第43話 暴走少年

 私達の演劇は最終局面にきている。



「 「しかし、許せないのはコウモリだ!! あいつは自分達だけ助かろうとして俺達を共倒れさせようとしたんだ!! 絶対に許さんぞ!!」 」


 ハヤブサ役の堤さんと猿役の望月さんが同時に言った。


「 「 「そうだそうだ!! コウモリは許せない!!」 」 」


 他の獣や鳥達も呼応した。そして象役の天野さんやサイ役の後藤さんがこう言った。


「今からコウモリの村に行き、奴等をとっちめてやろうではないかっ!!」


「 「 「お――――――っ!!」 」 」


 舞台の照明が消え、数秒後再び照明がつきコウモリの村の場面に変わる。



 舞台にはコウモリ役の福田さんがしゃがみ込み、獣や鳥達に囲まれている。


「ど、どうかお許しください。ふ、深く反省しておりますので、どうか命ばかりはお助けを~っ!!」


「何を今更許してくださいだ!!」

「そうだ!! このどっちつかずの卑怯なコウモリめ!!」

「鳥だと言ったり獣だと言ったり、貴様はいったい何者だ!?」

「いずれにしてもこの土地には住めないようにするから覚悟をしろ!!」


「えっ!? そ、そんな、そ、それだけは……」


 そして獣の王役の立花部長と鳥の王役の彼がが二人揃って文書を読み上げる。


「 「よく聞け、コウモリよ。今回、皮肉にも戦争を終わらせるきっかけを作ったお前達『コウモリ一族』の命だけは助けてやろう。ただし一生この国の太陽の光を浴びる権利をはく奪する。この島の北側の山の複数ある洞窟に一生住むことを命ずる。よいなっ!?」


 ここで山口先生のナレーションが入る。


「こうしてどっちつかずの卑怯なコウモリはこれがキッカケとなり現代まで暗い暗い洞窟に住んでいるのでした」


 そして舞台の明かりが再び消え、裏方さんは大忙しだ。


 その間に再び山口先生のナレーションが始まる。


「戦争が終わってから数年が経ち洞窟でひっそり暮らしているコウモリのもとにスズメが尋ねてきました」


 ここから福田さんと高山君の結構長いやり取りが始まるんだけど、この二人はよくあれだけの長いセリフを覚える事ができたなって感心してしまう。


「チュンチュン、コウモリさん、久しぶりだね?」


「はい、お久しぶりでございます」


「この洞窟暮らしも慣れたみたいだねチュン」


「はい、慣れはしましたがずっと暗闇にいますので目が悪くなり、空も飛んでいませんので全員運動不足ではあります……」


「そうか。色々と問題はあるみたいだけど、とりあえずは平和に暮らしてはいるんだね? チュン」


「はい、そうですね。何事もなく暮らしてはいます」


「そっか。でも残念な話があるんだチュン」


「残念な話?」


「そうだチュン……まぁコウモリさんにとって残念かどうかはわからないけどチュン……」


「どういったお話で?」


「実はイナゴの大群がこの島に向かっているらしいチュン。その間、他の島の農作物や草などを食べつくしていき島の生き物たちは皆、他の土地に逃げているそうだチュン」


「そ、そうなんですかっ!?」


「だから僕たち鳥の国と獣の国が話し合った結果、イナゴの大群と戦っても勝ち目がないという判断をして、残念だけど明日この島を出ることになったんだチュン」


「ちょ、ちょっと待ってください!! ここ数年私は洞窟暮らしでしたが基本的に私はこの島が好きです。前に住んでいたコウモリ村がイナゴ達にめちゃくちゃにされるのも耐えられません」


「そんなこと言ってもチュン……」


「私に良い作戦があります!! いかがでしょうか? お願いです。私が考えた作戦を皆さんでやっていただけないでしょうか!?」


「チュン!? 作戦!?」


「この数年、私は自分がやったことを反省していました。それなのに命があるだけでもありがたいと今は感謝をしております。なのでどうか私に皆さんのお役に立てさせていただけないでしょうか? 少しでも罪滅ぼしをさせていただけないでしょうか?」


 再びナレーション……


「スズメはコウモリの熱意を感じ、コウモリの考えた作戦を聞き、急いで鳥の国に戻るのであった」


 ここで舞台の明かりが消え、舞台袖では福田さん、高山君がしゃがみ込む。


「あぁ、ようやく長いセリフが終わった~っ!!凄く疲れたよ~」


「福田さん、僕もですよぉぉ。ま、まさか僕がこんなに長いセリフをしゃべるなんて……」


「二人ともお疲れさま。とても良かったわよ。でも福田君は主役だからまだまだ長いセリフあるから頑張ってね」


 立花部長が笑顔で二人に言った。


「は~い」


 福田さんは疲れ切った表情で返事をする。

 そして立花部長が小声ではあるが勢いのある声で、


「さぁ!!ここからは ”あの” 田中君の出番よ!!」




 そして再び舞台が明るくなる。


 コウモリたちの島を目指して飛んでいるイナゴの大群の場面から……


 ブ――――――ン ブ――――――ン……


 イナゴ役の四名が大きな声を出して両手を広げ飛んでいるように見せている。

 また四名とも顔を緑色に塗って全身も緑色にしており、その姿を見て会場からは笑い声と田中君についての会話がかすかに聞こえてくる。


「あれ三組の田中じゃね?」「そうだ田中だ。あの変な奴だ!!」




「王様!! 王様!!」


 イナゴA役の六年安達さんが話しかける。


「なんだっ!?」


 イナゴの王役田中君が振り向き聞き直した。


「王様ぁ……私、もうお腹がペコペコで耐えられません!! 小さい島でもいいから、早いとこ降りちゃってご飯にしましょうよ!?」


「そうですよ、王様!! 私達はすぐにお腹が減る体質です。もうそろそろ近くの島に降りたほうが良いのではないでしょうか!?」


 イナゴB役の轟さんもイナゴAの意見に賛同する。


「ぼ、僕はイナゴだけどそんなにお腹は減ってないけどなぁ……」


 イナゴC役の浜口君が元気の無さそうな話し方をする。

イナゴ役の中で一人やせ細っているので会場からは少し笑い声がする。


「うるさいぞ、お前達!! もう少しだけ我慢するんだ!! わしが目指している島には今まで食べたことの無い草木があるらしい。わしはそれが早く食べたくて、食べたくてたまらんのじゃっ!!」


 田中君の上手とは言えない棒読みなセリフのかん高い声が鳴り響く。


 でも、その棒読みが会場では意外にウケてしまった。


 しかし、それが田中君を調子に乗らせてしまうことになってしまう。

変に自信を持ってしまったと同時に元々セリフが少ないことを不満に思っていた田中君は脚本を無視したセリフを次々と話し出してしまうのだ。


「本当はあんな苦い味の草木なんか嫌いなんじゃ。わしは甘い、甘いイチゴやメロンを腹いっぱい食べたいのじゃ!! 野菜みたいなマズイものもいらん!! 野菜はお前達が食べろ!! イチゴやメロンはやらんからな!! ブツブツ……」


 田中君の急なアドリブで三人は茫然とし広げていた手をおろし困惑した表情になっていた。


 「小声で田中、おい田中……」と轟さんが声をかけるけど田中君は自分の演技に酔っていているみたいで全然聞こえていないみたい。


 田中君の暴走が止らない……






――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


最終局面でまさかの田中の暴走が!?

果たして彼の暴走を止めることができるのか!?


次で文化祭編は最終話です。


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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