第39話 誕生日プレゼント
【文化祭当日の朝】
この日は彼が『つ』が取れて晴れて十歳になる日でもある。
あと二年少しで中学生になるんだぁ……
その時に私は彼に……
私はそう思うと同時に初めて演劇をする緊張感もあり少しこわばった顔で学校に行く。途中で順子や彼に会ったので一緒に体育館に行く事になった。
「五十鈴君、誕生日おめでとう。これで『つ』が取れて五十鈴君も一人前になったね?」
私が笑顔でそう言うと彼は、苦笑いをしながら、
「石田、ありがとう……でも俺は十歳になってもあまり変わらないけどなぁ……」
と、言うので私は、
「そんな急には変われないわよ。それに五十鈴君は元々しっかりしているしさ……」
「そ、そんな事は無いぞ。お、俺はまだまだ『おこちゃま』だからさ……」
彼が少しだけ焦り口調で返事をしてきたのが私には不思議に思えた。
そして私達は体育館に入ると、舞台の上で立花部長と山口先生、そして福田さんが困った顔をしながら話をしている。
あっ、これは『前の世界』と同じ状況だわ。
事情を知っている私だけどとりあえず立花部長達に質問をする。
「どうかしたんですか?」
山口先生が困り果てた表情で私にこう言った。
「実は福田誠君(福田さんの双子の弟)が今朝、急に体調を崩してしまって今日の演劇に出演できなくなってしまったのよ……」
「 「 「えーっ!?」 」 」
「みんなゴメンねぇ……」
私達に福田さんが珍しく神妙な顔で謝っている。
「ただ、福田誠君は私と最初に出演するウサギ役なのよねぇ……私の後ろには他の動物役の人達もいるし……そしてウサギ役は劇の一番最初のセリフを言わないとダメだから、裏方さんから急遽代役をたてるか、それともあとから出演する鳥役の人達に二役をやってもらうか、それをどうするか今悩んでいたのよ……」
立花部長が困り顔で私達に言う。そして山口先生が現状を話し出した。
「今回、劇に出演してもらう人達を無理やり増やしたということもあって裏方は九名でやらないといけないし、そこから一人抜くのはさすがに厳しいわね。やっぱり鳥役の人達かイナゴ役の人達に二役してもらうしかないわね」
「隆君はどう思う? 何か良い方法あるかな?」
立花部長が彼に問いかけた。
「い、いや、僕はよくわからないです。ただ前の七夕祭りでも照明二台で四名必要だったから、残り五名で舞台裏のことをやらないといけないし、僕も誰かが二役するのが一番いいかなとは思いますけど……」
「やはりそうね。それじゃぁ誰に二役やってもらおうかしら?」
「どうかしたんですか?」
あとから来た高田さん、大浜さん、佐藤さん、高山君が不思議そうな顔で聞いてきた。そして状況を山口先生から聞き、全員、戸惑いを隠せないでいる。
「わ、私、今回はハゲタカ役だけで精一杯です!! 二役なんか絶対に無理ですから!!」
焦った表情で佐藤さんがそう言うと続いて大浜さんが、
「私はカラス役で、今から顔を黒く塗るつもりなので、さすがにウサギ役は無理だなぁ……」
そしてすかさず高田さんが話し出す。
「山口先生、香織!? 今回、私達鳥役は大きな翼をつけたり、くちばしをつけたり衣装にとても凝っているから、もしウサギ役もして急いで舞台袖に行ったとしても鳥の衣装に着替えて自分の出番に間に合うかどうかとても不安です。それにイナゴ役も最初から顔を緑色に塗るって田中君がはりきっていたからイナゴ役の人達も難しいんじゃないかと思うのですが……」
「う――――――ん、そうよねぇ……」
「高田さんの言う通りね。今回鳥役からもイナゴ役からも代役は難しいわね」
みんな俯いたり天井を見上げたりしながら「うーん」と考え込む。
数分の沈黙のあと、
「あの~」
彼が手を挙げながら声を出す。
「どうしたの、隆君?」
立花部長が優しい声で聞き返す。
「ウサギ役ですけど、ぼ、僕がやりましょうか?」
「え――――――っ!!??」
全員、目を丸くして驚いた。
「隆、大丈夫なのか!? お前、鳥の王なんだぞ!?」
高山君が心配そうに彼に言う。
「そうよ、五十鈴君!! 今、みんな鳥役が二役するのは難しいって言ってたばかりじゃない!!」
順子も驚きと心配とが混ぜ合わせた表情でそう言う。
結果を知っている私は黙って聞いていた。
少しワクワクしながら……
「ケンチも岸本さんもありがとう。でもきっと大丈夫だよ。鳥の王は鳥の中では最後に登場するし、他の鳥役の人達よりも衣装が簡単だから、ウサギ役をやってから舞台袖に行っても他の人達よりは着替える時間があると思うんだよ……」
数秒の間があき、そして立花部長の表情が先ほどまでの不安な表情から自信のある表情に変わり口を開く。
「言われてみればそうね。隆君の言う通りだわ。このメンバーの中では隆君が一番時間に余裕があるかもしれないわね」
立花部長は納得した顔でそう言うと彼が続いて話し出す。
「それに立花部長や先生のお陰で鳥の王はセリフも少なくしてもらったし、ウサギのセリフもそんなに多くはないし、それだったら俺でもできそうな気がしたから……」
そしてまた数秒の沈黙があったが、
「さすが今日が誕生日の隆だな!! 言っていることが『一人前』だよな!」
高山君が大きな声でそう言った。
「 「 「え――――――っ!?」 」 」
またしても全員驚いた。
「そうだったの!? 隆君、なんで言ってくれなかったのよ?」
立花部長がそう言うと佐藤さんも、
「そうよ、隆君!! 言ってくれたら何かプレゼントあげたのにさ!!」
「そ、そんな佐藤さん……プレゼントなんて別にいいですよ!!」
彼は顔を真っ赤にして答えている。
「俺が弟の代わりにプレゼントをしないといけないよね。文化祭が終わってから何か買ってくるよ!!」
福田さんが満面の笑みでそう言うと彼は苦笑いをしながら、
「福田さん、いいですって!! 何もいりませんからっ!!」
「隆君ありがとう。ほんと助かったわ。これで安心して演劇ができるよ。本当にありがとね」
立花部長は満面の笑みで彼にお礼を言った後、全員にこう言った。
「みんな!! 今日の演劇の成功を五十鈴副部長の誕生日プレゼントにしましょう!!」
「 「 「お――――――っ!!」 」 」
その場にいた全員が腕を上に挙げて賛同した。
彼はとても恥ずかしそうだったけど、私は彼のカッコイイ姿を再び『この世界』でも見ることができて幸せな気持ちになるのだった。
「石田……?」
「えっ、何? 五十鈴君……」
「俺が二役をするって言った時、石田だけがあまり驚いていなかったなぁと思ってさ」
私はドキッとしたけど、ここはウマイこと言わなければと頭の中を回転させる。
そして出て来た言葉が……
「じ、実は二役をするなら五十鈴君が一番良いかなって思ったんだけど言えなくてさ……でも五十鈴君が自分から二役をするって言ってくれたから……安心したよ……」
「ハハハ、そうだったんだ? 石田も俺と同じ考えだったんだな? さすがは俺よりも前から『一人前』の石田だな? ハハハハ」
彼が私の表情を気にしてくれていた嬉しさと無邪気な笑顔がとても愛おしく見え、幸せでいっぱいな気持ちになる。
なんだか私が彼からプレゼントをもらったみたい……
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
福田弟の代わりに二役することになった隆
しかしそうなることを前から知っていた浩美は反応が薄かったのか隆に問われてしまう。
そして咄嗟に嘘を言ってしまった浩美だったが隆は笑顔で浩美を褒めてくれた。
とても幸せな気持ちになる浩美。
さぁ、遂に文化祭での演劇開演です!!
でもその前に少しだけ番外編があるかもです。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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