最終章 新たな未来編

第80話 新たなひろみ

 チュンチュン チュンチュン


「うーん……もう朝かぁ……」


 ……


 ……へ?


 何?


 私、ついさっき死んだんだよね?


 それじゃぁ、ここはどこなの?


 見たことの無い天井に壁……窓から見える風景……


 ここって天国……?


 天国って一人一人に部屋が用意されているのかしら?


 それに何、私の手……とても小さい……


 ま、まさか!?


 私は慌てて飛び起き、そして部屋に設置している小さな鏡台の前に座り、恐る恐る鏡に写る自分の顔を見た。


「誰?」


 鏡の前に写っているのは見た事も無い、見た目は五、六歳程の幼女だった。


 これは一体、どういう事なの?

 何が起こっているの?


 これが小さい頃の私の顔だったら多少の理解ができた。

 

 『もう一度、石田浩美としてやり直し』なのかなと……

 それはそれでちょっとキツイけど……


 でも目の前に写るその顔は全然知らない顔……ただ、どことなく見覚えのある顔ではあるのだけど……


 ふと私は壁に貼られている何かのアニメのカレンダーを見た。


「平成八年三月……?」


 平成って何? 元号? それじゃぁ、昭和はどうなったの?


 っていうか、今回は私、漢字が読めるんだ……

 うーん……何がなんだか分からなくなってきたわ。


 私がカレンダーを見ながら戸惑っていると部屋の外からとても優しい女性の声がした。


「広美、起きているの? そろそろ起きないと遅れるわよぉ」


 この声……どこかで聞いた事があるような……


 私は咄嗟に返事をした。


「うん、起きているよ……」


「はーい、それならいいわ。早く顔を洗いなさいね?」


「は、はーい……」


 とても優しい声だなぁ……今の声はお母さんなのかな?


 でも、今の声……あっ、ま……まさか……



 私は恐る恐る、部屋を出ると目の前に階段があったので下の階に降りる事にした。


 そして階段を降りると直ぐにリビングがあり、誰もいなかったが、テレビの音が流れていた。


 あれ? 誰もいない。


 そして何気にテレビを観ると私が知っている人にどことなく面影がある女性がアップで写っていた。



『それでは本日のゲストは今、日本で最も注目されている若手女優と言っても過言ではない『岸本ひろみ』さんです。』


 岸本ひろみ……?


 えっ、も……もしかして順子なの!?


『おはようございます』


『おはようございます。しかし岸本さんの最近のご活躍は凄いですね?』


『いえ、そんな事は無いですが……でも、有難うございます。ファンの皆様やスタッフの皆さまのお陰です』


 やはりそうだ。

 この声は絶対に順子だ。


 でも名前が『ひろみ』って……


 それに今の私も『ひろみ』って呼ばれていたよね……



『ハハハ、そういう謙虚なところも人気の一つの岸本さんではありますが……ところで岸本さんの『ひろみ』というお名前は学生時代にお亡くなりになられた親友のお名前だとお聞きしたのですが、本当なのでしょうか?』


『はい、そうです……将来『女優』になるのを夢見ていた親友の名前です。私はその親友と一緒に『女優』になろうと決意して……彼女の名前をつけることにしたんです……』


「ほーっ!? やっ、やっぱりそうだったんですね!? これは驚きました。でも、その亡くなられた親友も天国で喜ばれていることでしょうねぇ……」


『はい……そうだといいですねぇ……』



「・・・・・・」


 じゅ、順子……


 私の代わりに女優になってくれたんだ。

 それも私の名前をつけてまで……


 グスン、順子ありがとう……


 って事はやはり『この世界』は『前の世界の未来』なんだわ。


 そして私はその『前の世界の未来』に石田浩美の生まれ変わりとして……


 でも私が順子に女優になりたいって言った事あったかな?

 その思いは彼にしか言った事が無かったような……


 ああ、そうか。私が死んだ後に彼が順子に言ってくれたんだわ。

 きっとそうだ。


 でも本当に女優になるだなんて、さすが順子だわ……

 それに、とても綺麗だわ。


 私がなんとなく今置かれている状況をある程度、理解しかけた時、後ろから私に呼びかける声がした。


「おっ、どうした広美? とても真剣な顔でテレビを観て……」


 優しい声……とても落ち着く声……

 そして私がこの世で一番好きな声……


 い、五十鈴君……


 振り向くとこの世で一番好きな人が……大人の顔になった五十鈴君が優しい眼差しで私に声をかけている。


 やはりそうだ。

 私は彼の子供として生まれ変わったんだ。


 そして、まだ声しか聞いていないけど、あの優しい声……

 お母さんは絶対につねちゃんだわ。


 私は大好きな人と再会できて泣きそうになったけど、今ここで泣くとおかしなことになるかもしれないのでグッと我慢しながら笑顔で彼にこう言った。


「……ねぇねぇ、お父さん!? お父さん!?」


「ん? 何だい、広美?」


「この『女優さん』のお名前、私と同じなのよ!!」


「ハハ、そうだね……それで真剣な顔をしていたんだな?」


 とても優しい表情……そして優しい声……

 私の身体が熱くなっているのが分かる。


「私も大きくなったらこの女優さんみたいになれるかな?」


「おーっ!! そりゃぁなれるよ。広美は母さんに似てとっても美人さんだからね」


「有難う、お父さん……」



「二人共、何をしているの? そろそろ着替えないと『卒園式』に遅刻しちゃうわよ」


 えっ!? 今日、卒園式だったの!?

 そう言えば私が『この世界』に来た時は卒園式直後だったよね?

 

 っていうか、つねちゃん若い!!

 恐らく四十歳は超えているはずだけど……


「えっ? もうそんな時間かい、香織?」


 そっか、夫婦だもんね。さすがに奥さんの事を『つねちゃん』とは呼ばないよね。


「フフフ……隆君、昨夜夜更かしなんかしているから寝坊しちゃったのよ。私はまもるとおるの御着替えを手伝わないといけないから、隆君は広美の御着替え手伝ってあげてくれないかな?」


「お、オッケー……それじゃ広美、お父さんと一緒にお着替えしようか?」


「うん!!」えっ?


 思わず『うん』って返事をしてしまったけど……

 お父さんと……いや、彼と一緒にお着替えですって!?

 

 い、いやぁ……それは……私がいくら幼稚園児でも……


 更に私の身体が熱くなる。





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


最終章開始です。

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