第67話 彼の応援
彼との病院近くでのやり取りから月日がだいぶ経つ。
私は『女子バレーボール部』に在籍しているけど、この数ヶ月、病院での検査や治療の繰り返しでとても忙しく、部活や塾にあまり行けなくなっていた。
せっかく彼が同じ塾に通う様になったのに……
せっかく彼が在籍している『卓球部』と週三回、体育館で隣同士で練習が出来て彼の頑張っている姿を見ることができるのに……
とてももどかしい気持ちはあったけど、でもそのお陰で体調が今以上に悪くなるどころか、病気になる前とあまり変わらない状態に戻っていた。
もしかしてこのまま私の病気は治ってしまうのでは? と思ってしまうくらいに調子が良かったのだ。
そしてあっという間に夏休みも終わり、二学期になった。
私は久しぶりに部活に参加できてとても嬉しく思っていた矢先の月曜日に隣の卓球部が揉めていた。
それも揉めている中心は彼と卓球部のキャプテン?……
後で高山君から聞いたのけど、練習方法について彼が先輩達に意見をしたそうで、それに対してキャプテンの羽和さんが突っぱねる事はせずに、水曜日の今日、一、二年生の代表五名で試合をして一年生が二年生に一勝でもすれば彼の練習方法で行っても良いと言ってくれたそうだ。
一体、彼はどんな練習方法を提案したのだろう?
というか、『前の世界』の彼なら絶対に上級生に意見なんてしていないはずだ。
だから、やっぱり彼は……
私がそんな事を思っていると、同じ部活仲間でクラスも塾も同じの川田さんが私に声をかけてきた。
「浩美、あれ見て?」
「ん? そ、そうね。今日よね、試合は……」
「うちのキャプテンも今日の試合の事は知っているのよね?」
「うん、知っているよ。だから恐らく今から休憩という形をとって卓球部の試合を見学するはずなんだけど……先生も承諾してくれているみたいだし……」
しかし『前の世界』ではこういった事は本当に無かったなぁ……
なんか少しワクワクしている自分がいた。
ギー……ギギギー……
すると突然、体育館の鉄扉が開いた。
そして開いた入り口の先頭に思いがけない人が立っている。
なんと、久子やいなっち達『女子テニス部』の人達が続々と体育館の中に入って来たのだ。
「ひ、久子……」
「 「 「失礼しまーす!!」 」 」
ガヤガヤガヤ……
私もだけど、卓球部の人達もかなり驚いている。
「えっ? 何で『テニス部』の寿が体育館に入って来るんだ? それに他の『女子テニス部』の人達まで……?」
彼が驚いた表情で呟いている。
すると隣にいる森重君がニヤッとしながらこう言った。
「ヘヘヘ……俺が呼んだんだよ。今日は二年生と『俺達の将来が決まる』大事な試合をするからもし良かったら応援に来てくれってな」
「なっ、何でそんな事を言うんだよ!?」
彼は少し怒り口調で言ったが森重君は気にせずに、
「これも俺達が勝つ為の作戦さ。あれだけ『女子テニス部』の人達がいたら先輩達、絶対に負けられないっていうプレッシャーで動きが鈍るんじゃないかと思ってさ……」
彼が少し呆れた表情をしている中、久子が彼に声をかける。
「いっ、五十鈴君、今日の試合、頑張ってね!? 私は『一年生チーム』を応援するから!!」
久子が少し頬を赤くしている。それに対し彼も少し照れくさい顔をしながら……
「おっ、おう……有難う……」とだけ答えていたけど、私も久子に負けてられないという感情が芽生えてしまい、直ぐに練習を止めて慌てて彼のところに走り出す。そして……
「五十鈴君!! 今日は二年生と試合をするんでしょ!? 私、応援したいんですって先輩達にお願いしたら、皆で応援しましょうって事になったのよ!! だから今日は頑張ってよ!?」
はぁ……石田、お前もかよぉぉ……みたいな表情を彼はしていた。
私は彼に更に何か言おうとしたけど、違う方向から少し視線を感じたのでその方向を見ると久子が私の方をジッと見ていたのだ。
そういえば久子とはあれから話をしていないなぁ……
でもね、久子……あなたにはもうすぐ彼氏が……
それに彼だって……
久子は何も言わず、私に背を向けると体育館の端へと歩いて行くのだった。
私も久子とは反対側の端に行こうとした時、再び体育館の入り口の開く音がする。
ギー……ギギギー……
ん? 今度は『どの部』の人達だろう?
しかし、体育館の入り口にいるのは『大人の女性』と思われるシルエットだった。
太陽の光のせいで誰なのかよく分からなかったけど私は目を凝らしてよく見てみたが、その人が誰だか分かった瞬間、私は呼吸が止まりそうになったと同時に彼がその人の名前を口にした。
「つっ……つねちゃん!!??」
―――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
隆が上級生に意見をした事で始まった一、二年生対決……
それを浩美や久子達が応援することになったのだが……
まさかのつねちゃんまでが体育館に現れて驚く浩美であった。
どうぞ次回もお楽しみに。
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