第46話『真の真実』

僕はずるい人間だ。

屁理屈なことしか言えない、嘘ばっかりの人間。

僕は水戸を信じる。

信じているからこそ、疑う。

水戸を信じている僕を信じたいだけ。

安心したいだけなんだ。

だから、ごめんね。

僕は信じてる。

そういう奴なんだって。

そうだよね


「水戸」





《水戸side》

獲物を狙うかのような禍々しい空気を感じた。

それは私の後ろで目にも止まらぬ速さで起きた。

私は"信用"という言葉に執着しすぎたのかもしれない。

安心したかった。自分を励ましたかった。

でも違ったんだ。

信用って言うのは、相手のあらゆる"行動"や"言動"を信じるってことだから。


「水戸」


低くて冷たい声が私の耳に突き刺さる。

それは私が大好きな声で、安心する声。

でも、違った。

その声は優しさや安心感を持っておらず

ただ


ただ


怒りに満ちた声だった。


「…春樹?」


後ろをむくのが怖かった。

自分の目に焼きつけるのが怖かった。

でも…それでも…

それでも私は…


最後まで彼を"信用"するって決めたから。



「……何してんだよお前。」

綴の声も冷たく、怒りに満ちていた。

こんな声、私と春樹に出したことがなかった。

「へへ。」

春樹は掠れた笑い声をした。

「それはこっちのセリフなんだけど。」


どうして気づけなかったのだろう。

いや違う…気づけなかったんじゃない。


気づきたくなかったんだ。


「水戸先輩…!!」

私は琴梨にぐいっと引っ張られ後ろの方へと遠ざかった。

「春樹先輩!血が…!」

横で神希も声を上げた。

でも周りのみんなは声を上げられなかった。

今まで見たことの無い光景を目にし、何をすればいいのかわからなかったから。


「なんで邪魔するのかな…」

「それが僕の役割だからだよ。」


綴と春樹の低く、冷たい怒りに満ちた声が広場中に広がる。


「綴先輩…なんですか、その刃物。」

琴梨は私の体をぎゅっとして私を守ろうとしていた。

「水戸には…何を知られずに退場して欲しかったんだけどな…」

私は【狼】の目を見た。

鋭く怖く、でもどこか悲しそうな目。

「綴…お前…」

「…そうだよ。僕だよ。みんなをここに連れてきたのは。」

綴は手にした刃物をぐっと押し込んだ。

「おい綴!!やめろっっ!!」

「問題ないよ。ね?春樹。」

春樹の手に刺さった刃物がどんどん押し込まれていく。

しかし、春樹は微動打にしなかった。

まるで、"痛みを感じない"かのように。


「いつから気づいたの?春樹。」

「お前が襲われた時、どう考えても回復速度がおかしいと思ってな。僕の力は別に身体の傷を直せるわけじゃない。気分や精神状態限定だよ。」

「ふーん。結構前なんだ。」

もちろん気づいていた。

綴の怪我の回復速度がはやいことも。春樹の回復も。全部。

「そう、ここは嘘の世界。君たちのためのね。」

私たちのための…世界…?

「水戸の推理、すごいよ。ほとんど当たってた。でも、1つ違うね。」

「…なんだよ。」

「僕は襲われてなんかいない。」

「…襲われていない…?」

ここには襲われた人間が揃っていた。綴だけが襲われていないのなら、綴の立場は一つだけだった。

「僕はあの事件の後、水戸と春樹を探しまわったんだ。何日も何日も…ずっとずっと…そして、ようやく見つけたんだ。水戸と春樹を。」

「……」

「あいつら、本当に趣味が悪いよね。僕が限界になって倒れて…目が覚めたら意識不明の重症状態の幼なじみ2人が目の前に捨てられていたんだからさ。」

私と…春樹が…?

「最悪だったよ。どうすればいいのか分からなくて、警察に連絡したら"俺"はいきなり保護されるし、何も教えてくれないんだ。幼なじみ2人がボロボロにされてるのに…俺は何も出来なかった…」

綴の目から涙がこぼれた。

普段は泣きもしないあいつが、泣いていた。

「綴…」

「そんで俺は保護された身として協力する羽目になったんだよ。この事件の被害者である全員と電子状態で会話をする事によって犯人を導き出す…ってね。大人の最悪な推理ショーだよ。」

そんなの…そんなのって…

「本島はボロボロで意識もない幼なじみが、何も覚えてなくて目の前に現れる。しかも偽物の…こんなの、拷問だよ…」


『シャットダウンを開始します一』

その時、少女が声を出した。

シャットダウンと確かに言った。

この世界が終わってしまう。目が覚めたら私たちの体はボロボロで…痛くて苦しくて…

綴は…

「そんな拷問…もううんざりなんだよ。こんな偽物の世界、壊しちゃえばいい。」

「……綴!!」

「そうだ…"君"が疑問に思ってたこと、ちゃんと説明してあげなきゃね。

力を持っていたり身体が元気なのはさっき言っていた通り嘘の世界だから。君たちは本物なんかじゃない。思考は本物かもしれない。けどその身体は偽物なんだ。」

意識が遠のいていく。

綴1人を置いて…

「力がおかしくなっていたのは、本体の黒羽世宗の身体からもれていたんだ。それで一部のシステムがハッキングされておかしくなった。」

もう身体の感覚がない…

それでも私は必死に手を伸ばす。

「そして…現実の君たちだけど…ここの記憶は全て消える。だから安心してよ。君たちは普通の生活に戻れるんだ。」

綴の方に…

ほ…に…


「真実を知るのは俺だけで十分だ。」






一シャットダウン成功一


オツカレサマデシタ▼

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