第39話『信頼』

悪夢のようだった。

怖くて恐くてコワクテ。

怖かったんだ。


《水戸side》

少しすると頭痛は治り意識が戻った。

周りを見ると全員頭を押さえ込んでいた。

かなめの腕は元に戻り床に力が抜けた状態で倒れていた。

乙羽先輩の周りはペットボトルの水が散乱していた。

世宗先輩は…

自分の身体を押さえつけながら震えていた。

「…世宗!!世宗大丈夫!?」

乙羽先輩はすぐさま世宗先輩の方へと向かった。

「やっぱり…やっぱりアイツだ…!!」

かなめは世宗先輩をギロりと睨んでいた。

「世宗先輩…?」

全員視線の先が世宗先輩の方へと向かった。

「あいつが…雷華を殺したんだ…!!!」

かなめの方を見るとかなめの横に日記のようなものが落ちていた。

私はそれを拾い上げページをめくった。


『最近、静電気がよく起こる。

ドアノブに触れた時、かなめさんの手に触れた時、ちとせさんの近くに行った時。ビリッとしたりちとせさんの髪が私の方へとひっぱられていた。

もしかして、私の身体から電気が漏れている?

どうして?こんなこと、小学生以来です…』


『無線がいきなり乱れた。電波が悪いのかしら。それともこれも…私の電気が悪いのかしら…』


『最近気づいたことがあった。

3年生のお2人と行動を共にした時、いつもより電気が漏れていた気がしたのだ。それが確証できなかった。けど今日食事を世宗先輩から頂いた際、いつもより強い静電気が起きた。かなり痛みがあって世宗先輩も驚いていた。

世宗先輩の力は確かコントロールだったはず。

もしかして、世宗先輩の力で私の力が…?』


そして次のページは破られて、他のページは白紙だった。


「かなめ…これ…」

「あっ…」

私はこの日記をかなめに見せた。

「これ、雷華の日記か…?」

「…そうだよ。水戸ちゃんたちが来る前、僕は先に雷華の部屋に行ってたんだ。それで取ってきた。」

「あぁ…それだったのか。」

綴が横でごにょごにょと独り言を言った。

「あいつが部屋を探索しに来たら、捨てられそうだったからね。念の為先に取っておいたんだよ。」

「無線ってなんだ…?ここに書いてあったが…」

「……僕達の役職だよ。もう雷華は…いなくなっちゃったから言えるようになったけど…」

かなめはゆっくりと立ち上がって私の前へと来た。

「僕と雷華の役職は、これだよ。」

そう言うとかなめは初日に渡されたカードを私に渡した。


『【契約者】

契約者は2名存在する。

2人はお互いの部屋を自由に行き来することが

可能。互いの部屋にはトランシーバーが存在する。片方がいなくなった場合、他の者に役職を教えても良い。』


契約者は2名。そしてお互いの部屋にトランシーバー…無線機が置いてある。

かなめのカードと雷華の日記を読む限りもう1人の契約者は雷華だったのだろう。


「ちなみに雷華が綴くんを気絶させようとした時も、無線機の電波がおかしくなって雷華の声が聞こえてきたからだよ。どう?信じてくれる?」

かなめは私を上から見下ろしながらそう言った。

「…あぁ。信じる。」

私がそう言うとかなめはカードを自分のポケットの中へと押し込んだ。

「じゃあ、あいつが犯人だっていうのも信じてくれるよね?さっさと捕まえて欲しいんだけど。僕のこと馬鹿力で押さえたんだから。」

「そ、そんな無茶な…」

フラフラと立ち上がりながら春樹はそう言った。

「おい春樹…大丈夫か…?」

「うぅ…なんか身体中蹴られたり殴られた気分…」

「春樹が押さえるのは無理そうだね。そうなったら…乙羽先輩の水で手錠作るのが1番手っ取り早いんだけど。」

綴がそう言うと乙羽先輩はのろりと立ち上がった。

「さっきから聞いてれば…なんなん?世宗がなんかしたん?なんで犯人扱いするん?」

「この日記を見れば犯人が世宗先輩だって言ってるようなものですよ。」

「おい…綴…」

「世宗は…そんなことせん。」

「そんな事しない…で収まると思ってるの?

人ひとりの命が消えてたのに…?」

かなめが乙羽先輩の方を向き喧嘩腰にそう言った。

「人の大切な人は捨てといて…自分の大切な人は守るんですか…?最低ですね。」

「っっっ!!」

乙羽先輩の肩が動いた。

今の言葉は、相当響いただろう。

「おい…それ以上は…」

「やめろ」

乙羽先輩の後ろから世宗先輩が顔を出した。

「やめろよ。乙羽にそれ以上何も言うな。」

「は?自分のせいなのに何言っちゃってるんですか?ヒーロー気取りも辞めてくださいよ。」

「…それ以上口を開くな。開いたら…」



「お前の脳、使い物にならないようにしてやる」



「下がってっっっ…!!」

春樹が思いっきり腕を回し、風で私と綴、琴梨、ちとせを廊下へと出した。

「春樹っ!!」

私が春樹の方に手を伸ばそうとすると、後ろから綴の腕が伸びてきた。

綴の手は春樹の手首をつかみぐいっと思いっきりこちらに引っ張った。

私は綴と春樹に挟まれた状態で倒れた。

琴梨はちとせ先輩がとっさにだき抱えていて身体は大丈夫そうだった。

「っっっ!!!ちょ、ちょっと!!」

「ごめんって水戸…てか春樹おっも!」

「るさい…!!つか手放せ水戸が潰れるだろ!!」

そう言いながら春樹が私の上からどいた。

私も颯爽と綴の上からどき教室の中を覗いた。


教室の中ではお互いヒートアップしている世宗先輩とかなめが暴走していた。

少しでもかなめの身体に触れようとする世宗先輩、それを避けながら攻撃をしようとするかなめ。誰も間に入ることが出来ない状態だった。

乙羽先輩が奥で腰から崩れて座り込んでいた。

このままでは乙羽先輩も巻き込まれてしまう…!!

そしてそのまま隣の部屋に……!!

「神希!!神希が隣にいるの!!離して…!!」

「ダメだよ!!落ち着いて…!!」

琴梨がちとせの腕の中で泣き叫んでいた。

「あいつがいないと私…私…!!」

「琴梨…!!」

私はすかさずちとせのところに向かった。

「水戸っち、琴梨ちゃんお願い出来る?」

「あぁ…って、ちとせはどこに?」

「私はあの2人を止める。」

「はぁ!?どうやってだよ!それに危険すぎる…!!」

「大丈夫!」

ちとせは立ち上がり教室の方を向きながらこういった。



「任せてよ!!"S級様"の力、見せてあげるから!!」

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