第21話 チョットだけすねてみた

「隆君、石田さん、二人はとても仲が良いわね……?」


 私達はびっくりして後ろを振り向くと、そこには暗闇に白い着物を着て顔は白く口は大きく裂け、頭には三角の白い布を巻いた幽霊役の立花部長が立っていた。


 私達は腰が抜けるかと思うくらい驚いたけど、時折照らす体育館の明かりが立花部長の幽霊姿を照らし、よく見ると幽霊メイクをしているにもかかわらず、とても美しく、私は思わず小声で「綺麗……」とつぶやいてしまうほどだった。


 再び立花部長が私達に同じセリフを言う。


「二人はとても仲が良いわね……?」


 すると彼は慌てた表情でまさかの言葉を言い返す。


「そっ、そんな事、全然ないですよ!! 仲がいいだなんて……なっ、石田!?」


 そう言って彼は私の方を向いたけど私は彼が言った言葉がショックで少し怒った表情になってしまい、『プイッ』と横を向いてしまい、何も言わずに照明準備に取り掛かってしまった。


 ちなみにこのあと一日中、私は彼と口を利くことがなかった。


 そんな私を彼は気にしながらも立花部長に尋ねる。


「立花部長、どうしたんですか? もうすぐ六年生のダンス発表ですよね? だ、大丈夫なんですか? 間に合いますか?」


 彼はそう言いながら私の方をチラチラと見ているようだったけど、私も一度拗ねてしまったら急には元には戻れないので気にし無いフリをしていた。


「そうね。間もなく六年生の発表よね。でも私は今回免除してもらったの。幽霊役でこんなメイクもしないといけないし、演劇前に全校児童の前でこの格好で踊るわけにもいかないし……山口先生や担任の先生と相談してそうしたの……」


「そうなんですか? び、びっくりしましたよ!! しかし立花部長、幽霊役とても似合ってますね……あっ!!」


 彼は最後の言葉を後悔したみたいだったけど、立花部長はクスッと笑いながら、


「隆君、それは誉め言葉として受け取らせてもらうわね? ありがとね。もうすぐ演劇が始まるから今日は照明係さんよろしくね? それで今日はとっても怖そうな感じになる様に照明を照らしてちょうだいね?」


「は、はい、頑張ります……」


 私がそう返事をすると立花部長よりも彼の方がホッとした顔をしている。

 その顔を見た私はとても嬉しかったけど、表情には出さない様にした。


 立花部長は私達を見て微笑みながら後ろを向き階段を降りようとしたが再び私達の方に振り返り、先程の笑顔とは違い、とても真剣な表情で彼の顔を見て話しかける。


「隆君、私頑張るからね!? 絶対この隆君が考えてくれた『ドジな幽霊』を成功させるから!! 期待していてね、隆君!!」


 立花部長はそう言い残し、颯爽と階段を下りて行くのであった。


 その立花部長の後ろ姿を彼はずっと眺め、私はその彼の姿を照明準備に取り掛かるフリをしながら見つめていた。



 そのころ反対側の照明係の田中君と順子は後で聞いた話だけど、お互いのやり方に文句つけ合い揉めていたらしい。


「田中ぁぁぁ!! なっ、何でこの場面でこの色の照明なのよ!? 先生はこの場面は赤だと言ってたよね!? なんで青にしようと急に言い出すの!? あとで先生や部長に怒られるじゃない!!」


「いやいやいやっ!! 僕の感じではこの場面は青でしょ!? 岸本さんは全然そう思わないの? おかしいなぁ……」


「おかしいのはアンタよ!! バッカじゃないのっ!? 田中の感覚なんてどうでもいいのよ!! 私達は先生の決めた通りにやればいいのっ!!」


 私と五十鈴君とは対照的に田中、岸本組は最後まで劇中も揉めながら照明係をやっていたそうだ。


 そうこうしているうちに六年生のダンスも終わり、最後の演目、『演劇部』によるお芝居の準備が行われる。


 そして数分後、緊張している私達、演劇部部員達の心臓の鼓動が聞こえるくらいに会場は静まっていく。


 遂に『ドジな幽霊』が始まった。





 お墓に腰を掛けてブツブツ言っている幽霊がいる。


「あぁぁ暇だ、暇だ。いつになったら俺は成仏できるのだろう……俺はどれくらいこの墓地にいたんだろう……っていうか俺の名前はなんていったかなぁ? 長いことココに居過ぎて忘れちまったなぁ……」


「周りの幽霊はみんな成仏して消えちまったし、話し相手もいないし……なんだかさみしいなぁ……俺もそろそろ成仏したいよなぁぁぁ……」


 立花部長がさすがは部長と思える演技で観客を感心させている。


「そう言えば成仏した仲間はみんな散々人間を驚かし、十分に満足をした途端に俺の前からスッと消えていったような気がするぞ。でもその前によく分からない人間と何か話をしてから消えたんだったかな? うーん……思い出せないや。でも人間を驚かせるというのは間違いないはずだ!! 俺も人間を驚かせてやろう!! そうすれば俺も成仏できるはずだ!! 俺は驚かすのは得意じゃなかったから今までやらなかったけど、もうそんなことは言ってられない!! よし、今日から、いや、明日からやってやるぞっ!!」


 立花部長の演技は完璧だった。


 私は照明係をやりながら立花部長のセリフに聞き入っていた。

 彼もまたとても真剣な顔をしながら演技を見つめている。


「おっ!? 女性二人がこっちに歩いてくるぞ!! なんだかフラフラして変な歩き方だが、まぁ大丈夫だろう……」


 立花部長はお墓の後ろに隠れて驚かせるタイミングを待っていた。

 その墓の後ろの高山君が演じる木の枝がユラユラと揺れている。


 結局腕を支えると揺れている枝を表現できないということで本番だけ腕を上げるという事で落ち着いた高山君は今までで一番良い揺れをしている様に見える。


「ヒック……ヒック……あぁ、今日はよく飲んだわねぇ……? ヒック……男性社員よりも私達の方がいっぱい飲んだ気がするわねぇぇ? ヒック……」


「そうね、ジュン。私も調子に乗って久しぶりによく飲んだなぁ……ウッ!!」

 マキがうずくまる。


「えっ!? マキ、大丈夫? 気分悪いの? そこのお墓の前で休憩する?」

 六年の安達さんと轟さんの演技もなかなかなものだ。


 お墓を挟み『幽霊役』の立花部長と『マキ役』の轟さんが向き合った状態になっている。


 そして幽霊がお墓の後ろからマキを驚かせようとした瞬間、幽霊の後ろから女の声で


「お前は誰だーっ!? こんな夜中に何をしてるんだーっ!?」


 酔っ払って気が大きくなっている『ジュン役』の安達さんが大きな声で幽霊に対して怒鳴った。


 幽霊は驚き慌ててお墓の前に出た瞬間、マキが幽霊の顔を見るなり


「オエ――――――ッ!!」


「ギャ――――――ッ!! 汚――――――いっ!!」


 幽霊はそう叫びながら逃げ出した。


 この場面で会場からはソコソコの笑いはあったけど、当初思っていた規模の笑いではなかった。きっと彼も予想外だったと思う。


 【次の場面】


 立花部長のセリフから始まる。


「昨日は散々な目にあったが、あれは二人もいたからなんだ。初めて驚かせるんだから一人で歩いている人間にすればよかったなぁ。ん!? 向こうから男が一人で歩いてくるぞ!! よし、お墓の後ろに隠れるとしよう」


 そして幽霊は昨夜のリベンジで一人で歩いている男を驚かせようと男の前に「わっ!」と言いながら現れる場面……


 しかし幽霊は男の顔を見て逆に驚いた。

 傷だらけの顔で眉毛が無くめちゃめちゃ怖い顔だったからだ。


「ギャ――――――ッ!! 顔が怖――――――いっ!!」


 またまた幽霊は逃げ出した。

 途中お墓にもぶつかり、コケてしまったが再び立ち上がり逃げて行った。

 おそらくコケたのは笑いを取る為、立花部長のアドリブだったと思う。


 でも観客の反応は所々でクスクス笑い声が聞こえる程度で幽霊が逃げた後に強面役の天野さんが正面の観客の方に向き直し、首をかしげながら頭をボリボリかくと、会場中大爆笑となってしまった。


 私は照明を照らしながらチラッと彼の顔を見たけど、予想通りとても辛そうな顔をしていた。きっと彼が思っている場面で観客にウケないで思っていなかったところでウケているからじゃないかと私は思う。


 やはり『ドジな幽霊役』は他の人がやるべきだったのだろうか……

 もし私が演じていたらどうなっていたのだろう……






――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


立花部長に対して自分達はそんなに仲良くはないと言った五十鈴に対して少しふてくされてしまった浩美。


そんな中、演劇が始まり立花部長のドジな幽霊が舞台を駆け回るが、思った以上に観客にウケないでいた。心配する浩美や五十鈴……

果たして演劇後半、立花部長は笑いをとることができるのでしょうか?

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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