第34話『痺れ』

私が間違っていた。

何もかも、私たちが間違っていた。

この真実を知ったら、みんなどうなってしまうのだろうか。

考えたくない。何も考えたくない。


考えるのを やめることにした。


《水戸side》

「…!!開かない…!!」

私は防音室のドアノブをガチャガチャと動かす。

しかし、扉はビクともしない。

「くそっ…なんでいきなり……防音室だし誰にも声は届かない……どうすれば……」

その時、私は自分が息苦しいことに気がついた。

「……なんか、息がしずらい……、もしかして…」

この部屋…密閉にされてる…!?

空気がどんどん少なくなっていく。

どんどん肺が苦しくなっていく。

「……開けろ……」

扉はビクともしない。

「くそ…なにか…何かないのか…!?」

私は防音室の端にある机の上を調べた。

すると、1枚の紙が置かれていた。


「どちらかが犠牲になるその時まで、

その扉は固く閉ざされる。」


どちらかが…犠牲…?

「もしかし…て…」

私か雷華…どちらかが犠牲になるまで…この扉は開かないの…か…??

「嘘だろ……」

そんなの…嫌だ……

雷華……頼む、耐えてくれ……

2人で絶対に脱出するんだ…………

2人で………………

「……き…………」


………………………



……………き…………………


じん……………き………………………



たすけて………………くれ…………………



《神希side》

「琴梨、あの後眠れたんですか?」

「……うん。」

「どう見ても嘘ですよね?目の下クマできてますよ。」

「……だってそう言わないと神希怒るじゃん。」

「あのですねぇ…嘘をつかれた方が怒るんですよ?」

「どっちにしろ怒るじゃん……って、神希。」

「どうしました?」

「目……充血してるよ?大丈夫?」

「え…?本当ですか?」

「うん。ほら、モニターに少しはうつるでしょ?」

「うーん?」

僕はモニターの中を覗いた。

琴梨の言う通り目は赤く、少し鱗のような模様になっていた。

「…どうして?僕、力を使ってないの……に……」


モニターの中に吸われる感覚、どこかに吸われていく感覚が目に伝わる。

「ん……」

「どうしたの神希?」

「っっっ…………」

「神希!?大丈夫!?」

目の痛みに耐えられず、僕はうずくまって自分の目を押さえつける。

圧迫されるような感覚。

こんな感覚久しぶりだ。

確か…同じような感覚が……

前に…琴梨が僕のことを必死に探していた時に…

必死に……

探されている………?

「っっっっ!!!!!」

「神希!?」

「乙羽先輩!」

僕はとっさに近くにいた乙羽先輩に声をかけた。

「神希くん!?どうしたの!?って…目が……」

「お願いです着いてきてください!」

「ど、どうしたん!?いきなり…」

「いいから!!!」



「水戸先輩が、僕を探してるんです!!!」



《乙羽side》

「ど、どういうことなの!?」

「はやく!!!!」

「わ、わかったの!!!世宗、ここで待ってるの。」

「わかった。」

私は世宗の手を離して神希くんに着いて行った。

神希くんが向かったのは隣の部屋、物置のような部屋だった。

「ここ!ここを力を使ってこじ開けてください!」

「へ!?ぼ、防音室みたいやけど…」

「はやく!」

「わ、わかった!」

私は腰につけていたペットボトルから水を出しバールを作った。

「いくよ!」

私は思いっきりバールを使い扉をこじ開けた。

「開いた!!」

「!!!水戸先輩!!!!」

扉を開けた瞬間、中から水戸ちゃんが倒れてきた。

「水戸ちゃん!?大丈夫!?!?」

「ゲホッゲホッ」

水戸ちゃんは苦しそうに咳をした。

「しっかり!水戸ちゃん!」

「ゲホッ……り…」

水戸ちゃんが何かを言おうとしていた。

「どうしたの!?ゆっくりでいいから!」

「…なり……とな…り………」

「隣…?」

水戸ちゃんはその後気を失ってしまった。

「…そういえば、雷華ちゃんは!?」

「……もしかして!」

私は水戸ちゃんを神希くんに託し、床にころがったバールで隣の防音室の扉をこじ開けた。

「っっっ!!雷華ちゃん!!大丈夫!?」

水戸ちゃんと同様、雷華ちゃんは倒れてきた。

私は倒れてきた雷華ちゃんの身体を支え、必死に声をかけた。

「雷華ちゃん!しっかりして!!大丈……」

「乙羽先輩!雷華先輩大丈夫ですか!?」

「…………」

「………乙羽先輩…………?」

「雷華ちゃん……?」

「…………!!!!!」

「と、世宗ー!!!!!!!!!」

私は大声で彼の名を叫んだ。




雷華ちゃんの身体は、

ピクリとも動くことは無かった。



《琴梨side》

必死に走っていった神希と乙羽先輩に置き去りにされた私は世宗先輩を見張っていた。

彼の力はコントロール、もし少しでも機材に触れたらここにあるものは全て彼の自由自在に操れる。

だから必ず、監視しなければならなかった。

「神希…大丈夫かな……」

「彼があんなに慌てるのは珍しい?」

「…はい。」

「……気になるな。」


「と、世宗ー!!!!!!!!!」


その時、向こう側の部屋から乙羽先輩の叫び声が聞こえた。

「!?!?!?」

「今のって乙羽先輩の声じゃ…」

私が何かを言う前に世宗先輩は隣の部屋へと走って向かった。

私もその後に続いて行った。


「乙羽!!!どうしたの!?!?!?」

「と、世宗…………」

乙羽先輩の顔色は非常に悪く、声も震え涙を流していた。

「乙羽…………」

世宗先輩は乙羽先輩の後ろに周り震えた乙羽先輩の肩に優しく手を乗せた。

「雷華ちゃんが………」

「…………!!!!」

「…………え」

世宗先輩と私は雷華先輩の状態に気づいた。

「………琴梨ちゃん、みんなのこと呼んでもらってもいいかな…」

世宗先輩は真剣な眼差しで私を見た。

乙羽先輩の肩の上にある先輩の手は少し震えていた。

「……わかりました。」

私は隣の部屋にいる先輩たちを呼んだ。



「水戸!!大丈夫!?!?」

「…水戸先輩は気絶してるだけです。大丈夫。」

「そっか………雷華ちゃんも……!!」

春樹先輩がさっそうと駆けつけると雷華先輩の異変に気づいた。

「……うそ」

後ろの扉にはかなめ先輩が立っていた。

「……うそだ」

「らいらい……?」

ちとせ先輩が雷華先輩の所に駆け寄ってきた。

「らいらい……どうしたの?目開けてよ…」

「…………」

雷華先輩は動かない。

「らいらい……!!!!」

「……いやだ」

「…………らいらい…」

「…………いやだいやだいやだ」

「……………………グスッ」

「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだっっっっ!!!!」

かなめ先輩はそう叫ぶと教室から出ていった。

「…いやだよらいらい…目覚ましてよ…なんで…なんで………」

ちとせ先輩の目からは涙がずっとこぼれている。

「…………私のせいだ」

「………琴梨………?」

「私が……寝ていれば………私がちゃんと寝てたら、こんなことにならなかったかもしれない…」

「…違う、琴梨のせいじゃ…!」

「私が……私が…………!!!!」

「違う、琴梨ちゃんのせいじゃない…!!!」

ちとせ先輩が涙でぐしょぐしょに濡れた顔で私にそう言った。

「……でも…」

「琴梨ちゃんのせいじゃない…私たちを閉じ込めた奴が悪いんだ……!!」

「でも私が気づいてさえいれば止められたのに…」

「違うの!!らいらいの身体…触ってみてよ…」

「…雷華先輩の…?」

私は雷華先輩の頬に手を伸ばした。

「いっ…」

私の指先に静電気の痛みが走った。

「……らいらいは…」




「自分から命を絶ったんだよ。」

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