第60話 お見舞いのあとに

 八月に入り私達は最後の大会に向けての練習も激しくなっていた。


 でもこの日の彼は前に私に言っていた通り練習を休んでいる。

 高山君が言うには体調不良だということだけど……


 きっと仮病だな。


 どこかに出かけているのかな?

 家族で出かけるなら別に仮病などしなくてもいいと思うし……


 もしかしたら……つねちゃんと……


 私はそう思った瞬間に顔を何度も大きく振り、考えないように努力をした。



「ん? 石田さん、どうしたんだい? そんなに激しく首を振っていたら痛めちゃうぞ」


 高山君が不思議そうな顔をしながら私に話しかけてくる。


「え? いや……えへへ……そうね……」


 私はそう言うと高山君の前から離れようとしたけど、高山君は引き続き話し出す。


「石田さんも知ってるんだね?」


「えっ? な、何を?」


「ハハハ、隆が今日は仮病で休んでいることだよ」


「え? し、知らないわよ。そ、そうだったの? へぇ……五十鈴君にしては大胆なことだねぇ……?」


「ふーん……まぁ、そういうことにしておくよ」


「な、何がそういうことなのよ?」


 私、高山君の前で全然、演技できていないのかしら?

 はぁ……『元演劇部』失格だわ……



「おーい!! 高山、何女子としゃべってんだ!? 早くこっちに来い!! 今から紅白に別れて試合をするから!!」


 そう、大きな声で高山君を呼ぶのは副キャプテンの平田君……


 水族館の誘いを断ってから彼は今まで以上に練習に集中しているようだった。


「ふん、なんだよ。俺は補欠だから別に平田みたいに熱くなれないんだよ……」


「高山君、そんなこと言わずに練習頑張ってよ? もしレギュラー選手に何かあれば、その時は高山君が試合に出ないといけなくなるんだからね」


「そ、それはゴメンだよ。レギュラーの奴等には大会まで『健康第一』『安全第一』でいてもらわないと俺は困る!!」


「ハハハ、何それ? そんなことよりも早く行かないと。平田君、めちゃくちゃ睨んでいるわよ」


「わ、分かったよ……はぁ、面倒くさいなぁ……それじゃ行って来るよ……」


「うん、頑張ってね」



 ほんと、高山君は小さい頃から性格は変わってないよね。

 でも、ああ見えて隠れて彼と一緒に努力をしているのは私、知っているんだから。


 じゃないと、六年生からバスケを始めて『補欠』まで上り詰めていないと思うわ。


 五年生からバスケをやってる、あの大石君でさえ『レギュラー』どころか『補欠』にさえ入れなかったんだから……



「石田キャプテン、そろそろ練習を再開しませんか?」


「え? そうね。うん、始めよう」


 私、彼のことばかり考え過ぎて自分が『キャプテン』だってことすっかり忘れていたわ。


 パチンッ!!


 私は両手で両頬を叩き気合いを入れなおした。


 しっかりしろ、浩美!!


「えーっ!? キャ、キャプテン、大丈夫ですか!? 頬っぺた真っ赤ですよ!?」


「ヘヘ、大丈夫、大丈夫よ」


 そう、私は大丈夫……


 何が起きても全て受け入れる気持ちでいるんだから……




 彼は次の日もその次の日もそして一週間も彼は練習に来なかった。


 一体、どうしたんだろ? 何があったんだろ?

 顧問の先生は体調不良って言っているけど、あれは仮病でしょ?


 もしかして本当に病気になってしまったの?



「うーん、どうしようかなぁ……」


 キャプテンの木口君が腕組みをしながら考えている。


「そうだな。五十鈴がいないのは痛いよな。でも、そろそろ決めないと大会まで日が無いぞ」


 平田君が木口君にそう言っている。


「本田先生、どうします? この一週間の練習で細かいところをかなりやっているから、もし五十鈴が戻って来てもついてこれないんじゃないかと思うんですけど……」


「先生、木口の言う通りですよ。まだ、この一週間一緒に練習してきた高山の方がマシだと思うんですが……」


「えーっ!? ちょっと待ってくれよ~!? お、俺が隆の代わりなんてできる訳無いじゃん!!」


 高山君は自分の名前が出てきたから慌てて木口君達の会話に入って行った。

 おそらく、高山君のことだから、もしかしたらこうなるってことは分かっていたかもしれないけど……それに……


「隆は俺なんかと違って今まで真面目に練習してきたんだから、一週間くらい休んだってどうってことないだろ!? これくらいでレギュラーを外されるのは可哀そう過ぎるよ!!」


 そう、高山君は彼の努力を一番知っている親友だ。

 その親友のポジションを自分が代わりにやるなんて絶対に嫌に違いない。 


「でもまだ熱があるらしいぞ。明日に復活するなんて無理だろ? それに一週間以上も寝込んでいたら体力だって落ちるしさ……逆に無理に出場させてしまったら五十鈴が辛くないか……?」


 木口君の言う通りだと私も思う。

 可哀想だけど彼はレギュラーから外すのがベストだろう。



 結局、話し合いの結果、顧問の本田先生の決断で彼はレギュラーから外れる事が決まる。


 そして代わりに高山君がレギュラーに昇格、高山君の代わりに大石君が予備選手としてレギュラーと一緒に大会まで練習をすることになった。



 練習後の帰り道、私は高山君と歩いていた。

 そしてここでお別れする分かれ道の前で私は立ち止まり、


「ねぇ、高山君? 明日、練習が終わった後に一緒に五十鈴君のお見舞いに行かない?」


「え、お見舞い? うーん、そうだね。俺もそろそろ隆の奴に文句を言いたいところだったんだ」


「いやいや、お見舞いだからね……」


「でも、明日は夕方に用事があるから、そんなに長くはいれないけど……」


「尚更、いいじゃん!!」


「えっ? どういうこと?」


「違う違う、ゴメン……何でも無いから気にしないで……」


「ふーん、まっいっか。それじゃぁ、明日練習とお見舞いよろしくな~?」


 高山君はそう言うと速足に帰って行った。



 私は遂に決めた。


 明日、お見舞いに行きそして途中で高山君が帰った後に……


 彼に告白をする。





――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


仮病で練習を休んでいたはずの隆だが本当に病気になってしまい一週間近く練習を休んでいる。

そしてそれが理由で隆はレギュラーから降格、高山が昇格することが決まる。


そんな中、浩美は高山と二人で隆のお見舞いを計画する。

そして浩美はその日、遂に隆に告白することを決意した。


ということでどうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆



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