第54話 買い物途中での出会い

 買い物当日……


 私と久子、そして彼と高山君の四人は近くの商店街に『七夕祭り』で発表するお演劇の衣装などの買い物に来ている。


 そして目的のお店までの歩道を四人で歩いていた。


 私はこの日が来るのがとても不安で仕方がなかった。

 久子の為とはいえ、やっぱり目の前で彼と久子が良い感じになるのはあまり見たくない自分がいたからだ。


 でも親友である久子の彼に対する想いも大切にしてあげたいと思っている自分もいる。本当に複雑な気持ちだなぁ……私の性格に問題があるのかなぁ……


 そんな気持ちで買い物に来ている私の心など知らない彼は、今日は何故かやけに私に話しかけてくる。


 私としては話しかけてもらえるのは凄く嬉しいけど、たまに久子の顔をチラッと見ると凄く不満そうな、羨ましそうな複雑な表情をしているので、私は彼との会話を早く終わらせようと努力はしているのだけど……


 今日の彼は何故だか全然話が止らない。


 な、何でなの? 

 何で今日に限っていつも以上に私に話しかけてくるの?


「そういえば石田さぁ……」


「え? な、何かな?」


「立花部長とは文通しているのか?」


「う、うん。頻繁にではしていないけどたまにしてるよ。五十鈴君はどうなの?」


「いやさぁ、俺は全然なんだよ……一度だけ手紙を書こうとしたんだけどさ……途中で寝てしまってさ、ダメな奴だろ俺? ハハハハ……」


「えーっ、手紙を書いている途中で寝るってどういうことなのよ? 立花部長……いえ、立花さん、五十鈴君の手紙が来るのをめちゃくちゃ待っていると思うけどなぁ……」


「えーっ、そ、そうかなぁ?」


「そうよ。絶対に待っていると思うわ」


「そっかぁ……それじゃ今度は寝ないように頑張って手紙を書いてみるよ。ところで立花部長……いや、立花さんは東京で元気にしているのか?」


「うん、元気にしているよ。向こうでも演劇部に入っていてね、今年から二年生なのに部長をやるらしいわよ」


「す、凄いな、さすが立花さんだよな? ってことはさ、やっぱ立花部長って呼んでもいいんだよな?」


「ハハハ、言われてみればそうね。ハハハ……」


 やっぱり楽しい……

 彼との会話は本当に楽しいし、幸せだなぁ……


 だから私はいつの間にか久子のことを気にならなくなってしまっていた。

 そんな私にしびれを切らした久子は、


「ひ、浩美、ちょっといいかな……?」


「えっ? あっ、久子……」


 久子が少しふてくされた表情をしながら私に声をかけてきた。

 私はハッとして、直ぐに彼から離れると、彼に聞こえない様に小声で久子に謝った。


「ご、ゴメン久子……なんだか私ばかりが五十鈴君とお話していたよね? ほんと、ゴメンね? 何故だか今日の五十鈴君、私に凄く話しかけてくるのよ。私も早く話を終わらせようとはしていたんだけど……でも本当にゴメンね……」

 

 私は久子に言い訳をしつつ、両手を合わせて謝った。


「べ、別にいいんだけどさぁ……今日は何だか五十鈴君、私の方を全然見てくれないし……それに私も積極的に五十鈴君と話しに行くこともできていないし……」


 久子が目に涙を浮かべながら話している。

 そして焦った私は久子に対して、


「だ、大丈夫よ、久子。お店に入った時は二人ずつに別れてお店の中を周りましょうよ? 私が高山君と一緒にお店の中を周るようにしてさ、久子が五十鈴君と一緒に周れるように絶対にするから……その時だったら絶対に五十鈴君とお話できると思うし……ねっ?」


「う、うん、ありがとう……」


 私の必死のフォローでようやく久子に笑顔が戻る。


 はぁ……ほんと、疲れるなぁ……


 そして私が高山君に今から二人でお店の中に入った時は二人で周ろうと言おうとした矢先、前から歩いて来た大人の女性が五十鈴君に呼びかけてきた。


「あれ!? 隆君じゃない!! こんなところで会うなんて奇遇ね!?」


「バッ、バチだ!! って、いや……し、志保姉ちゃん!!??」


 バチ? 何の事だろう?

 彼は声をかけてきた女性に慌てながら意味の分からないことを言っている。


 それに『志保姉ちゃん』って呼んでいるけど彼にお姉さんはいなかったと思うんだけど……ただ、凄く綺麗な人だなぁ……


 すると、その『志保姉ちゃん』と呼ばれている人は、


「バチって何の事? っていうか、男女四人でお買い物なんて、なんだか素敵な光景ねぇ……」


 私達の事をニヤニヤしながら見ている『志保姉ちゃん』と呼ばれている女性に彼は少し照れくさそうな感じで私達を紹介する。


 そして『志保姉ちゃん』と呼ばれている女性も私達に自己紹介をしてくれた。


 この女性の名前は『鎌田志保かまたしほ』さんと言って彼の近所に住んでいる幼馴染のお姉さんだそうだ。昔から家族ぐるみのお付き合いをしているらしい。


 そして志保さんは現在、私達が通っていた『青葉第一幼稚園』の先生をしているそうだ。


「ところで志保姉ちゃんも商店街に買い物に来たの?」


「そうなのよぉぉ!! 今度、隆君達の小学校で『七夕祭り』があるでしょ? そのお祭りにうちの幼稚園も参加させて頂く事になっていてね、それで園児達には踊りを発表してもらう予定なんだけど、その時の衣装の材料を買いに来たのよ……」


「えっ、一人で来たの?」


「まっさかぁぁ!! 園児全員の材料だから二人で来たわよ」


 二人?


 私が心の中でそう思っていると、彼は同じ事を口に出す。


「二人……」


 一瞬、彼の表情がこわばった様に見えた。


 すると志保さんの背後から聞き覚えのある声がしてくる。

 

「お待たせぇぇ、志保ちゃん!! あっ!?」


 その声の主は私達、いえ、彼を見ると少しだけ驚いた声を出す。


 そして彼も驚いた表情をしながら大きな声でこう言った。


「つっ、つねちゃん!!??」


 そう……志保さんと一緒に買い物に来ていたのは私と彼が幼稚園の時の先生、常谷香織つねたにかおり先生だったのだ。





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


浩美達は買い物に来ているが当初の予定とは違って隆はやたらと浩美だけに話しかけてくる。

そんな二人に久子は入れないでいた。そして久子は……


そして途中で隆の知り合いの鎌田志保に声をかけられる。浩美達と同じで園児達の踊りの衣装を買いに『二人』で来ているそうだが、そのもう一人は浩美達の幼稚園時代の先生、常谷香織先生だった。


偶然、出くわしてしまった浩美達……

果たして何かが起こるのか? 

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆


ちなみに隆が言っていた『バチ』の意味が知りたい方は前作『初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺』の第29話を読んで頂ければ分かりますので、もし時間のある方は一度覗いてみてください(*^▽^*)

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