第36話『推理-雷-』
《水戸side》
私と綴、ちとせは雷華の部屋へと向かった。
私とちとせが並んで、綴はそれに続いていった。
誰も話すことはなくただただ廊下に足音が響く。
いつもプカプカと浮いているちとせも今日は地に足をつけていた。
そして私たちは広場に着いた。
「雷華の部屋はどこだ?」
「右から2番目だよ。ここ。」
「わかった。……おい、どうせ見てるんだろ?」
私は天井へと顔を上げそう言った。
『おや?そちらから声をかけてくるのははじめてですね?』
すると広場にあった小さなモニターにピンクの髪の少女が顔を見せた。
「ここの部屋を調べたいんだ。鍵を開けてくれ。」
『そこは…轟鬼雷華さんのお部屋ですね。いいですよ〜!』
そう言うと扉からガチャりと鍵が空いた音がした。
『それにしても…どうして死んじゃったんですかね?』
「………」
『彼女を苦しめていた何かがあったんですかね?それとも誰かが…』
「…るさい」
『おや?』
「うるさいんだけど。まじ耳障り。」
「ちとせ…?」
ちとせが見せたことない表情をしてモニターを睨んだ。
「あんたのせいでしょ。返してよ。雷華を返してよ!!!!」
そういうとちとせは自身の腕を上げモニターに向かって手を握りしめ手首を回した。
ガシャンッッ
大きな音が響きわたる。
モニターがねじ曲がっていて普通ではありえない壊れ方をした。
ビリビリと電気の音がする。
「………」
「ち、ちとせ…落ち着け…」
「ねぇ、水戸ちゃんはなんでそこまで落ち着けるの…?無理に決まってるじゃん。」
「そ、それは……」
「大事な友達が死んじゃって…大事な友達がどこかに消えちゃって……こんな状況で落ち着く?無理だよ…無理に決まってるよ…!」
「ちとせ…」
何も言えない。
ちとせは確か中等部の時から雷華と親しげにしていた。はたから見たら不釣り合いの2人かもしれないが、実際はとても仲が良く話しているのを廊下でよく見かけていた。
そんな友達が亡くなったら…落ち着けるわけが無い。わかってる。
だけど…
「あのさ、こんな状況だからこそじゃないの?」
綴が私の後ろからちとせの目の前へと立ち塞がった。
「………」
「轟鬼さんがどうしてこうなってしまったのか。それを調べられるのは僕達だけなんだよ。大事な事じゃん。」
「……でも」
「まずは部屋に入ってなにか手がかりがないか調べようよ。それからだよ。」
「………」
そういうと綴はスタスタと雷華の部屋へと入っていった。
「ちとせ…少しの間、手を握っても良いか?」
「……?私の手、制御装置ついてるから…だめだよ。ゴツゴツしてるし痛いもん。」
「いいから。ほら、行くぞ。」
私はちとせの手を勝手に握りしめ部屋へと入った。
ちとせの手は制御装置がついていて確かに握るのは大変だ。でも指先が冷たく震えているのはわかった。恐怖と怯え、悲しみ…あらゆる感情がほんの少し触れる指先から伝わってくる。
少しでもそばにいてあげるんだ。
私のせいでもあるから…
部屋に入るとそこには整ったベッド、綺麗に整頓された机………ではなく、ぐしゃぐしゃにされたベッド、物が散乱している机があった。
「これは…なんと言うか…」
「ちとせ、雷華は整理整頓が苦手なのか?そんな性格には見えないが…」
「ううん…そんなことない。いつもビシッとしてるし整理整頓も得意な子だよ……」
「じゃあどうして…」
私は最初に机の上を調べた。
机の上には書き置きと資料のようなものが置いてあった。
「これは…?」
「書き置き…だな。読んでみる。」
『水戸さんへ
私たちが間違っていました。
私はとんでもないことをしてしまいました。
ごめんなさい。そして、さようなら。
轟鬼 雷華』
「こ、これって…」
「……遺書?」
「嘘…」
書き置きには遺書のような事が書かれていた。
とんでもないことをしてしまいました…と書かれている。彼女は何かをしてしまったという事だろうか…?
「…………っ」
ちとせの手に力が入る。
私は優しく握り返した。
「この資料…はじめてみたな。」
「雷華が1人で見つけていた…ということか?」
「恐らくね…読んでみようか。」
綴が机の上に置いてあった資料を取り読み始めた。
『【△月✕日の新聞記事】
本日、シャドウの1人が発電所内に侵入し、放電させ停電を起こしました。
この停電で多くの企業たちがダメージを受けており電車などの交通機関も停止しております。
今回の犯人の力は「電気を操る力」ということが確定しました。
危険なので発電所近くの者は外出を避けるよう政府が命じました。』
【電気を操る力】確かにそう言った。
雷華の力と同じものだ。
そしてその犯人は【シャドウ】の一員…
「雷華が…シャドウ…?」
「そんな、そんなことない!雷華はそんなことする子じゃない!」
「でも全く同じ力…」
「違う!!!」
疑う綴、信じないちとせ。
2人の意見はぶつかり合う。
この記事の横にあった遺書
関連性は……【85%】
恐らく雷華はこの記事を見つけて遺書を書いたに違いない。
しかし、どうして%が下がっているのだろうか…
考える。あらゆる可能性を考えて。
「水戸、これどう思う?」
「どうって…?」
「この記事に書いてあることが雷華ちゃん本人なのか…それとも違うのか…」
「違うもん!らいらいはこんな事しないもん…!」
「……恐らく、雷華じゃないだろうな。」
「どうしてそう思うの?」
「これは仮説だが、雷華はこの記事を読んで遺書を書いたとしよう。この記事と遺書…この2つの関係性は【85%】だったんだ。」
「微妙に低くなってる数値…か。」
「あぁ。雷華はこれを読んで遺書を書き自らの命を絶った。自分がやってしまった本人…【シャドウ】だと思ってだ。」
「その【シャドウ】が轟鬼さん本人じゃないって言う確証は?」
「綴、お前は自分が行ったことを知り、嫌になって命を絶つか?」
「ん…?いや…さすがに命までは…後悔する時はあるかもだけど。」
「そうだ。それにこんな大掛かりなこと…自分で行ったことを否定するならそもそもそんな事しないだろう?」
「…確かに。」
「雷華自身は【シャドウ】が自分じゃないのかと錯覚し、この2つの関係性が高まった。しかし実際はこの【シャドウ】は雷華ではなく別の人物である…すると雷華との関係性は?」
「……低くなる…!!」
「そうだ。私の推理をまとめるとこうだ。
①雷華がこの記事を見つけ、【シャドウ】を自分自身だと錯覚をする。
②この記事を読み錯覚した雷華は遺書を書いた。
③しかし記事の内容は雷華自身ではなく別の誰か。雷華本人との関係性は低くなる。
だから【85%】、中途半端な数値が出た…。
これが私の考えだ。どうだ?」
私は自身の脳内のあらゆる考えをまとめ2人に伝えた。
沈黙が訪れる。
綴とちとせが私の顔を見て瞬きをした。
「…水戸っちって…探偵か何かなの…?」
「え…いや、そんな事ないが…」
「その推理……あるかもね。」
「綴っちもそう思った…?私も水戸っちの話聞いて納得しちゃった…」
2人は私の推理をどうやら納得してくれたみたいだ。
もしそうなら…そうだったとしたら…雷華は…
いいやダメだ。そんなこと、考えちゃダメだ。
しばらくすると綴がちとせに声をかけた。
「そういえば宇喜世さん、元気だね。」
「…へ?」
「轟鬼さんと宇喜世さん、仲良かったんでしょ?なんで元気なのかなって。」
「おい綴…、お前…」
「ううん…大丈夫だよ。水戸っち。」
ちとせの手に力が入るのを感じた。
「ちとせ…」
「私たちの生まれ持つ力って…無限大でしょ?もしかしたら……ううん、かならず死んだ人間を蘇らせる力を持つ人がいると思うの!」
「……」
「だから私、はやくここから出てその人と会って…らいらいを元気にさせてみせるよ。」
「………」
ちとせは私の手を離し、玄関の扉の方へと向かって振り向いた。
「私が元気出さなきゃ、かなめっちも…らいらいも…悲しんじゃうもんね!!」
ちとせは潤んだ瞳を隠すかのように、
目を閉じニッコリと満面の笑みで笑った。
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