第38話 私、好きな人いませんから

「フン、でも石田さんは男子から陰で『鬼姫』って言われていましたよ!! 実際、本当に鬼みたいで怖かったしさ……」


「『頼れるお姉さま』に『鬼姫』……? プッ……」


 立花部長がそう声に出した後、少し吹き出した。


『頼れるお姉さま』はともかく『鬼姫』と呼ばれていることだけは納得のいかない私は田中君をギロッと睨んだあと、「たっ、田中!! 余計な事を言うんじゃないわよ!!」と、呼び捨てで怒鳴ってしまった。


 周りは一瞬、静まりかえってしまったけど、数秒後には私と田中君以外の人達の笑い声で体育館が鳴り響いていた。


 あれ?

 何でみんな笑っているのかしら?


「石田さん怒るととても怖いのね? でも何故か『田中!!』っていうところは面白かったけど……」


 佐藤さんがお腹を押さえながら自分と同じだといった感じで言ってきたけど、私としては同類に思われるのは勘弁してほしい。


 特に彼の前ではおしとやかな女性で見られたいし……


「いずれにしても浩美ちゃんは『しっかり者』だということだね?」


 そう、立花部長はフォローしてくれたのは良いけどさ……

 お腹を手で押さえているのは何故なんですか?


「わ、私のことはもういいじゃないですか? そんなことよりも今は『つ』の話をしているんですよね?」


「そうそう、その『つ』のことだけど、戦国時代ならここにいる部員のほとんどが結婚できる年齢なんよだね?」


 影の副部長の高田さんが思いもよらないことを言い出すと大浜さんが更に驚く様な事を言い出してしまった。


「だねぇ……そう考えると凄いことだわ。それじゃ四年生だけど『しっかり者』の石田さんなんかは今好きな人がいれば別に結婚したっていいじゃないかしら?」


 大浜さんにとってはとても軽い気持ちで言った言葉なんだろうけど、私にとっては刺激が強過ぎて耳も顔も真っ赤になってしまった。


「おっ、大浜さん!? な、何て事を言うんですか!? 私はまだ十歳ですよ!! 日本の法律では女性は十六歳からしか結婚できないですからね!!」


「さすが浩美ねぇ……そんなことも知っているんだ……」


 順子が感心した表情で私に言ってきたのが面白かったのかどうかは分からないけど、「ワッハッハッハッハ!!」と、私以外の笑い声が体育館中に響き渡る。


「それじゃ好きな人はいるけど法律で結婚できないって事でいいかしら?」


 今度は高田さんが意地悪そうな顔をしながら私に言ってきた。


「いっ、いないです!! 好きな人なんて私、絶対いないですから!!」


 私は更に顔を真っ赤にしながら大きな声で叫んでしまった。


 その時、私は一瞬彼の方を見たけど彼は私の視線なんて気付いていなかった。


 はぁ……しかし情けないなぁ……

 中身は十五歳の私が年下の彼女達にこんなにもイジられるだなんて……


 情けないやら、恥ずかしいやら、そしてこういった会話に何も反応しない彼に対しては悲しいやらだわ……



 こうして私の『イジられ時間』後も『つ』の話でみんな盛り上がっていたけど、山口先生が大きな声で、


「さぁそろそろ練習を再開しましょうか? あまり時間もないし、みんな定位置についてくれるかな?」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? いつの間にか『つ』の話になっていましたけど、ぼ、僕の話は一体どうなったんですか!?」


 田中君が少し焦り気味に山口先生に言うと、すかさず隣にいた立花部長が田中君に、


「あれ~さっき田中君、自分で言ってなかった? 僕はわがままでもないし、我慢もできるし、『おこちゃま』でもないんでしょ? それともあれは全部嘘だったのかしら? もし嘘だったら私、とっても残念だなぁ……」


 立花部長の皮肉たっぷりの言葉に田中君は、凄く苦しそうな表情をすると、


「うっ、うーん……ぼ、僕は『おこちゃま』じゃないです……」


 とだけ言うと、うなだれ気味に自分の定位置にトボトボと歩いて行ってしまった。


 そんな悲しそうに立ち去って行く田中君の後ろ姿を見て彼が高山君に問いかける。


「高山? もしかして田中のわがままを抑えるために、『つ』の事を言ったのか?」


「さあねぇ~どうだろねぇ……」


 高山君はそう言うと、笑顔でペロッと舌を出し自分の定位置へと向かっていった。


 その高山君の後ろ姿を彼は腕を組みながら見ている。そして、


「あいつも四年生にしては大人だよなぁ」


 と、何か意味深な言葉を呟きながら感心していたけど、私としては『五十鈴君の方がもっと大人だよ。たまにオジサンみたいな時もあるわよ』と心の中で突っ込んでいた。


 ちなみに田中君は私のせいで立花部長以外の女子達から今日を境に『田中』と呼び捨にされる様になり、その度に『田中君って呼んでくれ!!』と叫ぶようになるのだった。


 田中……いえ、田中君ゴメンね……


 


 さぁいよいよ明日は文化祭

 そして彼の十歳の誕生日でもある。


 『前の世界』では文化祭当日にも新たな問題が発生してしまうのだけど、『この世界』でもそうなるのかな……?


 ただ、今日の『田中問題』も起こったくらいだし、明日の新たな問題も発生する可能性は高いかもしれないなぁ……


 でも『その問題』が起こった時に彼は『前の世界』と同じような事を言うのかな?


 それとも……


 明日の文化祭はとても楽しみだけど少しだけ不安が残る私であった。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


田中君のわがままから『つ』の話になったかと思えばいつの間にか浩美が先輩女子達にいじられる羽目に……


なんとか話も終わり稽古再開。


さぁ、遂に明日は文化祭!

でも浩美はまだ何か問題が起こることを知っているので不安が少し残っている。

果たしてその問題とは!?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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