第53話 突然のお誘い

「浩美、お願いがあるの?」


「えっ?」


 放課後、私が部活に行く準備をしていると、久子がいつになく真剣な表情で私に話しかけてきた。


「久子、どうしたの?」


「今度の日曜日に演劇の衣装に使う生地や飾りつけなどを買いに行きたいんだけどどうかな?」


「うん、別にいいわよ」


 私と久子は七夕祭りのクラスで行う演劇では『衣装担当』をすることになっている。だからそろそろ衣装を製作しないといけないので材料の購入は私も考えていたところだった。


「そ、それでね……」


 久子は何やら他にもお願いがあるみたいに見える。


「それで何?」


「出来ればさ、買い物の荷物って結構な量になると思うし心細いから男子も数名一緒に行ってもらいたいんだけど……」


 あぁぁ、そういうことね。


「分かったわ。それじゃ五十鈴君と高山君にも一緒にお願いしてみよっか?」


 私がそう言うと久子は私から欲しかった答えを聞けて嬉しかったのか満面の笑みで「うん、有難う!! さすが浩美ね?」と言いながら鼻歌交じりに『家庭科部』に行くのだった。


 そして私は先に高山君をおさえる事にした。


 久子の気持ちをある程度理解している高山君は「石田も大変だねぇ?」と言いながら協力してもらう運びとなった。


 そして次の日、彼と高山君が会話をしている中、久子と一緒に声をかける。

 でも久子はモジモジしながらなかなか言い出せないでいたので、待ちきれない私が言う事にした。

 

「あのね、今度の『七夕祭り』で演劇をする事になったでしょ? それで私達二人が衣装とか小道具とかの買い物に次の日曜日に行くんだけど、女子二人じゃ心細いから五十鈴君達にも一緒にお買い物について来てもらえないかなぁと思って……ダメかな?」


 私がそう言うと、高山君がニヤっとしながら、


「別に良いよぉぉ。どうせ俺達、暇だから……」と予定通りの返事を言ってくれたので続いて私は彼に、


「五十鈴君も良いのかな?」


「えっ? あ、あぁ……うん、別に良いよ……」


 彼がそう答えると横にいる久子が少しホッとした表情になり、そして何とも言えないような笑顔を見せている。


 本当に久子の笑顔は可愛いなぁ……

 私も久子の様な顔に生まれたかったなぁ……と、つい思ってしまう。


何度も言っているけど、私は小学生の間は久子の『初恋』の協力をするって決めている。もし『前の世界』と同じ流れなら久子は中学生になると別の男子と付き合う事になるから、それまでは久子の親友として応援しようと考えていたのだ。


 私が彼に想いを伝えるのはそれからでも遅くないと思っていたし……


 ただ、『前の世界』と『この世界』では多少の違いはあるので、絶対にその通りになるとは思ってはいない私もいるので、とりあえず冷静に状況は見る様にはしている。



 【買い物前日の土曜日】


 土曜日は授業が午前中までなので本来は帰宅するのだけど、私達『バスケ部』は夏の大会に向かって練習に励んでいた。


 そしてその休憩中、高山君が珍しくぼやいている。


「しかし、七月は七夕祭りがあって八月は最後の大会があって……ほんと、忙し過ぎるよな?」


「そうだよなぁ……」


 彼が苦笑いをしながら答えていると間から今年、ギリギリレギュラーになる事ができた大石君が、


「ケンチはレギュラーじゃないんだから別に練習サボってもいいんじゃないか?」


「あっ、それもそうだなぁぁ……」


「何を言ってるんだ、ケンチ!? もしレギュラー組に何かあったらお前が試合に出る可能性だってあるんだから練習はちゃんとやってくれよ!?」


 彼は少し怒り口調で高山君に言っている。そしてそんな彼に高山君は、


「分かってるって、隆……だから今日もちゃんと練習来てるじゃん。それにしてもほんと隆ってそういうことは真面目だねぇ……?」


「でも五十鈴君の言う通りだと思うわ。高山君、思ってた以上にバスケセンスあるから、もしかしたらこのまま頑張ればギリギリレギュラーになれた大石君を抜いちゃうんじゃない?」


 私がそう言うと、彼は大きく頷き、高山君は「えっ、そっかなぁ?」と言いながら照れ笑いをし、そして大石君は「ケンチがレギュラーになれる訳ないじゃん!!」と怒っていた。



 私は顔を洗おうと体育館の外に出ようとした時、ある男子に呼び止られる。


「お、おい……石田、ちょっといいか?」


「えっ?」


 私を呼び止めたのは男子副キャプテンの平田君だった。


「何? どうしたの、平田君?」


 平田君は副キャプテンになったからなのかどうかは分からないけど、最近ヤンチャな性格もマシになり、元々男前だったのでキャプテンの木口君の次くらいに女子からの人気が高くなった男子になっている。


 まぁ、私は全然好きなタイプじゃないから関係ないんだけどね。


 そんな平田君が以外にも何かモジモジしている。


「平田君、私、顔を洗いたいから早く言ってくれないかな?」


「あっ、悪い……実はさ、急で悪いんだけどさ……明日の日曜日に木口達と『エキサイトランド』に遊びに行くんだけど……い、石田も一緒に行かないか? チケットが一枚余っているんだよ。あとさ、新見や岸本も行くんだ。だから石田もどうかなと思ってさ……」


 あれ? 順子は何も言ってなかったなぁ……私には何でもしゃべる子なのに……

 もしかして順子って平田君か木口君のことを……って、まあいっか。

 順子の恋愛に首を突っ込む気は私には無いし……


「ゴメンね、平田君……せっかく誘ってくれて申し訳ないけど、明日はクラスの『衣装担当』の人達と買い物に行く約束をしているのよ。だから私は行けないわ。他の人を誘ってくれるかな?」


「そ、そうなのか……そ、それじゃ仕方ないよな……」


 平田君はとても残念そうな表情をしている。


「ゴメンね。もし次の機会があったら『バスケ部』のメンバーで行きましょうよ?」 


「えっ? 『バスケ部』のメンバーで? あ、ああ……そうだな……」


「あっ、それとさ、村瀬君が行けば新見さんがとても喜ぶと思うわよ。平田君さえ良ければ一度、村瀬君に声をかけてみたらどう? でも今、私が言った事は二人には内緒にしておいてね? フフ……」


「村瀬? 新見が喜ぶ? わ、分かったよ……一度、村瀬に声をかけてみるよ……」


 平田君は私が言っている意味を理解してくれたみたいで少し笑顔になる。


「でも次は石田も絶対に一緒に行こうぜ!?」


「うん、分かったわ。その時は早めに言ってね?」



 私は平田君と別れて体育館の外にある手洗い場で顔を洗っている。

 そして顔を洗いながらふと思う。


 あの平田君が私を誘うなんて珍しいよなぁ……

 幼稚園の頃の私は平田君の『天敵』みたいな感じだったのに……


 でも村瀬君が『エキサイトランド』に行ったとしたら、もしかして新見さんも中学生になるまでに何か進展があったりして……ウフッ


 顔を洗い終わった私は体育館の中へと戻って行く。


 さぁ、明日は彼達と買い物……

 色んな意味で頑張らなくっちゃ……





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


久子の誘いで五十鈴君、高山君を含めた四人で買い物に行く事になった浩美。

そんな矢先、同じ日に『エキサイトランド』に行く平田にも誘われる。

しかし何で自分が誘われたのかよく理解していない『鈍感』な浩美がいる。


さぁ、明日は『衣装』の買い物……

そこから浩美の周りは目まぐるしく動き出す?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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