第33?話『"彼女"との出会い』
これは僕が2年生の頃のお話。
先生にプール掃除を頼まれて放課後、プールに足を運んだ時であった。
僕がバケツとブラシを持ってプールサイドに行くと、プールの中央に一人の女の子がプカプカと浮かんできた。
僕は最初、見間違えかと思って目を擦ってもう一度プールの方を見た。
しかし見間違いではなく、少女はまだプカプカと浮かんでいた。
小柄な身体に綺麗なピンク色の髪、白くて細い手足。今にも海の中へ引きずり込まれてしまうのではないかと言わんばかりの、か弱そうな少女だった。
「あの…風邪ひきますよ…?」
僕は恐る恐るプールへと近付きながら少女に声をかけた。
すると少女はこちらに気付き、プールの中へと潜っていった。
「……あれ?」
プールの水が太陽の光を反射し、眩しくてよく見えないので、少女がどこに行ったのか僕にはわからなかった。
「お…おーい…?」
僕が声をかけようとすると目の前から少女が顔を出してきた。
「ぷはっ」
「わぁ!?!?!?」
僕は驚いて尻もちを着く。
「え…えっと……」
「……掃除なの?」
少女は身近で見るともっとか弱そうな身体付きで僕は少し目を逸らした。
「そ、掃除しにきたんだけど…お邪魔だった…?」
「ううん、大丈夫なの。」
そう言うと少女はプールから出て、プールサイドの端にあるビーチベッドで寝だした。
「そんな格好じゃ風邪ひいちゃうよ?」
僕が声をかけると少女は既に夢の中だった。
「…このままじゃ風邪ひいちゃう…よね…」
僕は自分が着ていたブレザーを少女にかけ、掃除を始めた。
「ふぅ…今日はこんなところかな。」
一人で掃除するにはあまりにも大きいプールを僕はおよそ半分綺麗にした。
「水を入れるのは明日かなぁ…」
ふとプールサイドにあるビーチベッドに目を向けると少女が丁度夢から覚めていた。
「……これ」
「あ、起きた?」
「あなたの……?」
「うん。風邪ひいちゃうって思って。」
「………」
少女は僕に上着を渡すとてくてくと歩いて帰っていった。
「あの子…いつもここにいるのかな…」
次の日、僕は昨日の続きをしようとプールへと向かった。
するとプールサイドにあるビーチベッドに昨日の少女が横になっていた。
「こんにちは。」
「……またあなたなの。」
少女はちらっとこちらを向いてそう返した。
「覚えててくれたんだ。ここ、好きなの?」
「……ん。」
少女は小さく頷いた。
「そっか。あ、これ良かったらどうぞ。」
僕は持ってきていた紙袋を少女に渡した。
「……これは?」
「上着だよ。手作りだから見た目はそんなにだけど…乾きやすい素材を使ったから、良かったら着てて。」
「……これ、あなたが作ったの?」
「そうだよ。手芸は慣れててね。」
「……わざわざ私のために?」
「風邪ひいちゃうと思って。」
「………」
「サイズがわからなかったから少しブカブカかもしれないけど…着てみてくれない?」
「………ん。」
少女は僕が渡した上着を身につけた。
案の定ブカブカでサイズはあっていないが、上着が少女を優しく包んでいるように見えた。
「やっぱりブカブカだね…着心地はどう?」
「……暖かいの…」
「そっか!よかった!ちょっと待ってね、少し前だけ調整させて…」
「………」
僕は上着の前を少し縫ってまた少女を見た。
「よし!どうかな?」
「………」
「気に入らなかった…?」
「…そんなことないの。ありがとう。」
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。」
すると少女は僕の前に来てしゃがみこんだ。
「…?」
「どうして名前も知らない私に上着を作ってくれたの…?」
「どうして…か…。うーん…お節介…だからかな。」
「お節介なの?」
「よく言われるね。お節介だとか過保護だとか。わかっていてもどうしても気になっちゃって。」
「…そうなの。」
少女は僕のことをじーっと見つめてきた。
「…えっと、名前言ってなかったよね。僕は世宗。黒羽世宗。2年生。君は?」
「…乙羽。上白乙羽なの。2年生…」
「同い年か!どうぞよろしくね!」
僕は少女の前に手を出した。
「……よろしくなの、世宗。」
少女の小さい手が僕の手を握り返した。
これが僕と少女の出会い。
僕と少女はよく話すようになり、次第に打ち解けていった。
そして今では、僕の大切な"彼女"だ。
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