第20話 あなたとずっと話していたい

 七月七日 七夕祭り……


 私の通っている小学校の一学期最大の行事となっている。


 保護者は勿論のこと地域のお年寄りや地方議員さんも招待された中でのお祭りである。


 各学年毎に歌や踊り、そして文化祭と同じくプログラム最後は演劇部による演劇発表で締めくくられることになっている。


 体育館の中は全児童や保護者、来賓の方々でひしめき合っていた。


 『前の世界』でも経験したけど、大勢の人達が集まり緊張する。

 一瞬、演者をやりたいという気持ちも持ったけど、やはり今回は裏方で良かったなぁと思ってしまう。


 私が体育館の二階に行こうと階段のある体育館準備室に行こうとした時にパイプ椅子に座っていた顧問の山口先生と私のクラスの担任の奥平先生との会話を聞いてしまう。


「山口先生、今回の演劇の脚本はうちのクラスの五十鈴が書いたと聞いているんだけど本当なのかい?」


 奥平先生が少し嬉しそうな顔で横に座っている山口先生に質問をしていた。


「そうなんですよ、奥平先生!! 今回、五十鈴君の書いた脚本が一番この七夕祭りに合うと判断して全員満場一致で決まりました。とても面白い内容なんです!! まぁ、内容は……内容はとっても面白いんですけどねぇ......」


 山口先生は最後に少しトーンダウンした口調で奥平先生に答えていた。


 奥平先生は山口先生の言い方が少し気になったみたいだったけど、すぐに舞台の方を向き現在合唱中の二年生の歌声をニコニコしながら聞いていた。


 山口先生も五十鈴君と同じ気持ちなんだ……



 私が準備室に入るとそこには『裏方担当』の五十鈴君を始め他の四年生達や最初から『木』として登場することになっている高山君が少し緊張した顔で待機していた。


 実は五十鈴君と高山君には二年生の妹がいて現在、小さな口を大きく開けて頑張って歌っている妹達の姿を舞台袖から見つめていたのだ。


かなで、頑張ってるなぁ……俺以上に恥ずかしがりやなのになぁ。俺も『照明係』頑張らないといけないなぁ……」


 五十鈴君がそう呟いていると横にいた高山君が、


「あぁ~めっちゃ、緊張する!!」


 いつもポーカーフェイスの高山君でもセリフの無い木の役をするだけで緊張するんだと私は思ったけど、実は違う理由で緊張していたみたい。


 奏ちゃんの後ろで歌っているのは高山君の妹の良子ちゃんで高山君は良子ちゃんをじっと見つめながら自分のことのように妹の歌っている姿を見て緊張していたのだ。


「うぅ、俺吐きそうだよ。良子ってさ、俺と一緒で凄く音痴だから大丈夫かなぁぁ? 口パクでごまかしてくれればいいんだけどなぁぁ……と、とりあえず何とか最後まで頑張ってくれ~っ!!」


 高山君の妹を心配するセリフを聞いて私は心の中でクスっと笑ってしまい、少し緊張がほぐれたような気がした。



 七夕祭りは順調に進んでいき、最後から二番目の六年生のダンスが始まる前に私達は急いで二階に駆けあがった。


「続いて六年生によるダンスです」




 私と五十鈴君は二階西側で照明の確認をしている。


 反対側では順子と田中君が同じく照明の確認をしているけど、早速何か揉めている様に見える。後で順子にどうしたのか聞かなくては……あっ? でも順子が私に笑顔で手を振っているから大丈夫なのかな?


 私は少しホッとしながら手を振り返していた。そんな中、ふと五十鈴君を見ると何やらブツブツ言いながら照明をいじっている。


 ん? もしかして日頃、冷静な五十鈴君も緊張しているのかな?

 それとも……


「五十鈴君、緊張してるの? それとも自分が書いた脚本の演劇が遂に発表されるから緊張しているのかな?」


 私は少し意地悪っぽく彼に言ってみた。


「そ、そんなことないし……」


 なんか無理して答えている様に見えてしまった私は笑ってしまいそうになったので話題を変えることにした。


「ところでさ……前に五十鈴君達の会話が聞こえてしまったんだけど、五十鈴君は五年生になったらバスケ部に入るんだよね?」


「えっ!? き、聞こえていたのかい!? うーん……」


 彼はどうも私に知られたのは嫌だったみたい。そして少し照れくさそうな表情で、


「石田、このことは演劇部の人達には内緒にしてくれないか!? 今はまだ知られたくないんだよ!!」


 彼は私に手を合わせて拝む感じでお願いをしてきた。


「えっ、何で? まぁ、別にいいけどさぁ……でもいずれバレちゃうよ……」


「分かっているけどさぁ……今は『演劇部』で盛り上がっているところだし、水を差すようなことはしたくないなぁと思ってさ……」


「フフフ、ほんと五十鈴君ってたまに『大人の人』みたいな事を言うよね?」


「えっ? そ、そんな事は無いと思うけど……」


 少し動揺している彼を見るのはとても楽しいけど、あまりしつこく攻めて私が嫌われてしまったら元も子もないので、私は彼が安心できる様な話をしてみた。


「実はここだけの話だけど、私も五年生になったらバスケ部に入るんだ。本当はバレーボールがやりたいんだけど、うちの学校バレー部がないから、とりあえずバスケ部で体力とジャンプ力だけでも身に付けて中学生になったらバレー部に入るの。あっ、これ絶対内緒にしておいてね!? 特に順子には絶対に言わないでね?」


 まさか私が自分の秘密を言うとは思っていなかった彼は驚いた表情をしたけど、直ぐにニコッと微笑みながらこう言ってきた。


「石田は俺よりも身長も高いしバスケでもバレーでもすぐにレギュラーになれるかもね?」


「えーっ!? 女の子に身長高いってこと言うのは失礼なのよ!!」


 私は少し強い口調で微笑みながら彼に言い返すと彼は慌てて「あっ、ご……ごめん……」と謝ってきたので、私も慌ててフォローを入れる。


「ウフッ、ウソウソ!! 全然気にしてないわよぉぉ。でも私はスポーツは身長は関係ないと思ってるわ。そう思いたいしね。だから私よりも背が低い五十鈴君がバスケ部でレギュラーになるかもしれないし、背が高い私がずっと補欠かもしれないし……だから私は努力次第だと思っているの」


「そ、そうだな。うん、そうだよな。石田の言う通りだよ」


「でしょ? フフフ。ということで、私のバスケ部入部のことも内緒にしておいてね? 今は演劇を頑張って、そして来年になったらお互いにバスケ頑張ろ?」


「ああ、来年一緒にバスケ頑張ろう」


 なんだか、とっても幸せな気持ちだなぁ……

 このままいつまでも彼と話していたい……


 そんな気持ちになっている私の背後から女性の声がした。


「隆君、石田さん、二人はとっても仲が良いのね?」






――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


良い雰囲気の浩美と隆

そんな二人の背後から女性の声が?


もしかして!?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆


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