第66話 もしかして……

 私は確信を得た……様な気がする。


 彼も私と同じで『前の世界』から……


 それに彼の中身は本当の私よりも年上……


 いえ、もっと年上で本当の彼の中身は『大人』なのかもしれない。


 今まで彼と接していた時、とても大人の雰囲気が漂っていたし……


 そう考えると今までの彼との会話のやり取りがスッキリする。


 『前の世界の未来』と微妙に違う『この世界の未来』……


 微妙に違っていたのは私が『この世界』に来た為に起こってしまった現象だと思っていたけど、もしかしたら彼が『前の世界』から来たことも影響しているのでは……?


 よく考えたら私だけが『特別』っいうのもおかしいもんね。



 しかし何故、彼は『この世界』に来たのだろう……?


 私と同じで何か『この世界』に後悔があるのかな?

 やり残した事とかがあるのかな?


 私は『死』の瞬間に『この世界』に来たけど彼はどういった状況の時に来たのだろう?


 もしかして彼もまた『前の世界の未来』で若くして……


 いずれにしても彼もまた何か『目的』『目標』があるに違いないわ。


 さっきの彼のセリフを聞くと私の事故を回避させる為に『この世界』に来てくれたんだと思ってしまうけど……でも……


 あっ!?


 つ、つねちゃん……


 きっとそうだ。


 彼はつねちゃんと結婚する為に『この世界』に……


 そしてこの数年間の彼はその『目標』に向かってとても頑張って、努力してその結果、順調に進んでいるのかもしれない。


 それなのに私は……目標に向かって頑張っている彼に私は邪魔をしていたのかもしれないじゃにない。


 ああ、私……なんで今までこの可能性を考え無かったんだろう。


 私、なんてバカなんだろう?


 きっと彼にとっての私は迷惑な存在だったに違いないわ……


 どうしよう……今、彼に『事実』を言うべきかな?


 私も五十鈴君と同じで『前の世界』から来たのよって……


 あなたに想いを伝える為に『この世界』に来たのよって……


 ううん、まだ今は彼に本当の事を言う時じゃないと思う。


 今言うと余計に彼の『やり直しているはずの人生』の邪魔になってしまう様な気がするし……


 うん、そうしよう……

 しばらくはこのままでいこう。



「私、何だか五十鈴君の言う事ってさ、夢もだけど、なんか当たりそうな気がするのよねぇ……だからこれからは十分に気を付けるわね。私はこれからまだまだ『やりたい事』も『言いたい事』もたくさんあるから……」


 私はとりあえず今言える事を言った。


 彼は少し不思議そうな表情をしながら話してくる。


「やりたい事っていうのは意味分かるけどさ、言いたい事って何なのさ?」


 あっ、そこ気になるんだね?


「えっ? フフフ……それは秘密よ。でもいずれ分かるから……」


 ダメだ。これ以上、彼と話すと言ってしまいそうになっちゃうわ。


「そうなんだ。いずれ分かるなら別に良いよ……」


 はぁ、良かった。納得してくれたみたいで……


 私は彼に本当の事を伝えるのは中三になってからでもいいかなと思った。


 出来ることなら中三の夏休み以降に私がまだ『この世界』で生きている事ができていたらっていうのが一番理想だなぁとも思った。


「あっ、そろそろ帰らないと」


「あっ、俺も早く親戚の家に行かないと……」


「フフ、そうね。それじゃ、明日からまた学校でね?」


「あ、ああ……また明日……」



 お互いにそう言いながら別れ、私は駅に向かって歩いて行った。


 でも彼の事が気になった私は途中で立ち止まり、後ろを振り向くと彼はまだその場にいて私の方を見ていた。


 少し驚いたけど私は嬉しくて直ぐに笑顔で彼に手を振ったのだった。


 彼もまた手を振ってくれたけど、太陽の光が彼の背中越しに当たりとても眩しくて彼の表情までは分からなかった。



 今日、私との会話で彼は何か思った事はあったのかなぁ?


 去年の夏……あの『キス』について何で全然触れないんだろうとか思っていないのかなぁ……?


 まぁお互いに恥ずかしくて話題になんて出来る訳ないんだけど……


 私はそう思いながら駅に向うのだった。



 私は電車の中で色々と考えていた。


 でも、その考えている内容は自分の病気の事よりも、もしかしたら、いえ、絶対に彼も『前の世界の人』だという事の方が大きなものになっている。


 彼も私と同じで『子供のフリ』をするのは大変だっただろうなぁ……


 小四の頃の演劇部で『小学生役』と『演劇の役』の両方を演じていた時、凄く複雑な気持ちだっただろうなぁ……私もだけど……


「クスッ……」


 彼の心の中を想像しただけで私は自然と吹き出してしまうのだった。


 早く彼と『前の世界』と『今の世界』についての『反省会』をやりたいなぁ……


 きっとその時はお互いに感極まって泣きながらお話しているかもしれないわね……





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


物語は終盤へ!!

どうぞ次回もお楽しみに。

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