第49話 まさかのお別れ

 三月、卒業式の日が近づく中、今日は『演劇部』で六年生達の『お別れ会』をすることになっている。


 私は『お別れ会』の準備をしていたけど、途中でお手洗いに行った。

 するとお手洗いの前で高田さんと大浜さんが話をしている。


 そして私は二人の会話の内容を聞き、衝撃を受けてしまった。


 私はお手洗いに行くのを忘れて慌てて『お別れ会』の会場の教室に戻り彼の前で息を切らしながら話す。


「五十鈴君!! 大変、大変よ!!」


「い、石田どうしたんだよ? めちゃくちゃ息を切らしているけど……」


「お、驚かないでよ!? た、立花部長が東京に引っ越すらしいのよ!!」


「えーっ!?」


 私の話に彼や一緒にいた高山君も同時に驚きの声をあげた。


「う、嘘だろ!? ま、まさか……そんな……石田、それってホントは悪い冗談なんだろ!?」


「じょっ、冗談なんて言うわけ無いじゃない!! 本当の話よ!! さっき高田さんと大浜さんが話しているところを聞いたんだから!!」


「…………」


 彼はあまりに突然のことで固まっている様に見える。

 私も同じように固まっているけど……


 ただ私が驚いたのは『前の世界』の立花部長は私達が先で通う『青葉第三中学校』に通うのではなく、地元の『私立の中学』に通うということだった。


 それで疎遠にはなってしまったんだけど、『この世界』の私は中学生になっても立花部長に会おうと思っていたのに……東京はあまりにも遠すぎるじゃない……


 何故こうなってしまったんだろう……?


 まさか『この世界』の立花部長が東京に引っ越してしまうだなんて……


 固まっている彼に高山君がこう言った。


「隆、今日は久しぶりに全員集まって『お別れ会』をやるんだから、その時に立花部長に直接聞いてみようぜ!?」


「あ、あぁ、そ、そうだな……」


 彼は元気のない声で返事をする。

 きっと彼は聞けないんじゃないかな?

 ここは中身が十五歳の私が聞かないといけないかもしれないわ。


 そして『お別れ会会場』に久しぶりに演劇部員三十名全員が揃った。


 みんなワイワイと話をして騒がしくしているが、私と彼、そして高山君の三名は一言も話さずうつむいている。

 

 そしてそんな中、山口先生が全員に話を始める。


「皆さん、今日は久しぶりに全員が集まり先生とても嬉しいです。ただ今日で六年生の人達とはお別れと言うのはとても寂しいという気持ちもあります。でも六年生の人達はこれから中学生になってあなた達、後輩の前を歩き色々な事に挑戦しながら成長していき後輩達の手本となって歩んで行ってくれます。だから皆さんも寂しいでしょうけど今日は笑顔で六年生達を見送りましょうね?」


「 「 「 はーい 」 」 」


「それでは五年生代表の佐藤さんから一言挨拶をしてもらいます。佐藤さんよろしくね?」


「は、はいっ!!」


 いつもは何事にも恐れない佐藤さんだけど、今日に限ってはかなり緊張した表情をしている。そんな佐藤さんの姿を見て福田さんは笑いをこらえている。


「ろ、六年生の皆さん、長い間お世話になりました。そ、そして本当に有難うございました。わ、私達は六年生の皆さんをとても憧れていました。そしてこれからも皆さんを目標に頑張っていきたいと思って……います。中学生になっても引き続き……わ、私達の目標でいてください。ほ、本当に……あ、有難うございまし……ウェ―――――――ンッ!!」


 泣くのを我慢していた佐藤さんだったけど、ついに耐え切れなくなり泣き出してしまった。


 そしてそれにつられて同じ五年生の堤さんと後藤さんも泣きながら佐藤さんを抱きしめ、顔をくしゃくしゃにして三人同時にこう言った。


「 「 「本当に有難うございましたっ!!」 」 」



 泣きじゃくる後輩達を見ていつもは気の強い影の副部長高田さんや常に冷静な大浜さんもクスンクスンと泣き出した。


 その横では安達さんや轟さん、他の女子達も涙ぐんでいる。


 そんな中、一人冷静な表情をしている立花部長のことを私と、彼と高山君はじっと見つめていた。


 すると順子が私にソッと小声で話しかけてきた。


「浩美どうかしたの? 今日はなんだか様子が変だけど……」


「えっ? だ、大丈夫よ。ごめんね、なんか心配かけちゃって」


「ううん。別に心配とかじゃないんだけどさ。なんだか浩美もだけど五十鈴君や高山君の様子もおかしいような気がしたから……」


 順子が私にまだ話そうとしたけど、立花部長が挨拶を始めようとしたので順子はそれ以上、話すのをやめた。


 そして立花部長が私達後輩に話し出す。


「みんな今日は有難う。そして今まで有難うございました。本当に楽しい演劇部でした。ここにいる六年生は四年生の時から一緒の人達がほとんどだから、なんか家族みたいな感じだったし、四年生や五年生の人達は新しい家族が増えたような気がしてとてもアットホームな居心地の良い場所でした。そんな家族とお別れするのはとても寂しいけど……でもまたいつか……いつか会えると……会えると思うから……」


 ここで立花部長が言葉に詰まると、


「立花部長!! 来年、中学で直ぐに会えますよ!!」


 佐藤次期部長が立花部長にそう言うと、その言葉に立花部長の涙腺スイッチが入ってしまい瞳から涙が溢れ出してきた。


 それを見た高田さんと大浜さんが立花部長の傍に寄り三人でシクシクと泣き出した。


 その姿を見た私は遂に我慢の限界がきてしまい泣きながら立花部長に問いかけた。


「た、立花部長!! 東京に引っ越すって言うのは本当何ですか!?」



 私の問いかけにその場にいた、事情の知らない人達は悲鳴にも近い驚きの声をあげる。


 そして立花部長が指で涙をさっとふき取るようなしぐさをしながら私に少し微笑みながら答える。


「石田さんは知っていたのね? そう、そうなの……。私、お父さんの仕事の都合で東京に引っ越さなくちゃならなくなったの……だから佐藤さん? 私は卒業してもみんなとは会えない……ご、ごめんね……ううっ……」


 そう言うと立花部長はしゃがみ込み泣いている。高田さんや大浜さんもしゃがみ込み、立花部長の肩に手を添え一緒に泣いている。


 その時、佐藤さんが大きな声でこう言った。


「わ、私、手紙書きます!! 立花部長、私と文通してください!! だから引っ越し先の住所を後で教えてください!?」と、目に涙をためながら話す。


 私はこの時の佐藤さんが凄く素敵に思えた。


「佐藤さん、ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ。私も手紙書くわね……」


 立花部長が少し落ち着きを取り戻し微笑みながら佐藤さんに言うと、その場にいた女子全員が「私も書く!!」「私も書きます!!」と立花部長に駆け寄りみんな抱き合い泣きじゃくるのだった。


 勿論、私もその中にいる。


 その様子を彼や高山君、他の男子達は少し離れて見つめている。

 

 彼の目にも涙が流れていた……





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


『お別れ会』当日

まさか、立花部長が東京に引っ越すだなんて……

衝撃を受ける浩美達……


次回、長かった四年生編も最終話です。

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る