第42話『近づき』
《綴side》
僕は部屋を出た。
どうすればいいかわからなくて、逃げ出した。
水戸が春樹のことが好きだったことなんて、中学の時から僕は知ってた。
だから応援して、2人の背中を押してきた。
なのにどうして…
「はぁ…」
どこから来たか分からないため息を着く。
それが誰かに聞かれていたとも知らずに…
「綴先輩…?」
「へ…?」
ハッとして横を見るとそこにはダンボールを抱えた神希が立っていた。
「ため息なんて着いて…どうかしましたか?」
「いや…別に。それより、そのダンボールは?」
「あぁ。これは食材ですよ。調味料が足りなくて倉庫に取りに行ってたんです。」
「ふーん、それ持つよ。食堂までで大丈夫?」
「いえ!これは大丈夫です!他のお願いがありまして…」
「なに…?めんどくさいのは嫌だよ…?」
「えへへ…」
神希がニッコリとし僕にお願いをしていた。
別にやることもなかったしついていくことにした。
でもまさか…
「料理を手伝うとは思わなかった…」
「いやぁ…さすがに人手が足りなくて…3年生のお二人も今はあまり…ですし…。
でもまさか綴先輩が料理できるなんて、意外でした。」
「それ失礼じゃない?一応家事くらいできるよ。妹もいるし。」
「妹さんがいたのですね!素敵なお兄さんですね!」
「まぁ…親は夜まで仕事で帰ってこないし…妹はその…馬鹿だから…」
「えぇ…で、でも綴さんの妹さんなら手先は器用そうですよね!」
「いやぁ?ただの馬鹿だよ。料理も味が意味わからないし洗濯は色物と一緒に白い物洗うし掃除をしだしたと思えば雑誌読み始めるし…」
「あ…あはは…」
神希は何も言えなくなったようで苦笑いをした。
「妹さんとは仲は良いんですか?」
「んー?まぁ悪くは無いね。でも正直僕より春樹の方が懐いてるかな。」
「春樹さんですか…?」
「あぁ。あいつ春樹にベッタリだから…」
「春樹さん人気者ですね。」
「ほんと、近くにあんな奴いたら勝てないっつーの。」
僕は切り終わった食材をボールへとうつした。
「はいこれ。終わったよ。」
「え、早くないですか!?ありがとうございます…!!」
神希がボールを受け取ると野菜を鍋に入れた。
「ミネストローネ?」
「はい!今日は温かいものが必要かなと思いまして…!」
神希はオタマを鍋の中で掻き回した。
「…ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど。」
「はい、何でしょうか?」
「神希と琴梨って…お互いどう思ってるの?」
「へあ!?」
そう質問すると神希の顔はトマト缶のように真っ赤になった。
「えっっっっと…まぁ…大好きですかね。」
「ふぅん。でもさ、琴梨って…」
「…はい。婚約者は別…にできますね。」
「…だよね。名家だし。どうするの?神希は。」
「僕はずっと琴梨の従者のままですよ。」
「止めないんだ。」
「止めれるわけないじゃないですか。僕は従者の身ですよ?主に歯向かうなんて…」
「…」
「僕は命をかけて琴梨を守ります。でも、愛するのは僕の仕事じゃないです。それは…別の人です。」
「でもそれじゃ、琴梨も神希も幸せになれないよ。」
「じゃあ何とかしてくださいよ。」
神希はいつもより低い声で小さくそう言った。
「…それ、自分が行動してから言いなよ。」
僕は包丁をまな板の上に置き、出口へと向かっていった。
「綴さんは、意地悪ですね。」
神希は僕に向かってそう言った。
その後はこちらを見向きもしなかった。
僕は返事をせず食堂を出た。
別に意地悪なんかじゃないよ。
君が嘘をついてること、こっちにはバレてるんだよ。
それを知っておいて方っておけるわけねぇだろ…
人間って…
何ですぐに嘘をつくんだよ。
《水戸side》
「春樹、もう大丈夫か…?」
「うん。大丈夫。ごめんね、迷惑かけちゃって。」
春樹が目を覚まして5分がたった。
顔色もだいぶ良くなりもう大丈夫そうだ。
「それで…起きたばかりで申し訳ないんだが…あの頭痛の時…何か夢のようなものを見なかったか?」
「…夢か。そう言うってことは水戸も見たんだね。」
「あぁ。教えてくれないか…?」
春樹は夢の内容を私に教えてくれた。
春樹の夢は私の夢の前のような出来事で、私の夢が春樹の夢の続きのようだった。
「…これってさ、夢じゃないんじゃない…かな。」
「夢じゃない?」
「うん。だってこんな夢、繋がる夢なんて見るわけないもん。だからもしかしたら本当に…」
「でもあの夢の中では私たちの力は盗られていたはずだろ…?でも今は使えるじゃないか。」
「うーん…でもあの時の身体の痛み…夢で殴られたり蹴られたりした時と同じ部分が痛んでたんだよ…だからもしかしたら…」
夢の内容が現実であったかもしれない。
正直こんなの信じられるわけが無い。
でももし…もしあの夢が現実であったなら…
今の私たちはなんだ?
「…なぁ。」
「なに?」
「春樹は全く知らない奴の力の内容を知っていたことがあるか?」
「うーん…有名な人なら分かるけど…さすがに分からないな。」
「だよな。」
「うん。それがどうしたの?」
夢の内容が現実であったなら
もしそう仮定するならば、ひとつ引っかかることがある。
「私たちの力の内容を知ってるやつなんて、限りがあるはずだ。」
「確かに…!!じゃあ僕達の知ってる人が犯人ってこと…?」
「いや…こちら側が認知していなくても一方的に私たちのことを知れる人がいる。」
「それって…?」
私は自分の頭の中で思いついた一つの案を提示した。
「私たちが通う"学校の関係者もしくは生徒"だ」
「え!?でも同じ学校だからってそんなのどこで…」
「ここまでやる輩だ。職員室に侵入するくらい簡単なことだろ。」
「そんな…」
「春樹、お前の力のランクいくつだ?」
「えっ…なんで水戸がランクのことを…?」
「いいから教えろ。」
「僕の力は…"S"だよ。」
やはり犯人は恐らくS級の力を危険だからという表ズラの理由で盗み、私や春樹、そして恐らくちとせも襲ったのだろう。
「なぁ春樹、綴のランクはわかるか?」
「え、綴?うーん…綴からは聞いたことないな。あいつの力的に水戸と同様聞かないはずだし…水戸は今日ちとせちゃんが言ってたのを聞いて知ったんだよね?」
「あぁ。その後琴梨と神希に聞いたんだ。恐らく犯人はS級の力を欲していたのだろう。私も春樹もちとせも…恐らく、ここにいる全員がS級だ。」
「全員が…!?」
「あぁ。それだと辻褄が合うだろ?」
「確かに…って水戸、どこに行くの?」
「自分の部屋だ。少し待っててくれ。」
あとは犯人を絞り込めばいい。
このために私は"アレ"を残したんだ。
恐らく夢の内容からして犯人は…
間違いない。
そう私の中で決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます