第42話 最高のアドリブ

 森の中で静かに潜み、鳥たちが来るのを待っている猿達がいる。


「おかしいなぁウキィッ。そろそろ鳥達がここへ来てもいい頃なのにウキィッ……」


 猿のリーダー役の望月さんが頭をかしげる。


 するとそこに誰かの声が聞こえてきた。


「猿さーん、猿さーん!! 猿さんはこちらにいませんか~っ!?」


「だっ、誰だ、お前は!? さては鳥の仲間だなウキィッ!?」


「ちっ、違いますよ!! ほら、私の口を見てください。あなた達、獣の国の方々と同じように、小さいですが牙が生えているでしょ? それに体中に毛も生えていますよ。よーく見てくださいよ~」


「うーん……言われてみれば……よしわかった、信用してやろう!! それで俺達に何の用なんだウキィッ!?」


「はい。耳寄りな情報を持ってきました。実は先ほど鳥達が私の村に来たのですが、私は隠れて奴らの話を聞いておりました。すると奴らはこの森を通らず遠回りをして向こうの森を抜けて背後から獣の軍に攻める作戦をしておりました。それを聞いた私は早くお知らせしたくて、急いで駆けつけたという次第でございます」


「ウキィッ!? なんだと!? それは大変だウキィッ!! 急いで王様の所に戻らなければ!!」


「いやいや、猿さん。私に良い考えがあるのですが、お聞きいただけますかね?」


 コウモリ役の福田さんはニヤッと怪しげな笑みを浮かべて自分の考えを猿役の望月さんにコソコソと伝えた。


「い、いかがでしょうか?」


「なるほどウキィッ!! よし、お前の考えた作戦でいこうウキィッ!!」


 ここで舞台の照明が消え、数秒後再び照明がつき、獣陣営の場面となる。



「た、大変だーっ!! 背後から鳥達が攻めてきたぞーっ!!」


 キリン役の時田さんが怪我だらけの体で逃げてきた。


「一体どういうことだ!? 猿達はどうしたのだ!? 何故あんなところから……」


 まさかの状況が起こって驚きを隠せないという獣の王役の立花部長の演技はとても感情がこもっていて素晴らしかった。


 象やサイも後ろから鳥達のくちばしで突かれて痛がっている。

 

 ヒツジ役の木場君とヤギ役の夏野さんは戦わず逃げ回っているだけである。


「メェーッ!! 怖いよ~戦いたくないメェーッ~!!」


 二人が仲良く手を繋いで舞台上を走り回っている姿に客席からは笑い声が聞こえる。


 鳥達の背後からの攻撃で形勢不利になった獣たちは次々と倒れていき、そして獣達がここまでかと思った瞬間「ウキキーッ!!」という大きな鳴き声が左袖からしてきた。


 そして直ぐに今度は鳥達の背後から猿役の望月さんが現れて、鳥達の翼を次から次と引っ掻き回し鳥達も飛び回る事が出来ずに地面に倒れていった。


「く、くそーっ!! 何で俺達の背後から猿が襲ってくるんだ!? 話が全然違うじゃないかっ!!」


 カラス役の大浜さんがそう叫ぶと同じくハゲタカ役の佐藤さんがこう言った。


「そうだ、そうだっ!! コウモリの奴は俺達が攻めている間は猿達を引き付けておくって言っていたのに……」


 そして遂にフラミンゴ役の私のセリフ……


「私はどうもあのコウモリの言う事は信じられなかったんだ。私達はコウモリに騙されたんじゃないの?」


 何とか噛まずに言えた私は心の中でホッとする。


「コウモリ?」


 鳥達の口からコウモリという名前が出てきて猿役の望月さんは首を傾げながら不思議そうな表情をする。そして、


「ちょっと待て、鳥達よ!! 今、お前達が言った事は本当かウキィッ!?」


「あぁ、本当だ。背後からの攻撃を提案したのはコウモリだ。まさか、そのまた後ろからお前達が襲ってくるとは考えもしなかったことだ……」


 トンビ役の高田さんが答えた。


「いや待て。俺達もコウモリから、お前達を背後から襲うよう遠回りの道を勧められたのだ。それも途中で三十分くらい休憩したほうが敵に見つかることなく効果的があると。よく意味はわからなかったが俺達は獣だと言うコウモリを信じて途中で三十分休憩してから移動したのだ。こうしてお前達をギリギリ倒すことはできたが、休憩などしなければ……それよりもあの時遠回りせずに、すぐに戻っていれば仲間がこんなに傷つけられずにすんだはずなのに……ウキーッ!!」


 猿役の望月さんは息を荒くして鳥達にそう言った。


 そして獣の王の立花部長が両脇にヒツジ役の木場君とヤギ役の夏野さんを従えて傷ついて座り込んでいる鳥達にこう言った。


「我々はそのコウモリという者に騙されたのかもしれんな。もしかすると同士討ちを狙ったのかもしれん!!」


「な、何だとっ!? あのコウモリめ、最初から信用できん奴だと思っていたんだっ!!」


 ハヤブサ役の堤さんが大きな声で言った。


 するとハヤブサの背後からチュンチュンチュンと鳴き声がする。


「皆さん大丈夫ですかチュン。お怪我はないですかチュン」


 スズメ役の高山君である。


「ホォォ!! ス、スズメ……お、お、王様はこちらに来られたか?」

 

 フクロウ役の順子が疲れ果てた顔でスズメに聞いた。


「はいっ!! 来られていますチュン!! 少しお待ちくださいませチュン!!」


 スズメ役の高山君がそう言うと左袖から彼演じる鳥の王が颯爽さっそうと現れた。


 黒いマントをはおり大きな口ばしをつけ、立派な王冠をかぶっているけど彼の頭のサイズよりも大きい為、顔が半分近く隠れてしまい誰が演じているのか分かりにくくなっている。


 あれ? 大丈夫かな? 客席の人達は鳥の王役が彼だと気付いているのかな?

 私は少しだけ不安を感じる。


 そして彼がセリフを話し出す。


「な、なんだ、この状況は!? 獣だけでなく我が兵士達もボロボロではないか!? 一体、どういうことだ!? 我々の作戦は失敗したのか!?」


 ん? なんだか『前の世界』の時よりも彼の演技が上手く感じたんだけど、気のせいかな?


 獣の王役の立花部長が鳥の王役の彼に近づいてきた。


「鳥の王よ、久しぶりだな? 見ての通り我々はコウモリとう者にまんまと騙されたみたいだ。そして互いに大きく傷ついてしまった。私はもうこれ以上戦ってもお互いに何も得することはないと思うが鳥の王はどう思われる?」


 立花部長がハキハキとした口調で言う。


「うむ、そうみたいですな。そもそも私は昔からこの戦いには疑問を感じておったのじゃ。祖父や父に言われて渋々戦いを続けてはいたが……しかし戦って何の意味があるというのか? ここらへんが潮時ではないだろうか……」


「うむ、そうですな。只今を持って戦争は終わりにしましょう」


「おっ、王様!! ほ、本当ですかメェ? 戦争は本当に終わりですかメェ?」


 ヒツジとヤギが嬉しそうに同時に聞いている。


 そしてここからが私にとって一番気になるシーン……


 獣の王役の立花部長と鳥の王役の彼は練習までとは違い、互いに目を合わせ、手を差し出しがっちりと握手をする。


 そして……


 遂に二人は抱き合った。


「 「 「バンザーイ!! バンザーイ!!」 」 」


 他の獣達や鳥達も二人を囲んで大喜びをする演技を頑張っていたけど、私は二人が抱き合っている姿が気になって仕方がない。


 っていうか、抱き合っている時間長くない?


 よく見ると彼は手を離しているけど立花部長が彼に抱きついている手を離していないみたいだわ。


 そんな光景を見るのが耐え切れない私は……


 『中身が十五歳』の私は……


 遂に周りを気にせず、こんな言葉を口に出してしまう。


「二人共、抱き合っている時間が長いわよ!!」


 私の声が体育館全体に響き渡り、舞台上も客席も一瞬、時間が止ったような感じになる。そして数秒後、体育館全体が爆笑の渦になってしまった。


 私の言葉がのちに『最高のアドリブ』と絶賛されてしまうのだけど、私には恥ずかしさと後悔という言葉しかなかった……





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


劇もクライマックスの中、浩美が一番恐れていた場面がやってきた。

彼と立花部長が抱き合うシーン……


そしてあまりにも抱き合う時間が長い為に浩美は思わず突っ込んでしまった言葉がのちに『最高のアドリブ』と絶賛されることに……まぁ、浩美にとってはあまり嬉しくはないみたいだが……


劇も最終局面に入ります。そしてある人物が暴走?

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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