第41話『言葉』

《???》

やぁ、こんにちは。

君が剣城春樹くんかな?

そんなに怖い顔しないでよ。


へぇ…君は優しいんだね。

こんな時でもお友達を守るなんて。


どうしてこんな場所にいるのかって?

それはねぇ…


"君の力が欲しいから"だよ。


おっと、危ない。

君の力は危険だからねぇ。

僕達が保護してあげるよ。

優しいでしょ?


でも君は強いからねぇ。

そう簡単に近づけさせてくれないね。

まぁ、だから君たちを"最後"にしたんだけどね。


この力、素敵だと思わない?

これも"保護した力"なんだ。

こんな素敵な力、痺れちゃうよね。

大切にしなきゃ。もったいないよ。


身体が動かない?

だろうね。これも"保護した力"だよ。

素敵だよね?

こんなに有能な力…

やっぱりほっとけないよ。


さぁ、君のその力も僕達に頂戴?

そしてはやくその子の力も…


はは!そこまでして嫌なんだ?

お友達が触られるの。

かっこいいねぇ。優しいねぇ。


でも君は知らないんだ。

その優しさが、人を傷つけていることを。


だから大人しくしててよ。


ほら、痛いでしょ?

もう目の前も見えなくなってきたでしょ?

意識ももう…


…本当にしぶといね、君は。

君のお友達も泣いてるよ?

こんなに蹴られて傷つけられて…

もう楽になった方がいいよ?


…大切な人も守れないなんて



可哀想だなぁ。






《春樹side》

痛い。

身体が痛い。

心が痛い。

僕の身体全てがズキズキと痛む。

呼吸するのが難しい。

苦しい。

痛い。

苦しい。

でも僕がいなくなっちゃだめなんだ。

だから…だから頑張れ、僕の身体。

この苦しみから…耐えろ…!!


こんな所で…死んでたまるか!!



「…春樹!?」

目を開けるとそこには水戸がいた。

「……っ」

喉から声が出ない。喋る気力がない。

「春樹…!!よかった…!!」

水戸の涙が僕の頬にぽたぽたと落ちてきた。

泣いている彼女に、僕は何もいうことができない。

どうしても、声が出ない。

僕は重い腕をゆっくりと持ち上げた。

「…!?」

いつの間にか僕の重い腕は水戸の事を包んでいた。

水戸の上半身が僕の方へと倒れこんだ。

「ちょ…春樹…!?」

何も喋ることが出来ない僕は、こうすることが精一杯だった。

今は水戸に触れたくて、心臓の鼓動が聞きたくて仕方がなかった。

僕の口元に水戸の耳がある。

今なら微かな声も…届くかもしれない。

そう思って僕はこの言葉に今ある力を全て使った。



「大好きだよ、水戸。」



《水戸side》

私は突然春樹に抱きしめられた。

その腕はいつもより力がなく、少しだけ震えていた。

でもどこか温かく、優しかった。

私は何故か涙が止まらなかった。

彼が喉の奥から振り絞った掠れた言葉。

私はそれが、すごく嬉しかったんだ。

「は……今言うのかよ……」

「……」

春樹はもう声を出さなかった。

今の言葉で全ての力を使ったのだろう。

私はぎゅっと力を込めた


「私もだよ、春樹。」




しばらくすると春樹がすぅすぅと寝息を立て始めた。

彼がどんな夢を見たのか、後でちゃんと聞かないと。

「おまたせ、とりあえず氷水作って薬も取ってきた。」

「おぉ、ありがとう。」

氷水や薬を探しに行っていた綴が部屋に帰ってきた。

綴は氷水の入った袋を春樹のおでこに乗せ、私の隣の椅子に座った。

「春樹、目覚ました?」

「…いや、覚ましてない。」

「……ふぅん。」

「……」

「……」

「………ごめん嘘ついた。」

「だよね。なんで嘘ついたの今。」

「いやその…あの…だな…」

「春樹にちゅーでもされた?」

「ちゅ!?!?違うわバーカ!」

「え、違うの?春樹のヘタレ。」

「なななな、なんでそうなるんだよバカ!」

「水戸動揺しすぎ。」

「バカ!」

「あー。水戸は本当にこうなるととことんポンコツになるよね。自慢のIQさんはどこにいったの?」

私は何も考えずに綴をポコポコと殴った。

「痛い痛い。でも良かったじゃん。ちゃんと言えたんだね。」

「……てかなんで分かるんだよ。」

「何となく?空気感でね。」

「空気感で分かるものなのか?」

「一体何年間一緒にいたと思ってんのよ。」

「…そういうものなのか?」

「そういうものですね。」

しばらく沈黙が続いた。

「…でも、変わらないと思う。」

「何が?」

「今までの私たちと。そんなに変わらない。」

「…そう。」

「今まで通り、私たち3人はずっと一緒だ。」

「…ずっとねぇ。」

いつも平然とした顔をする綴の表情がほんの少しだけ曇ったように見えた。

「どうした?」

「いや、別に?なんもないよ。」

「そう…か。」

そうしてまた沈黙が始まる。

なんだか少し、空気が重い。

いつもの綴、いつもの私。

でもどこか…綴の様子がおかしく感じた。


しばらくすると綴が席から立ち上がった。

「どこに行くんだ?」

「んー?便所。」

「わかった。」

綴が扉の方へと向かってドアノブに手を伸ばし

た。


「一緒ならいいんだけどね。」

「え?」

綴はそう言うとすぐに部屋を出ていった。

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