第3話:国王と王妃の圧力と対抗策

「ラニージャ、すまない、ちゃんと奏上したのだが、受け取ってもらえなかった。

 本当だ、嘘は言っていない、信じてくれラニージャ」


 父が勇気を出して私の書いた婚約解消届を国王に差し出したのは本当です。

 ですから今直ぐ切り捨てる事はしません。

 ですが、国王と王妃に睨まれて直ぐに引き下がったのも事実です。

 役立たずなのはいつも通りですから、当てにできないのも真実です。

 問題は隠居願いまで却下されてしまった事です。

 これでは私が乗り出して交渉する事もできません。


「婚約解消届も簡単に引き下がる、隠居願いも簡単に引き下がる、それで本気で交渉する気があったは思えませんね。

 別に届けを出さなくても、死んでしまえは当主は交代するのですよ」


「ヒィイィィィィ、殺さないでくれ、殺さないでくれ、お願いだラニージャ」


 本気で怖がっているようですが、心外です。

 私が本当に実の父親を殺すような外道だと思ってるのでしょうか。

 確かに父を騙して金を返す気のない連中には、情け容赦のない制裁を加えました。

 その為に必要な費用なら、惜しみなく使って思い知らせてやりました。

 その所為で「取立て令嬢」だけでなく「死神令嬢」と言う綽名までつけられましたが、そのお陰でもう父を騙そうとするモノはほとんどいません。

 誰だって金を返さない代償が確実な死なら、騙そうとはしませんからね。


「殺されたくないのなら、今度は貴族院と大神殿に婚約解消届と隠居届を出してきなさい、嫌だと言うのなら本心では婚約解消も隠居もしない心算だと判断しますよ」


「ヒィイィィィィ、行きます、行きます、直ぐ行きますから殺さないでくれ、お願いだラニージャ、隠居できた方が私も気が楽なのだ、私も本心から隠居したいのだ」


 まあ、父の言う事に嘘はないでしょう。

 父のような気の弱い人間に公爵家当主は荷が重すぎるのです。

 早々に隠居した方が父のためだというのは、父を騙す気のない貴族なら共通した認識ですが、問題は跡継ぎ問題だったんですよね。

 私は女で王太子の婚約者ですし、弟のクリスティアンは幼過ぎましたからね。

 でも私が中継ぎで女公爵になるのなら、何の問題もありません。

 「取立て令嬢」と「死神令嬢」の仇名をいただいていますから、舐めた態度を取る貴族も皆無です。


「では新たに、チャールズ王太子が離婚歴のあるベネット女子爵と結婚の約束をしているという手紙を書きます。

 これを見ても大神官も貴族院議長も動かないようななら、教国の教皇猊下に訴えると伝えてください」


「頼むラニージャ、それも手紙に書いてくれ、私にはとても伝えられそうにない」

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