第43話『最後の晩餐』

「そろそろかな。」

『どうやらあの子が気づいたみたいだね。どうする?"マスターさん"。』

「そうだね…もういいんじゃないかな。」

『わかった!じゃあ決まりだね!』


『明日でみんなのお話がエンドを迎えるんだ!』


《水戸side》

私は自分の部屋へと行きあることをしてからまた春樹の部屋へと向かった。

私がドアノブを回そうとすると遠くから声が聞こえていた。

「水戸先輩〜!夕食の支度が出来ましたよ〜!他の方も呼んできて貰えませんか?」

遠くから呼んでいたのは神希だった。

「わかった。ありがとう。」

私はノックをして春樹の部屋へと入った。


「夕食だ。歩けるか?」

「うん大丈夫。綴は?」

「あいつ、自分の部屋にでも行ったんじゃないか?」

「そっか。じゃあ迎えに行かなきゃね。」

春樹は私の肩を借りることなく1人で立ち上がった。

「本当に大丈夫なのか?」

「うん。夢の中での痛みだったし…意識がちゃんとすればもう大丈夫だよ!」

「そっか。じゃあ綴を迎えに行きつつ他のみんなも呼ぶか。」

「うん!」



私と春樹は他の人達に先に声をかけて最後に綴の部屋に来た。

「コンコン」

私は軽くドアをノックした。

ドアはすぐに開いた。

「…なに?」

「夕食だってよ。迎えに来た。」

「ん。今行く。」

綴は上着を羽織って部屋から出てきた。

「あの…綴…」

「ん?」

「いやその私たちは…今まで通りで…」

「はぁ…だーかーら!何気にしてるのか知らないけど別にどうでもいいから!ね!」

綴は私と春樹の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ちょっとなんだよ綴!頭ボサボサになるだろ?」

「春樹くんはボサボサになってもイケメンだから許されるんですぅ〜!」

「何言ってんだよお前…」

春樹と綴はいつも通り話していた。

私もちゃんとしないとな、そしてちゃんと綴にさっきの話を伝えなくては…

「とりあえず食堂いこ!僕もうお腹ぺこぺこだよ」

「食いしん坊だなぁ…今日はミネストローネだよ。」

「え、なんで知ってるの?」

「僕も手伝ったから。」

「わ〜!綴の飯久しぶりだな!楽しみ!」

そう言いながら私たちは食堂へと向かった。



食堂に着くとそこにはご飯をよそっている琴梨と神希、お互い黙ったままのちとせとかなめ、世宗先輩の腕を掴んでいる乙羽先輩、全員がバラバラでいた。

「あ、水戸先輩!ご飯こっちですよ!」

神希と琴梨が私たちの元へ駆け寄っていた。

「あぁ、ありがとう。」

「いえいえ!では…」

「すまん、ちょっといいか?」

「はい、何でしょう?」

「食事の後、少し話をしてもいいか?」

「お話ですか…?」

琴梨が首を傾げた。

「あぁ。大事な話なんだ。片付けはその後でも構わないか?」

「はい、大丈夫ですよ。では、食べ終わったら声をかけてください。」

「わかった。ありがとう。」


私たちは食事を取り、机に座って食べた。

「綴、これお前野菜切っただけだろ〜?」

「うん。そうだけど。」

「手伝うなら最後まで手伝いなよ…」

「えへへ〜」

春樹と綴がそんな会話をしている中、私は考え事をしていた。


本当にみんなに話していいのか…だ。

みんなに話したとしてもしこの中に犯人がいるなら、最後の手段に手を出すだろう。

みんなを信じて私の推理を話すか…

あるいは1部しか話さず、犯人がわかってから話すか…

私はどちらを選べばいいんだ。

琴梨が言っていたいわゆる【狼】の役職を持っているやつが本当にいるのか。はたまた【狼】と【犯人】は同一人物なのか、それとも違うのか。

考えることは沢山ある。

でも…どうにかして…

「水戸?大丈夫?」

春樹が声をかけてきた。

「え…大丈夫ってなにが…?」

「考え事してる時の顔してた。」

「え…あぁ…悪い。」

「謝らないでよ。僕は水戸が大丈夫かどうか聞いてるの。」

「正直…大丈夫じゃない。」

「水戸素直だね。」

「どうせお前の前で嘘ついてもバレるだろ。」

「まぁね。」

「それは僕達に話せること?」

「うん…まぁ。」

「話せることだけ話してみて。」

「…2人はみんなを信用するか?」

「みんなを?うーん…僕は…正直難しいな。」

「僕も信じないよ。」

「2人とも即答だな…」

「なんて言うんだろ…確かにみんなは優しいしいい人だと思う。でもそれと信用ってまた違うんじゃないかな…」

「違う?」

「うん。僕は水戸も綴も信用してる。でもそれは2人が好きだからとかそういう事じゃない。長い時間を共にして支え合ってきたからだよ。」

「まぁようするに時間が足りないよ。信用し合える時間がね。」

「そう…か…。」

「水戸はみんなを信じたいの?」

「信じたい…けど…怖いんだ。」

「じゃあ、僕達を信じれば?」

「?どういうことだ、綴。」

「僕と春樹はみんなを信じない。信じない僕達を水戸は信じる。ってこと。ややこしいけどね。」

「なる…ほど…?」

「つまり、みんなじゃなくて僕達"だけ"を信じろってことだよ。」

「他のことは考えずに…ね。別に僕達は水戸に嘘つくメリットなんて無いし。」

「そうか…わかった。そうするよ。」


みんなを信じない春樹と綴を信じる…

言葉にすると難しいが単純な事だった。

他のみんなより先に私は春樹と綴を信じているんだ。なら、2人の言葉を信じればいい。それだけの話だった。


私は食事を終え、みんなに声をかけた。

「食事後にごめん。大事な話があるんだ。」

私の役職…【探偵】の仕事は真実を暴くこと。

そして答えを突きつけること。

最初は人狼ゲームかのように【狼】がいると思っていた。でも、この"真実"が別のものだとしたら?


あちらこちらに落ちていた資料、おかしな夢の内容、力の階級…


恐らく"真実"とは【狼】のことではなく、力を盗ったと思われる【犯人】を見つけることだろう。

今から起こる事件ではなく…元々起きた事件の真実を解く。

それがきっと、私の役割なのだろう。


「おい、どうせこれも聞いてるんだろ?」

『あ、もしかして私のことですか?』

私が天井に向かって声を出すとすぐに少女が画面に現れた。

「あぁそうだ。私が頼んだものはいつ頃貰えるんだ?」

『そうですねぇ…水戸さんのはだいぶめんどくさいものなので明日の朝とかですかね〜!こちらも頑張ってるんですから心を広くして待ってくださいよ〜?』

「水戸、頼んだって何を?」

「あぁ。あれだよ。放送で言っていた"欲しいもの"だよ。」

「そういえば、水戸ちゃんからは聞いてなかったなぁあれ。それで、何を頼んだの?」

乙羽先輩がそう言った。

「それは明日またお話します。なので、明日の朝広間に集合できませんか?」

「集合…?僕は構わないけれど…」

世宗先輩が弱々しい声でそう言った。

「私も大丈夫だよ。ね?かなめっち?」

「…うん。」

ちとせとかなめもそう言った。

琴梨、神希、春樹、綴は異議なしと首を縦に降った。

「ありがとう。おいお前、最後にひとついいかな。」

『はいはいなんですか〜?』


「明日、"答え合わせ"をしたい。いいだろ?」

『……』


みんなが静まる。答え合わせとは何か。そう思う人や心配そうに見つめる琴梨、私を信じる春樹と綴の視線。


『…いいですよ!!素晴らしい!!さすが水戸さんですね!!』

少女は嬉しそうな声を上げ拍手をする。

「…以上だ。あとの話はまた明日。今日はみんなもう寝てくれ。」

「水戸先輩…」

琴梨が「話がしたい」と言わんばかりの表情をしながら私を見つめていた。

「わかった。じゃあもうみんな部屋に戻ろか。ほな、お先に失礼するね。行くよ世宗。」

「あ、うん。」

乙羽先輩は世宗先輩をぐいっと引っ張りながら食堂を出ていった。

「私達も行くね。水戸っち。」

ちとせが私の方へ駆け寄ってきた。

「あぁ。ゆっくり休んでくれ。今日は色々あったからな…」

「うん。ありがとう。水戸っちも無理しないでね。ほら、かなめっちも!」

「…雷華のこと、色々ありがとう。」

「…あぁ。」

「…おやすみなさい。」

かなめはスタスタと部屋へと戻っていった。

「あ、ちょっと待ってよ〜!!」

ちとせはそれを追いかけていった。

そして残ったのは琴梨と神希、春樹、綴、そして私だった。

「ごめん神希、先に行ってて。ちょっと水戸先輩と話がしたい。」

「わかりました。先に戻ってます。では水戸先輩、おやすみなさい。」

神希はぺこりと頭を下げ食堂を出た。

「それで…さっきのですけれど。」

琴梨は真剣な眼差しで話を始めた。

「答え合わせってことは…わかったんですか?」

「あぁ。大体はな。あとは頼んだものを確認するだけだ。」

「なるほど。なにか手伝えることはありませんか?」

「大丈夫だ。琴梨はゆっくり寝てくれ。昨日寝てないんだろう?」

「すみません…そうします。水戸先輩も無理をしないでくださいね。おやすみなさいです。」

琴梨もぺこりと頭を下げ食堂を出た。

「さて、私達も帰ろう。」

「うん。」

「…ほいほい。」

私たちは部屋へと戻った。


「それじゃあ、おやすみ。」

「うん、また明日ね。綴は寝坊しないでよ?」

「あー。起こしに来てー。」

「はいはい。」

私は2人が笑っている顔を見て部屋の扉を閉めた。


「さてと…」

私はこれから情報をまとめないといけない。

情報をまとめ、あとは頼んだものを確認するだけ。

私は机の上に置いてあった紙とペンを使い情報をまとめた。


・抜け落ちている記憶

・記憶が消えた日の順番

・雷華の日記

・どこがおかしい力

・壊れたスピーカー

・力の階級


そして犯人は私たちの力の内容を知っている人物




私は情報を整理し推理をした後、目を閉じた。


大丈夫。この推理はあっているはず。


たとえ誰が犯人だとしても。



私は真実からは目を逸らさない。

そう胸に刻んだ。

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