウリーニョが怪訝な顔つきで彼女の様子を見つめる。何をしているのか、と。そして、ヴィステは内容の全てを頭に叩き込んだのだが、険しい表情を浮かべる。
「・・・これ、情報量が少ないのもそうですけど、捜査した期間がちょっと短くないですか?」
「いや、まぁ・・・、その・・・」
ジロリとした目つきで見上げてくるヴィステに苦い表情を見せるモウリーニョ。彼の話によると、捜査を始めて3日目でなぜか市長の圧力が掛かったらしく、署長から捜査の打ち切りを早々と命じられてしまったのだ。今でも捜査の再開は行われていない。その事実に呆れた表情となるヴィステ。
「あのさぁ、被害者の奥さんは今でも捜査してくれているって、ちょっとは思っているんですよ?」
「いや、私としても綾瀬課長の息子さんが亡くなった事件なんで、何としても犯人を見つけ出したいですが、どうにも・・・」
「綾瀬課長?」
どういう事なのだろうか。ヴィステは詳しく話を伺ってみた。すると、どうやらモウリーニョは警察官になりたての頃はレヘイム州のコッペ市警察の地域課に所属して交番勤務していたようで、その時の庶務課の課長を務めていたのがジョージの母親のサンドラだったらしい。
「課長も、もう7,8年経つかな・・・?船で起きた悪魔絡みの事件に巻き込まれて亡くなっていますし・・・」
「そう言えば、依頼人もそんな話をしていましたね。ご主人の両親が亡くなったと。」
ジョージの両親は8年前に起きた大型客船火災事件で死亡している。海を北西に越えた先にあるルアーヌ大陸の東部を治めるルミアス共和国へ大型旅客船で旅行しにいったのだが、同じく乗客として乗り込んでいた反社会組織カブキファミリーの幹部の正体が悪魔だったのだ。
「課長が亡くなれたので何とも言えませんが、多分、彼女はその幹部が偽物だと気付いてしまったんじゃないですかね。」
「偽物?」
ファミリーの幹部ヴォルノフはフローラ州の西に隣接するインダスラル州の中心都市に構える支部のトップで、サンドラが若い頃に同市警察署の地域安全課に所属していた時からの顔馴染みだった。だからこそ、偽物が醸し出した違和感に気付いてしまったのでは、と警察は推察した。
「何でも、その悪魔はドロボウと呼ばれる類の化物だそうで。」
ドロボウとは泥で出来た悪魔のことである。ドロールとも呼ばれ、世界中にある古い文献にもその存在が記載されており、少なくとも1000年以上も前から存在しているようだ。人の命を奪って、その者の姿を真似る泥の擬人という意味でそう呼ばれているらしい。
「泥棒か・・・、確かにそうかもしれませんね。」
ドロボウは確かに存在する。ただ、その全てが何者かに倒されており、それが誰なのかは分からない。そして、その名前は天使がミミ教会に伝えたもののようで、古くから各地で伝承されているとのこと。
「ってことは、本物は・・・?」
「殺害されていました。」
本物のヴォルノフはインダストラル州クロックス市南部にある山林地域の場所にあるキャンプ場近くの森の中で発見された。カラスが騒いでいたのを不審に思った利用客が発見したようで、遺体はバラバラにされた上に、全て別々の木に釘で打ち付けられていた。まるで晒し者にでもするかのように。損傷が酷くて正確な死亡推定日時は分からなかったが、少なくとも、旅客船事件の1週間前には殺害されていただろうと推測された。
「本人は部下達を連れて帰郷するつもりだったようですね。」
チケットは事故の2週間前に予約されていたもので、ヴォルノフは故郷にいる妻と娘達に会いに行こうとしたようだ。しかし、それが叶う事はなく、悲しみの対面となった。その話を聞いたヴィステは複雑な心境となった。そういう人間でも家族はいるのだから。反社会組織、犯罪者は社会に忌み嫌われる存在だ。しかし、その家族には罪はなく、犯罪者といえども人なのだ。家族や恋人への思いだってある。
「あと、これも本当かどうか分からないんですけど、教皇ユリコの亡霊が現れた、って話も出たんですよ。」
「あぁ、なんかそんな噂が広まっていたみたいですね。」
サンドラは乗船していた子供達を守る為に悪魔達と最後まで戦い抜いた勇敢な女性警官として当時は大きく取り上げられた。ただ、事件が大きく取り上げられたのはサンドラの活躍だけではない。その時に、謎の黒い法衣を纏った女性が現れたからだ。助けられた子供達の話によると、深手を負って倒れ伏したサンドラの前に突如として姿を見せて、目にも止まらぬ早業で悪魔達を葬ってしまったのだという。
「ユリコの亡霊か・・・」
――教皇ユリコ――
およそ700年前に実在した人物で、ルアーヌ大陸の西に位置するルーンブルクの首都アキバーンにあるミミ教会の組織中枢たる法王庁の長にして同国の最高権力者だった女性だ。そして、それまで続いていたルアーヌ大陸西部の60年に及ぶ戦争を終結させた英雄でもあった。
「当時は新聞なんかでも取り上げられて、特にルーンブルク国内はその話題で持ち切りだったみたいですね。」
目撃した搭乗者の話では、中高生くらいの少女の様な顔立ちだったとか。モウリーニョの話にヴィステは、ふむ、ふむ、と頷いている。悪魔に関わるのは決して珍しい事ではない。この星の人間にとって、悪魔という謎の霊的生命体は常に現れ得る存在なので、日頃から警戒して生きていかねばならないのだ。
「亡くなられた綾瀬課長の為にも、絶対に犯人を捕まえようと必死に捜査したんですが・・・」
物証は現場に残された弾丸くらいで特に目撃者もなく、更に、市長が圧力を掛けてきて捜査は打ち切られてしまったというわけだ。
「しかし、そもそも、何で市長が?」
「息子のワルオが犯人だと思ったみたいで、それで署長に掛け合ったらしく・・・」
――ワルオ・D(ダ)・ヨーン――
ツバキ市の市長のマルクスの息子で、小学生の頃から町で不良少年らとつるんで傷害事件などを頻繁に起こしていた男である。ジョージが殺害された日の1週間前に繁華街で起きた発砲事件の首謀者として疑いを掛けられていた。
「署長がどうも、市長の学生時代の後輩らしくて・・・」
先輩後輩の仲で尚且つ長い付き合いという事もあって、ある程度の頼み事は聞いているらしい。ただ、息子のワルオにはアリバイがあって、結果的には白として被疑者から外されたのだが、一度打ち切ったせいもあって、捜査の再開はしていない。ベロニカの繁華街は何かと問題が多い場所なので、人的な余裕が無い、という理由もあるようだ。
「被害者の奥さんの両親が亡くなった事件は知っていますか?」
「あれですよね?その資料にも載ってますけど、市内のデパートのレストランで爆発事件が起きたとか。デパートで爆発事件が起きたとか。」
「はい。あれもワルオが関与していると睨んで捜査をしたようなんですが・・・」
モウリーニョは関連事件としてまとめられているページを開いて説明をし始めた。その話によると、事件はデパートのレストランに設置された時限式の爆弾によって起きたもので、デパートに設置されていた防犯カメラの映像から、15歳と16歳の2人の少年が被疑者として上がった。しかし、その2人が事件の1週間後に市内の港で死体となって発見されたようだ。2人とも胸に風穴が空いて心臓が無くなっていた状態で発見されたようで、凶器は分かっていない。
「恐らく、霊的な攻撃によって殺害されたのでしょうけど、詳細は分かりません。」
「まぁ、遠からずなんだろうけど、どうしてワルオが疑われたんですか?やっぱり名前?」
「名前?いえ、ワルオは昔からその少年らが住んでいたアルメリア地区に出入りしていたからだそうです。」
「アルメリア地区って、確か貧困層が多く住んでいるとこですよね?」
「そうです。金さえ手に入れば何でも、って住民が多かった場所です。今はだいぶ改善されて治安も良くなっていますけど。」
デパートで起きた事件は犠牲者が犠牲者なだけに大きな国際問題に発展し、大統領のデビッド・B(ベイカー)・木村が大激怒して市長のマルクスに代わって強制的にアルメリア区の大改善を行った。そして、恵まれない子供の為の養護学校や賃料の安い公営住宅がいくつも建てられ、仕事の斡旋等も積極的に行った事で治安が劇的に良くなったのだ。
「大統領が有能なのは分かったけど、市長は何をしとるんですか?」
「まぁ・・・、財源の問題もあるでしょうし、一応、都市部の発展には大きく貢献している方ですので、何とも・・・」
マルクスが市長になってからベロニカ区を中心に市は大きな発展を遂げ、その恩恵を受けている市民の評判は高いのである。そんなマルクスはアルメリア地区を昔から毛嫌いしていたらしいのだが、それでも市長選を勝ち続けているのだから、それだけ当時のアルメリア地区に対する世間の偏見が大きかったのだろう。
「貧乏人だって、好きで貧乏やってるわけじゃないのに・・・」
「そうですね・・・。この仕事をやっていると、そう思う時がよくあります。」
この国における犯罪率と加害者の収入の低さは強い関連性があり、モウリーニョら警察官達も犯人に同情してしまう場面も多い。特に、アルメリア地区は親に捨てられた子供が多かったので尚更だ。そして、他の国々でもそうだが、学歴社会となって貧富の差がますます拡大しているのも問題視されている。
「その少年2人は、周囲に、学校に通えるかもしれない、と話していたそうです。だからと言って、彼らがやった事は決して許されるものではありませんけど・・・」
「悲しいですね・・・」
この国は、その事件がきっかけで公立高校の授業料が無償化となった。何かのきっかけがなければ、なかなか自分を変えようとは思わないし、思えない。それは、社会も同じなのかもしれない。
「話が逸れましたが、その爆破事件について、被害者の娘さんが事情聴取の際に、気になる事を言っていたようで・・・」
資料によれば、フィオナは爆破事件の2週間ほど前に繁華街で友人達と買い物をしていたところ、ワルオからナンパされたのだが、それをやんわりと断ったらしい。友人達もそれは証言している。
「ナンパして断られたから、その腹いせってか?流石に、それは無いんじゃないですか?」
「いえ、ワルオは誘いを断った女性を脅迫した事があったようなんですよ。逆らって行方不明になっている者もいるとか。」
ワルオという男は自分の手を汚さず、そのカリスマ的な人気もあって、彼を慕う手下達が勝手にやる事が多いので、多くの事件で疑いを掛けられているものの、これといった証拠がなく逮捕されずにいる。市長が裏で手を回している可能性も捨てきれない。
「まぁ、そこら辺は、今はいいです。それよりも、この事件ってあれですか?凶器の拳銃は特定できていなかったんですか?」
「えぇ、3つに絞り込めたんですけど、その内のどれかまでは・・・」
ヴィステが1冊の捜査資料ファイルのページをパララッと捲って特定の箇所を広げた。そこには犯人が使ったと思しき拳銃の写真が3枚あって、銃身が白にグリップが黒、銃身が黒にグリップが茶色、銃身がピンクにグリップが白と、色こそ違うもののどれも似たような形をしたタイプのようだ。モウリーニョの話によれば、当時は拳銃の密売が不良少年グループを対象に行われていて、現場脇の雑居ビルの壁に残されていた弾痕とジョージの遺体から採取された銃弾から、3つの拳銃がリストアップされた。
「ピストンS69、ワルーサP19、レディガードZ22・・・」
「この3種類の拳銃は名前こそ違いますが、製造元が不明で、デザインこそ違いますけど、同じタイプの鋼材を使ってライフリングをしているんです。」
テイシャン公国を中心に出回った為に製造元は、そこに拠点を置く世界的にも有名な拳銃メーカーのピストル本舗ではないかと疑いがもたれたが、製造記録やその証拠等が一切出てこなかった。そのほとんどの入手経路が裏社会を中心としたものだったので密造銃と推測されて捜査されたが、結局どこで作られたのかは分からなかった。
「ただ、それを調べていた時に“創世会”という名前の組織が出てきたんですよ。」
――創世会――
どこに拠点があるのか分かっていない謎の組織。拳銃や麻薬の密造・密売に大きく関わっているとされているが、真相は全く分からない状況にある。
「創世会ね・・・。なるほど。そんで、その1つを手に入れた何者かが犯人の可能性が高いのか・・・」
「恐らくは。ただ、短い期間とは言え、ワルオと彼の関係者らに聞き取りを行ったのですが、これといった物証は・・・」
溜め息をつきながら首を横に振るモウリーニョ。彼もワルオとその取り巻き連中を疑って聞き取り調査を行ったのだが、誰も彼もアリバイがあって検挙には至れなかった。だから通り魔の可能性が浮上してきたのだ。全員の家宅捜索が出来たなら、また違ったかもしれないが。
「それと、この“ローファー”という、被害者が残した言葉の意味は?」
「それも分からなかったんですよね。犯人が特徴的な革靴を履いていたんじゃないかって推測して聞き込みを行ったんですけど・・・」
ただ、ブランド名ならまだしも、死の間際に革靴をローファーと言うだろうか、という意見も多かった。しかし、捜査が中断してしまったのでそこら辺もうやむやになったままになっている。
「・・・そうですか。当時の状況は大体分かりました。多分、そのワルオとかいう男は犯人ではないでしょう。」
テイシャンの貴族に牙を向けば国が動く、って事はもはや分かっているはずだ。仮に、フィオナの両親の殺害に関与していたとしても、彼女自身にはもう関わろうとはしないはず。恐らく、別の人物が何かしらの理由で犯行を行ったのだろう。
「何か思い当たる人物でも?」
「いえ、それはまだ。明日か明後日にでも被害者の故郷に行って、ちょっと聞き込みをするつもりです。何か分かるかもしれませんので。」
「そうですか、何か分かったら署に連絡を入れてくれれば助かります。もしかしたら、何か手伝えるかもしれませんし。」
「分かりました。」
ヴィステはモウリーニョに礼を述べて警察署を後にすると、一旦事務所へと戻り、ダイマからの連絡を受けてジョージの親友の2人の現住所と連絡先を掴んだ。そして、ジョージの実家に向かうべく、まずはフィオナから教わったオリビアなる女性に連絡を入れる事にした。
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