第78話 最後の会話

 彼と答え合わせをしてから一週間が経った。

 その間、私の病状は悪化しているように思う。


 彼と答え合わせができてホッとしたから気が緩んで病状が悪化したのかしら?

 『病は気から』という言葉があるけど、その通りになっているの?


 ダメダメダメ、まだ私は死ねない。

 まだやる事が残っているから……


 せっかく『過去の未来』を変える事ができたのに……


 実は夏休みに入ってから彼や他の友人達は各部活の大会で良い成績を私にプレゼントするという約束をしてくれていて、必死に部活に打ち込んでいた。


 そして昨日の各部活の大会でそれぞれ良い成績を残し、その結果を今日、私に報告を兼ねてお見舞いに来てくれたのだ。


 私は体調が悪いのを我慢しながら笑顔で彼達を出迎えた。


 彼は私の体調が悪い事に気付いたのか、とても心配そうな表情をしている。


「み、みんな、凄いねぇ……本当に約束通りに良い成績を残してくれるなんて……とても感動したわ……私も頑張らないとって思う……でも今日はキシモは来てないのね? 少し残念だなぁ……」


 それに対して私と同じバレー部の川田さんが答える。


「そうよ、浩美!! 私達、凄く頑張ったんだから、浩美も病気なんかに負けちゃダメよ!! あとキシモは『秋の演劇コンクール』で優秀賞を取るまではお見舞いには来ないって宣言してたわ。あの子、頑固だから絶対にその日まで来ないかもしれないわねぇ……」


「そ、そうなんだぁ……秋かぁ……」


 私は一番の親友である順子がいないのが少し寂しかった。

 それに私は秋まで……


 すると、いつもはホワーンとしてのんびりな話し方をする稲田さんが元気よく話し出す。


「そうそう、川ちゃんの言う通りよぉぉ。浩美も病気なんかに負けちゃダメだからねぇ。何てったて、あの『弱小女子バレー部』がベスト8までいったんだからぁ……」


「ちょっ、ちょっと、いなっち!? 『弱小』は余計よ!! それにもし浩美が一緒に大会に出場していたら優勝だってあり得たんだからねっ!!」


「ハハ、ゴメンなさ~い。つい本音が……」


「ほっ、本音って何よ~っ!?」


「ちょっと二人共、ここは病室なんだから静かにしないと……」


 久子が困り果てた顔で二人をなだめている。

 私も苦笑いをしていたけど、テニス部の久子と稲田さんにも労いの言葉をかける。


「久子もいなっちも個人戦、とても良い成績を残して凄いわぁ……」


「いえ、私なんてベスト16で負けちゃったし……でもいなっちは私と違って準優勝だし……」


「久子、そんな事ないよぉぉ!! ベスト16で私と対戦になってギリギリ私が勝ってしまっただけだし……もし、クジ運が良ければ私と決勝戦を戦っていたかもしれないんだから……でも優勝したかったなぁ……」


 すると彼が、


「稲田も寿も凄いよ。大会が同じ日じゃなかったら俺も二人の試合観に行きたかったなぁ……」


「 「えっ? そうなの!? 私も応援に来て欲しかったなぁ……」 」


 何故か二人共顔を赤くしながら同時に答えたので私が笑顔で二人に突っ込んだ。


「あれ? 久子は山田君に応援に来てもらいたかったんじゃないの? それにいなっちまで顔を赤くして変なのぉぉ……」


「そ、それはその通りよ!! でも山田君もサッカーの試合が同じ日だったしさ……せめて五十鈴君だけでも……」


 久子は少し焦り気味で言い訳にならない言葉を言っている。

 その様子を彼は苦笑いをし、私も何とも言えない笑顔で久子と彼の顔を交互に見ていた。


 すると稲田さんが、


「わっ、私は何となく久子につられて顔が赤くなっただけで……でも……五十鈴君が応援に来てくれていたら……優勝できたかもしれないけど……」


 稲田さんは後半小声になり私にはあまり聞き取れなかった。


「何それ~っ!? いなっちもしかして~?」


 川田さんがニヤリとしながら稲田さんに言う。


「ちっ、違うからっ!! 川ちゃんはそれ以上、何も言わないで!!」



 病室が変な雰囲気になっていたので私は話を変える為、彼に話しかける。


「と、ところで五十鈴君?」


「ん? なんだ?」


「卓球部は凄いことになったわね? 『団体戦優勝』なんて凄すぎるわ。創部して初めての事なんでしょ?」


「そ、そうらしいね。俺も森重から聞くまで知らなかったんだけどさ。でも本当に優勝出来て良かったよ。石田に『優勝のプレゼント』が出来たんだからなぁ……まぁ、石田のお陰で頑張れたんだけどな……」


「ハハハ……ちょっと複雑な気持ちだけど、ありがとね……」


 そして時間が経ち、私は皆にあるお願いをした。


「みんな、今日は有難う。それと大変言いにくいことなんだけどさ……お見舞いはしばらくの間、お休みにしてくれないかな? 最近、体調があまり良くなくて、みんなの顔を見たいのはやまやまなんだけど、そのあとに疲れが一気に来ちゃって……またみんなと元気に会える様に治療に専念したくて……」


 私がそう言うと久子が、


「そうだったの!? 私達こそゴメンね!! 浩美がそこまでとは思わなかったから……分かったわ、しばらくお見舞いには来ない様にする。でも調子が良くなったら直ぐに教えてね!? 私達、何が何でも浩美の顔を見に来るから!!」


「あ、有難う……」


 最後は少し暗い雰囲気になってしまったけど、『二学期になったら私が嫌でもお見舞いに来る』という約束を無理矢理取りさせられて久子達は病室から出て行った。


 一番最後に病室を出ようとしていた彼に私が呼び止めてこう言った。


「五十鈴君……今日は有難う……そしてゴメンね……」


「いや、俺達の方こそ石田が疲れている時に大勢で押しかけてしまって……」


「ううん、そんなことないよ。みんなの顔が見れて本当に嬉しかったから……」


「二学期になったら直ぐにまた来るからな。それまで頑張れよ……」


「うん、有難う……頑張る……」


 そして彼も病室をあとにした。



「みんな……五十鈴君……今まで有難う……私、とても幸せだったよ……」


 私が最後に言った言葉は誰も聞こえていないと思う。


 そして今日の会話が最後になるなんて私も含めて誰一人思っていなかっただろう……





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


完結まであと少しです。

どうぞ最後までよろしくお願いします。

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