第30話『ぶつかり合い』
「…なぁ、私心配や。」
「…同意見だね。僕もだよ。」
「こういう時はあれやろ?いつもあんたが言うやつ。」
「ははっ!そうだね!それだね!!」
「お兄さん達に任せなさい!」
《世宗side》
水戸ちゃんの脳に侵入する。
頭の中はぐるぐるで、整理できていない。
このままにすれば、彼女はすぐに崩壊する。
『一部データ 機能停止. ファイル ロックします.』
ほんの少し、時間が必要だ。
大丈夫。君はひとりじゃない。
僕らはずっとここにいる。君のそばにいる。
だから諦めないで。水戸ちゃん。
ゆっくり、一緒に整理しよう。
「…水戸に何かしたんですか?」
「今、彼女は相当きついことに触れたみたいで。そのショックは精神には重すぎた。だから身体に負担が来たんだ。」
「……それで、世宗先輩は何をしたんですか?」
「僕の力は『コントロール』。ハッキングできるんだよ。機械でも、人間の脳でもね。」
「じゃあ世宗先輩は水戸に…?」
「一部、そのデータと思考をね。一時的にでもこうしないと彼女には荷が重すぎる。しばらくこのままにしてて。落ち着いてきたら、解除するから。」
「……わかりました。」
水戸ちゃんの顔色は少しずつ良くなっている。
このままにしておけばしばらくすれば回復するだろう。
……さて。水戸ちゃんの頭に触れた時のデータ。
これは他の人に言うべきだろうか…
今これを言ったら、疑心暗鬼になってみんなの精神にも重すぎる。
この推理が真実だとすると…これを知っているのは水戸ちゃんと僕、そして残る1人…
その1人が『U's』で僕達のことを狙っている。
でも、こんなことに意味はあるのだろうか。
意識がなかった時、僕達を襲えばよかったのに。
どうしてわざわざ閉じ込めてこのようなことをさせているんだ…?
なにか理由が…
「世宗先輩。」
少し低い声で綴くんが僕に話しかけてきた。
「どうしたの、綴くん。」
「………水戸のこと、ありがとうございます。」
「……………」
顔がポカーンとする。まさか、綴くんにお礼を言われるとは…
「あと1つ、聞きたいことが。水戸の脳内を見たんですよね?」
「え…あ、あぁうん。そうだよ。」
「水戸は一体何を考えていたんですか。」
どうしよう。これは教えた方が良いのか…それとも黙った方が良いのか…
綴くんは攻撃された側だから大丈夫かもしれない。
普通攻撃されたら犯人としては黙ってられないし攻撃し返す…春樹くんも大切な友達がやられていたら黙って見過ごすわけが無い。
この2人になら…話しても良いかもしれない。
「わかった。話すよ。後で水戸ちゃんを運ぶ時にでも。」
「…わかりました。」
「じゃあ、さっきの話の続きをしようか。」
僕はあらためてみんなの前に出た。
「琴梨ちゃんと神希くんがその日の午後につれてこられた可能性がある…そしてその日の記憶が無いのが僕と乙羽。僕と乙羽はその前からつれてこられた可能性があるね。」
「あ…あの…」
か細く震えたかなめくんの声が聞こえた。
「どうしたの?」
「ぼ、僕もその日の記憶が無いんです…」
「つまり、かなめくんも私たち同様その日の前からつれてこられた可能性があるってことなの…」
「なるほど…教えてくれてありがとう。雷華ちゃんはどうかな?」
「……私はその日、家で読書をしていました。」
「じゃあ雷華ちゃんは記憶あり…と。」
乙羽が懐から小さなノートとペンを取り出しメモをしだした。
「…乙羽、それどこから持ってきたの?」
「へ?これ?朝の放送で言ってた欲しいものなの。メモする物はあった方が良いでしょ?」
「朝の放送…」
「どうしたの、神希くん?」
「あっすみません…僕、朝の放送が聞こえなくて…」
「朝の放送が聞こえてない…?」
「あ、それ私も聞いてないよ〜?」
「ちとせちゃんも?」
「私も聞いてないです…」
「ぼ、僕も…」
雷華ちゃんとかなめちゃんもそう言った。
「半数が聞いてないのね…あの放送。」
乙羽がまたメモをする。
「逆に聞いた人達はいる?」
「朝の起きた順番ですよね。僕と春樹、水戸は聞いていましたよ。」
「うん。朝その話もしてたし…」
綴くんが話したあと春樹くんもうんうんと頭を動かした。
「なるほど…3人は聞いていて…他は?」
「私も聞きました。欲しいもの…ですよね。端末に書いておけって。」
「琴梨ちゃんは聞いた…と…あと僕も聞いてたし、半分半分だね。」
「ちなみに、もう書いた人はいるの?」
乙羽はメモをしながらそう質問した。
「僕は頼んだよ。」
「世宗は頼んだのね…他は?」
「僕も頼みました。」
「僕はまだ。」
「私は頼みました。」
春樹くん、綴くん、乙羽ちゃんはそう言った。
「念の為、何を頼んだのか聞いてもいい?」
「僕はカメラを頼んだよ。何かあった時に少しでも情報を残したくてね。」
「世宗はカメラね…春樹くんは?」
「僕はコンタクトを頼みました。僕が今使ってるのワンデイだったので…変えが必要で…すみません、使えるものじゃなくて…」
「全然いいなの。前が見えないと大変だし気にすることじゃないの。乙羽ちゃんは?」
「私は…」
琴梨ちゃんが下を向いた。
なにか気にすることでもあるのだろうか?
「言いにくかったら後で私のところに来て言ってもいいよ?」
「いやぜんぜん…私は…エナジードリンクを頼みました…」
「エナドリ!?」
予想外の物で僕と乙羽は少し驚いた。
「エナドリ…ね。わかったなの。」
乙羽がメモを続ける。
「琴梨…」
横から微かに神希くんと琴梨ちゃんが話している声が聞こえた。
「…なに」
「もしかして……なの?」
「…………別に。」
声が小さくてよく聞きとれない。
ただ、神希くんの表情がいつもより少し怖く見えた。気のせいかもしれないけれど。
「よし、ある程度まとめられたの。今日はもうみんな休んだ方が良いと思うから解散にしようか。」
「そうだね。僕は春樹くんと綴くんと一緒に水戸ちゃんを部屋に運んで解除するから。」
「わかりました。水戸、立ち上がれる?」
「ん…」
水戸ちゃんはフラフラと立ち上がる。
「よいっしょっと。じゃあお先に失礼します。」
春樹くんは水戸ちゃんを軽々と持ち上げおぶった。
僕と綴くんは彼の後ろをついていく。
「世宗先輩。」
「どうしたの、綴くん?」
綴くんが春樹くんに聞こえない声量で僕に話しかけた。
「水戸の脳内、別のことも見ましたか?」
「見てないよ。さっき言ってたファイル以外は。」
「ふーん…」
綴くんは少し早歩きで僕の目の前に立ち塞がる。
「嘘つき。」
綴くんの瞳がいつもの黄色く透き通った目ではなく赤く、鋭い目をしていた。
なるほど。これが彼の「力」なのか。
「君の前では、どうやら嘘をつかない方が良いみたいだ。」
「何を見たんですか。白状してもらいますよ。」
綴くんは僕の胸ぐらをつかみ、僕を睨んだ。
「僕の『親友』の思考を見るの、そんなに楽しいんですか?」
「そうだね。彼女の脳内はだいぶ複雑で興味はある。でも僕が彼女の思考を見るの、君は止められないでしょ?」
「………」
「君は春樹くんみたいに強い力は持っていない。それに君がもし僕に手を出したら…水戸ちゃんはどう思うのかな?」
「…お前」
「大事な人『親友』…ねぇ。」
「…くそ…!」
綴くんの腕が僕に振りかかってきた。
「いっ…」
「やめて。綴。」
綴くんのか弱い腕は春樹くんの鍛えられた手によって簡単に抑えられていた。
「春樹くん…いつから聞いてたの?」
「煽りあいが始まってからですよ。そんなことしても、今はどうにもならないでしょ。」
「離せ…っっ」
綴くんの腕が今にも折れそうなくらい抑えられている。
「今話したらお前、殴るだろ。」
「だって…こいつ…」
「水戸の何を見たのか、まだ教えてもらってないでしょ。綴は僕達のこととなると話を聞かなすぎるんだよ。もっと冷静になれ。」
「……わかった。わかったから離して。」
「反省したなら、水戸のことちょっとよろしく。」
「……」
綴くんは黙って春樹くんから水戸ちゃんを預かり部屋に連れていった。
「…綴がすみません。怪我してないですか?」
「あ、あぁ大丈夫…」
春樹くんの表情は笑っていなかった。
いつもより真面目で、水戸ちゃんの前では絶対に見せない表情。真剣な眼差しだ。
「綴は僕達のこととなるといつもああなっちゃってて…気をつけてはいたんですが…」
「いや、僕こそ。挑発しすぎちゃった。」
「それで、世宗先輩は水戸の何を見たんですか?」
「あぁ…僕が見たのは…」
「彼女の奥深くにあった、微かな記憶だよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます