第44話 失敗は成功のもと

「ダメだこりゃ~……」


 安達さんが諦めた表情をしながら小声で呟いている。


 『前の世界』では田中君のあんな暴走は無かったんだけどなぁ……

 このままだと、せっかく順調に進んでいた演劇が台無しになってしまうかもしれない。


 ここは『本当は中身が十五歳のお姉さん』の私がなんとかしなくちゃいけないのかもしれないわ……


 そんな事を思っている私の傍で次の出番を待っているコウモリ役の福田さんは出るタイミングがわからなくなり困っていた。


 すると福田さんの耳元で彼が何かヒソヒソと話したかと思うと、その彼の言葉に対し福田さんが嬉しそうな表情をしながら彼に握手をして田中君達がいる舞台中央に走り出す。


 そして……


「田中ーっ!! そこのうるさい田中――――――っ!! あっ、間違えた!! イナゴのうるさい王様――――――っ!! あっ、それも間違えた。偉大なるイナゴの王様――――――っ!!」


 福田さんのセリフで少し引き気味だった客席は大爆笑となり、この日一番の笑いがとれたのである。



 そして福田さんのセリフで客席が爆笑したことにより田中君はハッと我に戻り自分より笑いがとれた福田さんを睨みながら本来のセリフをしゃべりだす。


「誰だ、貴様は!? 見た事のない生き物だな? 貴様は獣か鳥かどっちなんだ!?」


「いえいえ、イナゴの王様。私は獣でも鳥でもありあせんよ。私は王様と同じ仲間の虫でございます。私が住んでいる島に来られるとお聞きしお迎えにあがったのでございます」


「何、本当か!? な、なんか怪しいな……」


「いえいえ、とんでもございません。私は島の獣や鳥達に虫だからといって、ずっと仲間外れにされていたのです。今日は今までの復讐ができると思い喜んでイナゴの王をお迎えに来たのですよ!!」


「ほう!! そうだったのか。それはかわいそうだったのう。わしが来たからにはお前達虫には悪いようにはせんぞ!! わしに任せておけ!!」


「はい!! 期待しております。その前に皆さん長旅でお疲れでしょうから私の住まいの洞窟にて休憩をとられてはいかがでしょうか? 王様に食べていただこうと思いましてイチゴやメロンなどの甘い、甘い果物をたくさん用意しております。まずは私の住まいに来て頂きおもてなしをさせていただけないでしょうか!?」


「おぉ、おぉ!! そうかそうか!! それも悪くないの!! よし、まずはお前の住処に行き腹いっぱいイチゴやメロンを食べようではないか!!」


 ようやく話が元に戻り、私を含め部員全員がホッとした。


 そしてここで再び山口先生のナレーション……


「こうしてイナゴの大群はコウモリの住処である洞窟に入り休憩をとることになる。そして洞窟の中で休憩をとるイナゴの王達は……」



「王様、まだまだ外に美味しい果物がありますので取ってまいります」


「おぉ、そうかそうか。うむ、取ってまいれ」


 そしてコウモリ役の福田さんが洞窟の外に出た瞬間、獣役全員で大きな岩を洞窟の入り口にドンドン置いていき、大きな岩の間にできた隙間に私達、鳥役達全員が小さい岩を埋めていった。


「ん? 何か外が騒がしいような……まっいっか……」


 イナゴの王の田中君や部下達は何も気にせず果物を食べている。一生、洞窟から出られないとは知らずに……


「 「 「やったーっ!!やったーっ!!」 」 」

「 「 「イナゴ達をっ洞窟に閉じ込めたぞーっ!!」 」 」


 獣や鳥達は抱き合い喜びあった。

 そしてスズメ役の高山君が鳥の王様役の彼に話しかける。


「チュンチュン。王様? イナゴ達を閉じ込めることができたのもコウモリの作戦のおかげでチュン。これを機会に前の罪は許してあげてはいかがでチュン!?」


 すると獣の王役の立花部長も、


「スズメ殿のおっしゃる通りですな。私は賛成だが鳥の王はいかがかな?」


「そうですな。私も異論はありません。どうじゃコウモリよ。これからは我々と一緒に仲良く暮らそうではないか?」


 鳥の王役の彼がそう言うと、コウモリ役の福田さんは少し考えたあとこう答えた。


「前の罪を許していただき有難うございます。とても光栄であります。しかしながら私達はやはり獣でもなく鳥でもないコウモリです。またいつか私の子孫が皆様にご迷惑をかけてしまうかもしれません。なので今まで通り私達は洞窟でひっそりと生活させていただきたいと思います」


「うーん、そうかぁ……それは困ったのぉ……でも何か褒美をやりたいのだがのぉぉ……」


 獣の王役の立部長がそう言うと鳥の王役の彼が一つ提案をする。


「それではコウモリよ。お前達はここ数年洞窟で暮らしせっかくの翼があるのに飛ぶことも許されていなかったであろう。これからは夕暮れから早朝までの間は自由に飛び回れるというのを褒美として受け取ってはくれぬか?」


「おーっ、鳥の王よ、それは名案だ!! どうじゃコウモリよ!?」


「はっ!! 有難き幸せです。先程、私も数年ぶりにイナゴの王のところまで飛んだ際にはとても気持ちが良かったのです。そういったご褒美でしたら私達は喜んでいただきます!!」


「よしっ、これで決まりじゃな!!」


 ここでハヤブサ役の堤さんからも提案あった。


「我々鳥達は、コウモリ達が飛んでいる時間帯はできるだけ飛ばないようにしましょう!!」


「それでは我々獣たちは、夜は出歩かずおとなしく家にいることにするウキィッ!!」


 猿役の望月さんも提案してきた。


 コウモリ役の福田さんは鳥の王と獣の王の前にひざまずき涙を流し喜び、他の獣や鳥達は笑顔で拍手をしている場面で幕が閉じるのだった。


 最後に山口先生のナレーションで私達の演劇は終了する。


「こうして罪滅ぼしができたコウモリは昼間は静かに洞窟で暮らし、夜になると外に出て自由に飛び回るとても幸せな生活ができるようになりました。皆さんもコウモリのように、どちらを選ぶか迷ったり裏切ってしまったり、そして失敗することもあるでしょう。でもこのコウモリのように失敗してもちゃんと心から反省していれば、いつかその失敗を取り返せるチャンスがくる時もあります。失敗は成功のもとです。これから皆さん、たくさん迷って、たくさん失敗して、反省をして、やり直すという事を繰り返してください。そうすればきっと最後には大きな成功をつかめるでしょう。これで演劇部による『コウモリ』を終わります。最後まで有難うございました」



 山口先生の話が終わると会場は七夕祭り以上というか、『前の世界』以上の割れんばかりの大歓声が沸き起る。


 そして舞台の幕が再び開き、客席に挨拶をする為に勢ぞろいした私達演劇部員の姿に更に大きな大歓声が巻き起こる。

 

 私はその光景に鳥肌が立つ。

 そして『前の世界』では流れることのなかった涙が頬を流れ落ちる。


 私は恥ずかしくて顔を横に向けると隣にいる立花部長の大きな瞳からも大粒の涙が流れていた。


 立花部長の涙って初めて見たかも……


 あっ、そっか……


 『前の世界』の頃は理解できなかったけど、今の私には理解できる。

 

 立花部長にとっても今回の演劇は『失敗は成功のもと』だっていう事を……





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


これで小学四年・文化祭編は終了です。

そして次回は四年生編最終章となります。


どうぞ次回からの新章も宜しくお願い致しますm(__)m

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