心霊写真
すでおに
心霊写真
霊を茶化したり面白がったりしてはいけない。
多くの人が一度は耳にしたであろう、死者への冒涜を禁じる戒めです。単に道徳的なものか、あるいは災厄を招かぬためか。真意は定かではありませんが、僕はかつてこの戒めを破ったために憂き目に遭ったことがあります。
あれはまだ小学生の頃、友達と心霊写真を撮ろうという話になったんです。ちょっとしたアイデアを思いついたからで、それはというと指先を水で濡らして電信柱に顔を描く。少し乾いて薄くなると、そこに霊が出現しているのように見えるんです。当時はスマホなんてありませんでしたし、デジカメも普及し始めたばかりで写真の加工技術は未熟でしたから、心霊写真は今よりずっと信憑性がありました。
これは面白い。テレビに送ったら採用されるかもよ。と盛り上がり、実際に撮影することにして、S君が家からカメラを取ってきました。何の変哲もない当時の一般的なフィルムカメラです。
友達に肩車をしてもらって電柱に顔を描きました。凝ったものだと逆に偽物っぽくなるので、目と口だけのシンプルな顔です。少し乾くのを待って、僕らは電柱の下でピースしたりじゃれあったり、カモフラージュしてシャッターを切りました。
心霊写真が撮れた。目元を黒い線で伏せられた写真がテレビで流れる様を想像しながら、現像されるのを待ちました。
何日かして写真が出来上がりました。心待ちにしていた僕らでしたが、S君から手渡されたその写真を見て、言葉を失いました。描いた顔が、写真の真ん中にあったんです。シャッターを押したS君は顔に焦点を合わせていたのでした。
心霊写真は霊が主役であって主役じゃない。『天才バカボン』の主役がバカボンのパパであるのと同じです。
S君は写真を見てようやく過ちに気付いた様子で、どうにかして話題を逸らそうとしていました。
霊を茶化したり面白がったりしてはいけない。身に沁みました。
心霊写真 すでおに @sudeoni
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