第65話 彼が見た私の夢

 ゴールデンウイーク三日目……


 私はお母さんと『国立青葉病院』に来ている。


 昨夜、私は家族に身体の異変を伝えた。


 するとお父さんは直ぐに医者をしている知り合いに電話をし、私の症状を説明してくれたのだけど、その知り合いの先生は『俺、明日病院にいるから直ぐに来てくれ』との事だった。


 こうして私は祝日だったけど直ぐに診察をしてもらえる事となる。


 後で聞いた話だけど、お父さんと今日、診察をしてくれるお医者さん、青木康介あおきこうすけ先生とは幼馴染だそうで、青木先生はお父さんよりも一回りも年上だけど本当の兄弟のように仲が良かったらしい。


 そしてその二人にはもう一人共通の幼馴染がいた。年齢は二人のちょうど間くらいでお父さんは二番目の兄のように、青木先生は上の弟のような間柄でよく三人で遊んでいたそうだ。


 でもその幼馴染の人は今の私と同じ中学生の時に病気で亡くなった。

 その幼馴染の症状が私の症状に似ているらしい。


 そうである。

 その亡くなった幼馴染の病名は『白血病』だった。


 青木先生が医者になるきっかけを与えたのもその幼馴染の死だったそうだ。




 病院の待合室で名前を呼ばれるのを待っていた私よりもお母さんの方がとても不安な表情をしている。


 まぁ、無理も無いのだけれど……


「お、お母さん大丈夫? 私よりも顔色が悪いわよ?」


「えっ? ああ、ゴメンなさいね浩美? あなたの方が病人なのにお母さんの方が病人みたいになっちゃいけないわね? ほんと、お母さんっていざとなったらダメダメ母さんねぇ……」


「そ、そんな事ないよ!! お母さんは世界一しっかり者のお母さんだよ!!」


「あ、ありがとね……浩美……」




 【診察室内】


「今日は血液検査を含めて複数の検査を行うけど、浩美ちゃん頑張れるかな?」


「は、はい、頑張れます!!」


「ハハハハ、さすがは中学生だ。っていうか、さすがはあいつの娘だなぁ。うちの息子の啓介けいすけも浩美ちゃんみたいに強くなってもらいたいものだよ」


 青木先生の息子さんは現在医大生だそうで内科医を目指しているらしい。性格は大人しく気も小さい為、自分の意見をあまり言わない息子に対してたまにイラっとくる先生としてはハキハキして、しっかりしている様に見える私をとても気に入ってくれたみたい。


 でもね青木先生……私は十五歳で死にそしてまた六歳から人生をやり直しているので実際は二十二年くらい生きていることになるんです。だから普通の十三歳よりしっかりしているのは仕方が無いんですよ。と心の中で言っていた。


 まぁ、私の演技にもさすがに限界はあるしね……


 診察中、青木先生はとても優しい笑顔でお父さんとの昔話を交えながら私の緊張を解こうとしてくれているのがヒシヒシと伝わってくる。


 そしてつくづく思う。


 『前の世界』で最後までこの病院でお世話になればよかったなぁ……あの時、東京に行かなければ……そうすれば青木先生にも最後にお礼が言えてちゃんとお別れができたのに……だから『この世界』では何としてでも……



「せ、先生? 浩美は大丈夫なんでしょうか!?」


 お母さんが心配そうな顔をしながら青木先生に聞いている。


「検査をしてみないと何とも言えませんけど、今直ぐどうこうではありませんので……病状によっては入院もあり得ますが、当分の間は治療をしながら普通に学校にも行けますから」


「そ、そうですかぁ……」



 先生の診察が終わり私達は家に帰ろうとしたけど……


「お母さん、先に帰ってくれない?」


「えっ、どうしたの?」


「う、うん……駅の近くに大きな本屋さんがあって久しぶりに本でも買おうかなと思ってさ……でも選ぶのに時間かかるかもしれないし、留守番しているあの子達も心配でしょうから先に帰ってあげてちょうだい」


「そうなのね、分かったわ。お母さん先に帰るわね? でも浩美もなるべく早く帰るのよ?」


「うん、分かった……」


 私はお母さんと別れて駅前の本屋へと向かうフリをした。


 実は本屋に行きたいというのは嘘で実際は私の病気のせいで落ち込んでいるお母さんと一緒に帰るのが辛かったからというのが本当のところだった。


 そして私はお母さんの姿が見えなくなるのを確認した後、今後の事を少しだけ考えようと思い、駅前の広場にあるベンチに腰掛けようと歩き出した。


 しかし、その時……


 私は目を凝らした。


 か、彼が目の前を歩いていたのだ。


 な、何で彼がこんなところを一人で歩いて言いるんだろう?


 私はベンチに座るのを止めて小走りで彼に近づき、深呼吸をしたあと声をかける。



「い、五十鈴君?」


 彼は私の顔を見て驚いていた。


「いっ、石田!? どっ、どうしてこんなところに!?」


「う、うん……わ、私はあの『国立青葉病院』にちょっと用事があってさ……」


「えっ、石田どこか悪いのか?」


 私は咄嗟に誤魔化した。


「いっ、いや、アレよ!! お、お婆ちゃんがあの病院に入院していてさ、それで今日はお見舞いに行っていたの。それに今日はゴールデンウィークよ。診察なんて『救急』以外やっているはず無いじゃない……」


 うまく誤魔化せたかな?


「そっ、そうだよな。言われてみればそうだな。ハッ、ハハハハ……」


 何となく私達二人はぎこちない会話をしている感じがする。


 やはり小六の時の『キス』の影響かな?


 まぁ、少なからず私には影響がある。


 やっぱ彼の顔を見るとつい恥ずかしくなってしまう……


「それで五十鈴君は何故こんなところに一人で歩いているの?」


 彼は私の質問に少し戸惑った感じがしたけど、直ぐに答えた。


「いや、俺はここの近くに親戚が住んでいてさ、前から『隆君、休みの日に一度遊びにおいで』って言われていて、それで今日は一日予定が無かったから遊びに来たって感じかな……」


「ふーん、そうなんだぁぁ……一人で親戚の家に遊びに来るなんて五十鈴君、偉いよねぇぇ……?」


「えっ? そっ、そんな事無いよ。っていうかその親戚の家に俺と昔から仲良しの従弟が居るからさ……俺はその従弟に会いたいし、一緒に遊びたいからさぁ……」


「フフフ……そうなのね……」


 すると彼は何か考えている様な表情をしながら黙り込み、十数秒の沈黙の後、口を開いた。


「石田、そういえばさ……」


 彼の表情が変わった。


「えっ、どうしたの?」


「いや、俺……このあいださぁ……石田が『事故』で死んでしまう夢を見ちゃったんだよ……だからさぁ……『乗り物』には十分に気を付けろよ? って言っても気を付けようが無いんだけどさぁ……」


 私は一瞬、凄く驚いてしまった。


 もしかして彼は……


 い、いや……まさかね……


 私は直ぐに微笑みながら彼にこう言ったというよりも吹っ掛けてみた。


「五十鈴君、にも同じような事を言っていたわね? でも何回も同じ夢を見るなんてとても不吉よね? 分かったわ。心配してくれてありがとね? 『乗り物』には十分に気を付けるわ。特に『飛行機』なんて墜落しちゃったら一巻の終わりだものね……?」


「へっ!? そ、そうだな……本当に一巻の終わりだよな……」


 私には彼の目が泳いでいる様に見える……まぁ泳ぐのも仕方ないと思う。


 だって半年前にも同じような事を言ったなんていうのは嘘だから……





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


彼の言動に驚く浩美……

そして浩美は隆に対してある思いが芽生えてくる。


どうぞ次回もお楽しみに。

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