第48話 このままでも良いって思ったけど
「 「 「え――――――――――――――っ!?」 」 」
高山君のまさかの告白に私以外が驚いている。
「そうなんだ……何かそんな感じはしていたんだけどな……」
あれ? 彼も意外と冷静だわ。
『前の世界』では誰よりも驚いていたのだけど……
「何でだよ高山!? 俺たち三人一緒にバスケ部に入る約束したじゃないか!?」
彼とは対照的に大石君は少し怒り気味に高山君に言っている。
「ちょっと待ってよ、大石君!! 高山君の話を最後まで聞こうよ……ねっ?」
私は大石君を落ち着かせようとすると、
「そ、そうだな。石田さんの言う通りだな。まぁ、いつも冷静な高山が演劇部に残るって言うんだから何か理由があるんだろうな……」
私の言葉で大石君は冷静さを取り戻し高山君の話を聞こうとしてくれた。
そして高山君が話し出す。
「俺さ、最初は隆と同じで仕方なく演劇部に入ったんだよ。演劇なんて全然興味なかったからやる気も起こらなかったしね。でも隆が書いた脚本が採用されたり、四年生で副部長になったりさ……隆のやつ凄いなぁって思ったし、演劇のことが少しだけ気になりだしたんだ。そして七夕祭りの時に木の役をして後ろからみんなの演技を見ていたらとても感動してしまってさぁ……そしてこないだの文化祭でスズメの役で長いセリフを覚えるのは大変だったけど、その長いセリフを福田さんとしっかりしゃべれたことが凄く嬉しくて、嬉しくて……」
「あれは良かったよなぁ。あんな長いセリフよく覚えたよ。俺だったら絶対無理だったと思うぞ」
彼がそう言うと高山君が続けて話し出す。
「俺は元々、隆に誘われてバスケ部に入る約束をして隆に誘われて演劇部に入っただろ? 今までも隆に誘われてというのが多かったと思うんだ。前に隆のお父さんが言っていた『つ』が取れたらって話あっただろ? 『つ』が取れたら一人前の入り口だって。そして自分でなんでも決めろってさ。だから今度は自分で決めたいと思ったんだよ。そして俺はいつの間にか演劇が好きになっていたからさ、今辞めるのは嫌になったんだよ。だからさ、あと一年演劇部で頑張りたいと思ったんだ……」
高山君の話をみんな黙って聞いていた。
そして順子が高山君に話し出す。
「高山君、凄いよ!! ほんと凄い!! 私、泣きそうになっちゃったわ。高山君の言う通り最初は全然やる気なさそうだったもんね? でもさ、七夕祭りのあとから何か変わったような気が私もしていたわよ。浩美もそうだけどやりたいことをする。それでいいじゃない!! 一緒に演劇部で頑張りましょうよ!?」
「どう大石君? 高山君の話を聞いてどう思った?」
久子が大石君に聞いてきた。
「えっ? ああ、うん……別にいいんじゃない。高山の自由だしさ……」
大石君は少し暗い表情でそう答える。
「高山の好きなようにしたらいいよ。俺も演劇が好きになったし気持ちはよくわかるしな。別にあと一年と言わずに六年生になっても演劇をすればいいんじゃないの?」
彼が笑顔でそう言うと高山君は、
「いや、演劇はあと一年だけにするよ。俺だってバスケが好きだしさ……」
「でも六年生からバスケやりだしてもレギュラーにはなれないかもしれないぜ」
大石君がそう言うと高山君は、
「別に俺はレギュラーにならなくてもいいよ。そりゃあ、レギュラーになれたら嬉しいけどさ、隆や大石とはバスケに対しての思いは違うと思うからさ……」
「まぁ、高山がそれでいいなら俺は別にいいけどな」
「そうだな。それじゃ六年になったらバスケ部絶対に来いよ? 待っているからさ」
彼が笑顔で高山君にそう言うと、この話は終わる事になる。
こうしてそれぞれの夢が語られ、いつしか辺りが薄暗くなっていき冷たい風が吹き出してきた。
「ねぇみんなぁ? 私だんだん寒くなってきたわ。もうそろそろ帰りましょうよ?」
私が少し体を震わせて言うと全員満場一致で下校することになったんだけど、一人だけ私達を引き留める声がする。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? お、俺だけまだ何も話をしていないんだけど!!」
声の主は田尾君だった。
その田尾君は泣きそうな顔をしながら茫然としている。
「あっ? そう言えば、田尾君だけ五年生になったらどうするのかを言ってなかったわね? でもアレでしょ? 田尾君はサッカー部に入るんでしょ?」
「ま、まぁ、そうなんだけどさぁ……石田さんが先に言わないでくれよぉぉ。自分の口から言いたかったよぉぉ!!」
その時の田尾君の何とも言えない顔を見た私達は皆揃って大笑いしてしまった。
来月には立花部長達の卒業式……
そして四月になるとそれぞれの新しい道が待っている。
私は四月になるのを楽しみにはしているけど、その前に寂しい別れも刻一刻と近づいていることも理解している。それに私の病気がいつ発症するかもしれないと思うとやはり不安でもある。
そう思うと私は『彼に好きって伝えたい』とう気持ちはあるけど、人生で一番楽しかった小学生四年生がこのままズッと続けばいいのになぁと思ってしまうこともある。
「ほんとは今のままが良いんだけどなぁ……」
私がボソッと独り言を言うと彼が、
「石田? 今、何か言ったか?」
「い、いえ別に、な、何でもないよ。ただの独り言だから……」
「ふーん、そっか……でも五年生になってもきっと楽しいと思うよ……」
「えっ?」
私は驚いた顔をしたけど、彼は満面の笑みで私の顔を見ている。
な、何よ? 私の独り言、しっかり聞こえいてたんじゃない……
でも、彼の言う通りよね。
五年生になっても……中学生になっても私は彼の近くにいるだけでとても楽しいし、そして幸せなんだ……だから死ぬまで……死ぬまで後悔の無い生き方をしよう……
私は精一杯、生きるんだ。
キーン コーン カーン コーン~
学校のチャイムの音が校庭内に鳴り響き、私達はそれぞれの家へと帰宅するのだった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
演劇部に残ると宣言した高山に対し、みんな理解をし、エールを送る。
浩美にとって楽しいかった四年生もあと少し……
このまま続いて欲しいと思いつつ、隆に「五年生も楽しいよ」と言われ考え直す浩美。
浩美は命ある限り精一杯生きる事を改めて誓うのであった。
四年生編もあとわずか、どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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