第9章 運命の選択編

第51話 新たな始まり

【昭和57年4月】


 私は小学六年生になった。

 そして今日は始業式があり体育館に全児童が集まって校長先生のお話を聞いている。


「えー、本日は皆さんの元気なお顔を見ることができて私はとても嬉しいです。先日、新一年生の入学式も無事に終わりました。皆さんで新一年生に色々と教えてあげてくださいね? それと今年我が青葉第六小学校は創立10周年を迎えます。10周年という記念すべき年なので毎年恒例の『七夕祭り』と記念行事を組み合わせた企画も考えています。上級生の皆さんには特にお手伝いしてもらわないといけないと思いますのでどうぞよろしくお願いしますね……」


「えーっ? 記念行事ってなんだか面倒くさいよなぁ」


 森君重が後ろを振り向き大石君、高山君に声をかける。


「静かにしなさいよ、森重!」


 森重君の横に立っている順子が森重君に注意をしたけど、


「なんだよ、岸本!? うるさいのはお前の声だろ!?」


 森重君が言い返すと順子も負けじと、


「なんですって!?」


 更に大きな声で順子が森重君に言うと体育館の端に立っている担任の辻村先生に、


「こらっ、そこ静かにしろ!!」


 と、更に大きな声で二人を怒鳴られてしまう。


 高山君や大石君、その後ろに並んでいる私や彼までも関係ないのに恥ずかしくなり顔を赤くするのであった。



【六年一組の教室内】


「ああ、もう!! 森重のせいで六年生初日から恥かいちゃったわ!!」


 教室に戻った順子が私にぼやいている。


「まぁまぁ順子、怒らないの。もういいじゃない? あんな子、ほっとけば」


「うーん、そうよね? 森重なんかでイライラしてもなんだか損した気分になるわね?」


「そうそう、ね? 五十鈴君?」


「えっ!? 石田、なんで俺に聞くんだよ?」


「エヘ、ただなんとなく……」


「しかし六年も同じクラスになれて良かったよな?」


 傍にいた高山君が話を変える。


「そうだよな。前は二年ごとのクラス替えだったのに五年生からなんか四クラスが三クラスになってクラス替えも毎年になっちゃったし……去年から一クラスの人数が増えて教室が狭くなった気がするし、結局ケンチとは一年生からずっと同じクラスだな?」


 彼がそう言うと


「隆、俺もずっとお前と一緒だわ。俺は別のクラス良かったのにさ」


 大石君がいつもの皮肉れた感じで彼に言った。


「ハハハ、まあ、そんなこと言うなよ、テツ(大石君の呼び名)」


「フン……」


 やっぱり不思議だなぁ……『前の世界』の彼だったら今の場面で絶対に大石君と言い争いになっていたのになぁ……ほんと『この世界』の彼の対応は『大人』なのよねぇ……


 まぁ、だから私は『前の世界』の彼以上に『この世界』の彼が大好きなんだけどね……


「しかし、テツはなんでいつも隆にきつく当たるんだ?」


 高山君が呆れた顔で言うと大石君が、


「俺にもよく分からねぇよ。何となく気が合わないというか……それに五年生からレギュラーってのも気にいらないし……」


「何となくって何だよ? それに隆がレギュラーなのはバスケが上手いからだろ? それに文句言うのはおかしいよ」


 そうなのだ。


 『この世界の未来』でかなり違いがあるのは彼が五年生からレギュラーであること。っていうか『前の世界』の彼は小学生の間、一度もレギュラーになれなかったはずなのに……


 これには私もとても驚いてしまった。

 私同様、彼もバスケ初心者のはずなのにドリブルがやたらと速い。


 お父さんが昔、バスケをやっていたというのは聞いた事があるけど、それだけであんなに上手になれるはずは……


 今年から男子バスケ部は木口君がキャプテンで平田君が副キャプテンだけど、ドリブルに関してはその二人よりも彼の方が上手いと思う。


 それに大石君が何となく彼と気が合わないのも私には理解できる。

 だって『前の世界』の二人は中学生になってもずっとライバル同士で言い争いが絶えなかったし……


 それなのに『この世界』の彼にはことごとく前に行かれ、皮肉を言っても軽くあしらわれ……大石君の中の何かが大石君も理解できないまま、彼を拒否しているのかな? って思ってしまう。


「ケンチも今年からバスケ部だけど、まぁお前にはレギュラーは無関係だから俺の気持ちなんて分からいよな……」


 今度は高山君に大石君は皮肉れたことを言い出す。すると突然、順子が話に割り込んできた。


「無関係って何よ!? 高山君だってレギュラーになれるかもしれないわよ!! ねっ、五十鈴君?」


「いや、何で俺に聞くんだ、岸本?」


 彼が困惑した表情をしていると大石君が順子に詰め寄る。


「な、何だよ岸本? お前には関係ないだろ!?」


「関係あるわよ!! 高山君はこの間まで私達と同じ『演劇部』の仲間だったのよ。本当は今年も一緒に演劇をやりたかったけどさ……高山君がバスケ部に入るって言うから仕方なく送り出したけど……でも『仲間』という事は変わらいと思っているの。だから私は仲間の高山君をバカにする人は許さないのよ!!」


「フン、何だよソレ? 言ってる意味が分からねぇよ!!」


「別に分からくていいわよ。あんたバカだし!! ねっ、五十鈴君?」


「だから、俺に聞くんじゃないよ、岸本!! なっ、石田?」


「わ、私に振らないでよ、五十鈴君!!」


「バカって何だよ!?」


「バカはバカよ!!」


 二人が言い争いをしている最中、


「おーい、何を揉めているんだぁ?」


 声をかけてきたのは森重君だった。これは更にマズイことに……


「も、も、森重―っ!! あんた、よくもさっきは私に恥をかかせたわね!?」


「えーっ!? 岸本、まだ怒っていたのか!?」


「当たり前じゃないの!!」


「うわっ!! お、俺、用事思い出したからちょっと……じゃあな」


 森重君はそう言うと逃げる様に教室を飛び出した。


「待ちなさい、森重―っ!!」


 順子もそう叫びながら教室を飛び出し森重君を追いかけて行ってしまった。


「な、なんだよ……俺との言い合いは終わりかよ……」


 なんだか寂しそうに呟いている大石君の近くで私と彼と高山君は同時に、


「 「 「はぁ……」 」 」とため息をつく。


 その時、私は彼と目が合いお互いに苦笑いをしていた。



 こうして今までとはあまり変わらない、でも少しずつ大人の階段を上って行く六年生が始まる。


 この時の私は『運命』を変える一年になることを知らない。





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


新章スタートです。

六年生になった浩美とその友人達


これから浩美達にはどんなことが待ち受けているのか?

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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