第5話:愚父追放
「父上はもう領地に帰ってください」
「そんな、私が領地に向かっている間に他国に逃げるのではないか」
本当に臆病で情けない男ですね、この男の言葉通り、こいつを置いて他国に亡命したくなりますが、それではクリスティアンの願いを無視することになります。
城伯や方伯の地位くらいなら、どこの国に亡命してもクリスティアンに買ってあげられるのですが、流石に公爵位を金で買うのは難しいです。
ここはもう少し我慢してあげましょう。
クリスティアンに感謝しなさい、愚父よ。
ですが徹底的に脅かしておくほうがいいですね。
「なんなら貴男が王都にいる間に、他国に亡命してもいいのですよ。
そうなったら、貴男は直ぐに王家に逮捕され処刑される事でしょう。
領地にいれば、万が一の時でも家臣達が籠城して護ってくれるますが、貴男は王都で逮捕処刑される方を選ぶのですか?」
「ヒィイィィィィ、帰ります、帰ります、領地に帰りますから、どうか領地に帰りつくまでは亡命しないでください!」
この愚父が領地にいれば、例え相手が王家の使者であろうと、家臣達が病気と偽って誰にも会わせないようにしてくれます。
本人も領城の奥深くで軟禁されている方が安心できるでしょう。
女遊びだけはできないですが、他はどんな贅沢も可能です。
いえ、女遊びも城代が口の堅い未亡人を手配してくれるかもしれませんね。
「父上、姉上にお任せすれば何の心配もありません」
「そうですよ、貴男、何も心配する事はありませんよ。
貴男は領地で心静かに暮らしておられる方が幸せだと思いますよ」
クリスティアンは父の本当のお愚かさを知りませんから、優しくなれます。
でも母上は本当に情けない思いをされましたから、すでに父を見捨てています。
口では労わっているような事を言っていますが、もし父が死んでも全く哀しむ事はないでしょう。
表向きは哀しむ演技をしてくれますが、最初から政略結婚だった相手で、しかも度し難い愚か者なのですから、憎んでいないだけましだと思います。
ひとつ間違えたら、お腹を痛めて生んだ私やクリスティアンが、路頭に迷っていたかもしれないのですから。
「では、後の事は頼みましたよ」
私は父の護衛隊を裁量する騎士に全てを任せました。
チャーチル公爵家の家臣は、騎士四騎と従騎士四十騎にすぎませんが、自由騎士まで加えた腕利きの傭兵を四百騎も雇っているのです。
もし王家が騎士隊を投入してきても十分対応可能です。
王家が私に隠れて騎士団規模の動員を行うのは不可能です。
いえ、それ以前に国王も騎士団長も将軍も、全員病床から起きる事もできないのですから、なんの心配もありません。
「ガルド、明日から魔境とダンジョンで訓練しましょう」
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