第40話『階級制度』
身体中が痛む
チクチクとではなく
なにかに強く蹴られた感覚
立っているだけでも精一杯だ
でも、守らなきゃ
僕は誰かを守るためにこの力を持っているんだ
重くて痛い身体を無理やり持ち上げて腕に力を込めて思い切り振った。
「下がってっっっ…!!」
みんなを廊下の方へと避難させる
それだけで精一杯で自分のことを考えていなかった
あぁ…やっちゃったな。また怒られちゃうや。
突然手首が誰かに掴まれた気がした。
その手は冷たくて、でも温かくて
優しかった
気がつくと2人の上に倒れていた
小さくてか弱くて温かい彼女の肌に少し触れた
2人の温もりを感じた時
僕の目から涙がこぼれていた。
2人を守れたはずなのに
僕の胸は張り裂けそうなほど苦しくなった
《水戸side》
「任せてよ!!"S級様"の力、見せてあげるから!!」
ちとせはそう言って教室の方へと向かった。
「S級って…なんだ…?」
私はちとせを止めることも出来ず、ただただ眺めていることしか出来なかった。
「ごめんみんな、少し頭が痛むかもしれないけど、我慢してて…!!」
そう言うとちとせは腕を上げ、力を込め始めた。
「2人とも大人しくしてよね…!!」
ちとせが腕を下に勢いよく下ろした。
その途端、目の前で争っていた世宗先輩とかなめが地面に押しつぶされた。
「っっっっ!!!」
後ろにいた私達も少しなにかに押されているような感覚が伝わった。
「無理やり動いても無駄だよ!!人間様は重力に逆らえないんだから!!」
ちとせはそう言うと教室へと入り世宗先輩とかなめの近くへと向かった。
「ちとせ…やめて…!!こいつが…雷華を…!!」
「はいはい、頭を冷やしましょうね。」
ちとせはしゃがみこんで2人の背中に手を置いた。
「乙羽先輩ごめんなさい。今楽にしますから。」
そう言うとちとせは手のひらに力を込めて2人を押さえ込んだ。
「おえっっっ!?!?!?」
おそらくかなめの声からすると、教室内全体ではなく2人の背中だけ重力を加えたのだろう。
仕方がないことだが少し気の毒だった。
「もう大丈夫。琴梨ちゃんと水戸っちは隣の部屋の神希くんの所に行って!!」
「わ、わかった。」
私は琴梨の手を握り隣の部屋へと向かった。
「神希…!!」
「琴梨!!大丈夫ですか!?怪我は無い!?」
琴梨はすぐに神希の方へと走っていった。
幸い神希に怪我は無かった。
「大丈夫。神希も大丈夫そうだね。」
「はい…水戸先輩も、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…頭痛くらいかな。」
「私も頭痛くらいね…」
「2人とも頭痛ですか…頭痛薬があるといいのですが…」
私は2人を見ながら先程のちとせの発言を思い返した。
「なぁ2人とも…"S級"ってどういう意味かわかるか…?」
私は試しに2人に聞いてみることにした。
「S級ですか…?」
「あぁ。なんの事だかわかるか?」
「まぁちとせ先輩のタイミング的に、そのS級は力の事じゃないですか?」
「力…?私たちの力に階級制度なんてあるのか?」
そう私が言うと2人は目を丸くして私を見た。
私は何かおかしいことでも言っただろうか?
「水戸先輩は行きませんでしたか?」
「行くって…どこにだ?」
「【国立病院のOz科】ですよ。小さい頃行きませんでしたか?」
「もちろん行ったことはある。けど私の場合私自身にしかわからない力だから特になにかした訳では無いな…」
「なるほど…僕と琴梨も水戸先輩と同様、自分自身にしかわからない力です。なので僕達も直接言われた訳では無いのですが…」
「よく言われてたんです。お偉い様の集まりとかで、『流石S級の子ですね』とか『S級だと品が違う』とか…。私も最初なんの事だかわからなかったんですけどね。」
「力に階級制度…そんなものがあっていいのか…?」
「正直…いい気はしませんよね。しかもその階級制度の付け方…色々噂があるんです。」
「噂…?なんだ?」
「希少価値で優秀なもの、国にとって宝のようなもの、あとは…」
「あとは…?」
「危険なもの。」
「危険なもの…?」
「はい。人命や国のトラブル、環境問題などの危険がある場合、高ランクを付けられるという噂もありますね…」
なんだよそれ…
そんなの、人間にランクをつけてる様なものじゃないか!!
「そんなのって…」
「まぁ噂なので…。ちとせ先輩はおそらくネガティブなものではなく誇るべきものだと思ってるんだと思います。そちらの方が、気が楽ですしね。」
「……」
私は唖然とした。
まさか、他人からも目に見える力を持っている人は教えられているのだろうか…?
もしかして、春樹も…?
「春樹…っ!」
「春樹先輩がどうかしましたか?」
私が勢いよく立ち上がると琴梨はびっくりしてそう言った。
春樹は先程、私や綴より遥かに苦しそうにしていた。
先程見た悪夢なようなもの…
「春樹は何を見たんだ…?」
「水戸先輩…??」
私は琴梨と神希を取り残したまま、急いで春樹の元へと向かった。
「ちょ、水戸先輩!?どこに行くんですか!?」
「琴梨、肩貸しますよ!」
私が急いで隣の部屋へ戻ると、ぐったりしている春樹を支えている綴が見えた。
「春樹…!!」
「水戸!!春樹の様子がおかしくて…」
綴はゆっくりと床に座り、春樹を横にさせた。
春樹の身体はぐったりとして、力が入っていなかった。首筋から汗が垂れており、閉じきった目からは涙がこぼれていた。
「春樹…!私の声は聞こえるか…!?聞こえてたら手を握ってくれ!!」
私はそう言って春樹の手のひらに自分の手をのせた。
春樹の手はほんの少しピクリと動き、私の手を握った。
「よし…とりあえず春樹を部屋につれていこう。」
「わかった。…でも、あれどうする?」
そう言うと綴はちとせの方を指さした。
ちとせは未だにかなめと世宗先輩を押さえ込んでいた。
「さすがにずっとあれはやばいでしょ…」
「そうだな…ちとせ、世宗先輩は離していいと思う。」
「へ?いいの?」
ちとせが私の声に気づき、話しかけてきた。
「あぁ。乙羽先輩はしばらく世宗先輩の事を見ててください。あと何もしないように見ててください。」
「う…うん。」
「ちとせはかなめをよろしく。部屋の外に出さないようにしてくれ。」
「わかった。任せて。」
「ちとせ!離して…!」
「は〜?嫌だよも〜。また私が止めなきゃいけないじゃん〜!」
ちとせはそう言うと世宗先輩から手を離し、かなめの身体を浮かせた。
「いやだ…!離して!」
「はいはい、お部屋に戻ったらね〜。」
ちとせは駄々をこねるかなめをあしらいながら部屋の方へと向かった。
「世宗…」
「…ごめん、乙羽。」
「…謝るのはうちにじゃないよ。」
「……」
世宗先輩は顔を落とした。
「…ごめんね。」
乙羽先輩は私たちの方を向いてそう言った。
「いえ、大丈夫です。」
「じゃあ私も世宗の頭冷やしてくるね。ほら、立って。」
「うん。」
そう言うと世宗先輩はゆっくりと立ち上がり、乙羽先輩と部屋の方に向かった。
「水戸先輩、僕達も1度部屋に戻って琴梨を休めます。夜食の時にまた集合という形で大丈夫ですか?」
隣の部屋から来た神希はそう言った。
「あぁ、それで頼む。」
「わかりました。ではまた夜食ができたらお呼びしますね。失礼します。」
ぺこりと頭を下げ、神希は琴梨と部屋に向かった。
「じゃあ私達もいくか。綴、春樹のことおぶれるか?」
「なめないでよ。こいつほどじゃないけど僕も男だよ?」
そういうと綴は春樹を背負った。
「うわぁ…こいつの筋肉おっもいわ…」
「お前と違って日々鍛えてるからな。」
「そうですなぁ…」
そんな会話をしながら私と綴は春樹の部屋へと向かった。
目を閉じ眠る雷華を横目に見ながら。
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