第55話 女の闘い?

「つっ、つねちゃん!?」


「隆君達もお友達と一緒に商店街にお買い物に来ていたのね? まさか会えると思っていなかったから先生とてもビックリしたわ……」


 『つねちゃん』は少し苦笑いをしながら私達に言っている。


 そして、つねちゃんは私の隣にいる久子にも視線がいったけど直ぐに視線を逸らした。久子も何故かつねちゃんの顔を見ようとしていない。


 あれ、何故だろう? 変な空気になっている様な……

 

 なので、私は空気を変える為に勢いよく『つねちゃん』に話しかけることにした。


「つねちゃん、お久しぶりです!! 最近、うちの学校の運動会に来てくれて無いからとても寂しかったじゃない!!」


 私も彼と同じつねちゃんの『元教え子』だから何でも言える間柄ということでとりあえず、つねちゃんに憎まれ口を言ってみた。

 

 すると、つねちゃんは、


「浩美ちゃん、ゴメンなさいね? ここ数年、うちの幼稚園の運動会と日が重なっちゃって全然、青六(青葉第六小学校)の運動会に行けてなかったわね……」


「そうよ、そうよ。私、毎年運動会でつねちゃんに良いところを見せようと練習頑張っているのに、肝心のつねちゃんが来ないから、当日になってやる気が無くなってしまって全然、徒競走で一位になれないわ!!」


 自分で『つねちゃん』のせいにするなよっ!! と、突っ込みたいところだけど、私は空気を変えたくて必死に話をした。


 そんな様子を見ていた志保さんが口を開く。

 

「あなた、石田浩美さんって言ったっけ? 石田さん、アナタとても面白い子ね?  なんか私と『同じ匂い』がするわ。もしかしたら石田さんは『幼稚園の先生』にむいているかもしれないわね!?」


「えっ、同じ匂い……?」


 志保さんに『幼稚園の先生』にむいていると言われた私はとても嬉しかったけど、『同じ匂い』の意味がよく分からなかったので彼に小声で聞いてみた。


 すると彼は小声で『明るくて美人って事じゃないの』とサラッと言ってくれた。


 私は彼の言葉がめちゃくちゃ嬉しくて身体中が熱くなり今でも飛び回りたい気持ちを押し殺しながら『フーン……』とだけ言うと、後の言葉が出て来なくなってしまった。


 次に『つねちゃん』が話し出す。


「それで君が前に隆君が紹介してくれた高山君だったかな? それとあなたはよく覚えているわ。青葉第一幼稚園卒園生の寿さんよね? 小一の頃に会った時もとても可愛らしかったけど、六年生になったら一段と『美人さん』になったわねぇ!? 寿さん、凄くモテるんじゃない?」


 えっ? つねちゃんは久子の事を知っているの?


 それも一年生の頃って……ああ、そういえば一年生の頃の運動会にはつねちゃん来てくれていたけど、その時にお話したことがあるのかな……



「そんな事無いですよ。私、全然モテませんから。常谷先生の方が凄くモテるんじゃないですか!?」


 久子の言葉が私にはなんか『トゲ』が有る様に感じてしまう。

 でも、つねちゃんは久子のトゲのある言葉など気にせずに笑顔で質問に答える。


「モテたいんだけどねぇぇ、それがサッパリなのよ。ホント先生、いつになったら結婚出来るんだろう……」


 その言葉に志保さんが反応する。


「えっ? 香織先生、結婚願望あるんですか!? 私、全然無いと思っていましたよ!! それなら今度、大学時代の同級生達と久しぶりに飲み会をするので、香織先生も是非参加してくださいよ? 男子も数名来ますから……あっ!! 『年下』は無理ですか!?」


 『年下』という言葉に私がドキッとしてしまった。

 だって中身が十五歳の私が現在十一歳の男の子に恋をしているのだから……


「い、いえ別に年下が無理とか、そんな事は無いけど……多分だけど……」


 つねちゃんはそう言いながら照れくさそうな表情をしている。


「うわぁぁわ、それなら是非参加してくださいね? また詳しい事は後日連絡させて頂きますから。あっ!! あらヤダ、君達の前で全然関係の無い話をしちゃってゴメンなさいねぇぇ?」


「常谷先生、良かったじゃないですか!? なんか『結婚の夢』が叶いそう!! 私、応援してますから!! 今度の飲み会、『ガンバッテ』ください!!」


 あれだけ今日は大人しかった久子がつねちゃんに対してだけは凄い弁舌になっている姿に私だけでなく恐らく彼や高山君も驚いているだろう……


 何故、久子はつねちゃんに対してあんなにも『敵対心』があるような雰囲気を出しているのだろう?


 相手は私達よりもズッと大人の人なのに……

 つねちゃんが久子の恋のライバルになんてなるはずも無いのに……


 そんな久子に対し、さすがのつねちゃんも苦笑いをしながら、あまり心のこもっていない『ありがとう』という言葉だけを久子に言っていた。


「それであなた達、どう? せっかく今日、ここで会ったんだし、これから私達と一緒にお買い物しない?」


 そう、志保さんが言ってくれたけど、


「いえ、今日は私達四人でお買い物しますので!!」


 久子が即答で断ってしまう。


 私達三人は久子の返事に対して反論など出来ない雰囲気になっていた。

 隣にいた高山君は小声で「今日の寿、なんか怖い……」と呟いている。


 私達はつねちゃんと志保さんに挨拶をして歩き出す。


 私は背中につねちゃん達の視線を感じながら、彼の両サイドに私と久子が挟む様な形で歩きだす。高山君はその後ろを歩いている。


 ようやく彼の横で歩くことができた久子だけど、ずっとうつむき黙ったまま……

 そして彼は何か考え事をしている様な感じで黙って歩いている。


 彼はつねちゃん達と一緒に買い物をしたかったのかな?

 いえ、そんな事は無いよね……


 私はそう思いながら商店街を歩いていた。





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


さっきまで大人しかった久子が何故かつねちゃんに対して敵対心を出している姿が不思議でたまらない浩美……


そして一緒に買い物に行く事を断ってしまう久子

何か考え事をしている隆

そんな二人を見て戸惑うと共に何かが動き出しているようにも感じてしまう浩美であった。


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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