第77話 一人で見上げる夜空の星

 彼は私との会話を終わらせようとしたけど、私は彼に再び話かける。


「『この世界』での五十鈴君の行動や、『前の世界』の『未来』はどうなっているのかを教えてくれない?」


 彼は少し困った表情をしながら、


「もうすぐ夕飯の時間じゃない? 俺、そろそろ帰った方がよくないか?」 


「フフ、大丈夫よ。今日は『大事な人』が来るから夕飯はいらないって言ってあるもん」


 実は事前にもしかしたらという思いがあり、病院側に伝えていた。


「えっ? そんな事が通じるのか? それに食事はしっかりとらないとダメだろう?」


 彼はそう言いながらも私に『大事な人』扱いされた事に照れている様子だった。


「五十鈴君、お願い。私……早く知りたいの。だって……次に会った時に話を聞ける状態の身体かどうか分からないから……」


 彼は少し考えた後、


「わ、分かったよ……俺の事を話すよ。それと『前の世界の未来』の事も……」



 彼は順を追って私に説明してくれた。


 その中でも私が一番驚いたのは彼の実年齢が五十歳を軽く超えているというところだった。三十代くらいかなぁって思っていたけど……


「うちのお父さんよりも結構、年上だったんだね?」


「ハハ……引いちゃうだろ?」


「うううん、年齢は関係無いよ。五十鈴君は五十鈴君だし……それに私は『前の世界』の五十鈴君も好きだったけど『この世界』の五十鈴君の方がもっと好きだから……」


 五十過ぎの彼が十五歳の私の言葉に更に照れて顔が赤くなっている様に見えたけど、そのまま彼は話を続ける。


 『前の世界』の彼は八月になる度に私の事を思い出していてくれていたこと。

 『前の世界』で、彼にとって私が初恋の相手だと思っていたこと。


 凄くうれしかった。まさか彼も私の事が好きでいてくれただなんて……

さすがに私の方が今度は顔が真っ赤になっていたと思う。


 彼は私が『飛行機事故』で死んでしまった事がトラウマになり未だに飛行機に乗れなくなってしまったらしい。


 そして『この世界』に来るまでの彼はずっと独身で会社も解雇されてしまい家に引きこもっていたそうだ。


 しかし、ある日、志保さんから、衝撃的な話を聞かされることになる。


 結婚当初から『ある理由』で、つねちゃんを苦しめていたらしい旦那さんが若くして亡くなり、子供も授からなかったつねちゃんが六十歳過ぎという若さで自宅の自分の部屋で眠る様に亡くなっていたのを発見されたのだ。


 私も初めてそれを彼から聞いて驚いた。


 そして彼はその事を聞かされたのがキッカケとなり、当時のつねちゃんとの思い出が次から次と沸きあがってきたそうだ。


 それと同時につねちゃんが彼の『本当の初恋の人』だという事に気付いてしまったらしい。


 そこから彼の後悔が始まった。


『前の世界』で卒園してから、つねちゃんに何故一度も会おうとしなかったのか、自分ならつねちゃんをもっと幸せにできたのでは……


そんな今までの人生に後悔していた日の夜に彼は激しい頭痛に襲われ、目を開けた時には私と同じ『卒園したばかりの幼稚園児』として『この世界』に来ていたそうだ……


「だから、『この世界』に来た俺は人生をやり直そう……つねちゃんと結婚できる様な男になれる様に頑張ろうという強い思いだけで生きてきたんだよ……それに石田の事故も何とかして防ぎたかったし……」


「そうだったんだね……私の事故の事も考えてくれてありがとね……」


 私は彼の『この世界での目的』『本心』を知る事ができて心が晴れ晴れとした。


「お互いに、色々とあったんだねぇ……そしてお互いにここまでよく頑張ったよね?」


「ハハハ、あぁ、そうだね……」

 


 話の中で『前の世界の未来』には携帯電話やスマホなどの通信手段が充実していてとても便利だという話では結構、盛り上った。


 あっ、さっき彼が独り言で言っていた『スマホ』ってそういう事だったんだわ。


「その携帯電話が『あの世』でも使えたらもっと便利なのになぁ……」


 しかし、私が何気に言ってしまった言葉に彼はなんとも言えない悲しい表情になってしまい話をストップさせてしまった。


 私は慌てて彼に『ゴメンゴメン』と謝りながら引き続き話を聞くのであった。


 あれからもうどれくらい時間が経ったんだろう……

 外はすっかり暗くなっていた。


 さすがに彼も早く家に帰らないと家族が心配してしまうという事で「そろそろ帰えらないと」と言ってきたので私としてはまだまだ話がしたかったけど、笑顔で、


「今日は有難う。色々な話を聞かせてくれて有難う」


 と、彼にお礼を言った。


「いや、俺もやっと石田と『本当の話』が出来て良かったよ。あとは石田の病気が治ってくれたら最高なんだけどな……」


「でも私の病気が治ったら五十鈴君が大変かもよ」


「えっ、何でだよ!?」


「だって私、つねちゃんに負けないくらい美人になって魅力的な女性になって『毎日』五十鈴君に告白しちゃうから……そうなったら五十鈴君困るでしょ? フフフ……」


 彼は私の言葉にどう返事して良いのか分からないのか黙ってしまう。


「でも心配しないで。私は死ぬから……」


「い、いや、それは……」


「心配しないで。私はこれでも十分に幸せだったから。だってそうでしょ? 本当なら私は今日、事故で死んでいたのよ。それが私の想いが叶って……私は五十鈴君に想いを告げる事が出来た……それにお母さんの命を救う事も出来たのよ。これ以上求めるのは贅沢過ぎると思う……それに……今日は五百人以上の人達が亡くなったんだよ。私だけが生き残るのは不公平じゃない? 亡くなった人達に申し訳が無い……」


「でも、石田がその事を気にする必要は無いんじゃ……」


「ある!! 絶対にある。もし私が生きないとダメならきっと『この世界』で私は白血病にはなっていないわ。これは『宿命』なんだと思う。でも神様が私の願いを叶える為に少しだけ私の『宿命』を『寿命』を遅らせてくれだけなんだと思ってる……」


「・・・・・・」


 きっと『大人の彼』だから私の言葉に何か言いたい事があったかもしれないけど、彼はとても悲しい表情だけをして黙って頷いた。


 

 


 彼が病室を出る際に背中越しに最後に私は一言だけ言った。


「私、今は五十鈴君とつねちゃんが結ばれることを願っているから……そして空から二人をずっと見守っているからね……」


「そ、空から見守るって……でも……あ、ありがとう……」


 彼は振り向かずに右手だけを上げて病室を出て行った。


 そんな彼の背中は少し震えている様に見える私だった。



 彼が病室から出てから数分後、私はテレビで今日の事故の詳細を改めて確認した。


 五百名以上の死者、行方不明者……

有名な会社の社長さんや有名人も亡くなっている。


「はぁ……本当はこの中に私とお母さんも……」


 私は窓の外を見上げた。


 今夜はいつもよりも、たくさんの星が見えてとても綺麗なはずなのにそのたくさんの星達を私は悲しく思えてしまった。


「ゴメンね……私も直ぐにお星さまになるから……もう少しだけ待っていてね……」





―――――――――――――――――――

隆と『本当の話』ができ、心から嬉しい浩美

しかし、浩美に残されている時間はあとわずか

奇跡は起こるのか?


完結までもあとわずか

どうぞ次回もよろしくお願いいたします。

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