O'z-ｵｽﾞ-

第29話『くだらない涙』

《かなめside》

「綴くんだって！解峰ちゃんのこと好きなくせにー！」

「は？」

「え？違うの？」

「水戸は親友。それ以上でもそれ以下でもないよ。」

「ほんとかなぁ…」

僕はこれでも恋愛に関しては知識はある方だしそうだと思ったんだけどなぁ…

綴くんってほんとにわからない。

あの人は絵に書いたような、何も感じない表情をする。

ただそれは…

「あの人も一緒なんだよな…」

「？どしたの」

「ん、あれ、今の口に出てた？」

「うん。もろね。」

僕は今綴くんの身体を支えながら食堂に向かっていた。

「で、あの人って？」

「あぁ……春樹くんだよ。」

「春樹が？どうしたの？」

「ん？いや…よく分からない人だな〜って。」

春樹くんは乙女ゲーでいうモテキャラ担当だ。

優しくて、強い。彼の笑顔は周りの人も笑顔にしてしまう。そんな人。

「春樹くん、たまにわからない表情をするから。」

「あぁ…かなめってちょっとだけ鋭いんだね。」

「？鋭い？」

「うん。春樹はほんと、よく分からない人間だよ。」

幼なじみの綴くんも言うってそうとうじゃ…

「春樹は…すぐカッとしちゃうタイプでね。ほんと、怒らせたくない人だよ。」

…あれ？

「…なに、人の顔ジロジロ見て…」

「え、あ…綴くん、そんな顔するんだなって。」

「…顔？」

「うん。優しそうなふにゃっとした表情。初めて見たから。」

「…そんな事ないよ。」

綴くんがそっぽを向いた。

もしかしてこの人、意外と照れ屋？

面白い人だな…

「あ、綴！大丈夫か？具合は？」

食堂の前にいた解峰ちゃんがこちら側に走ってきた。

「うん、大丈夫。」

「かなめ、ありがとう。」

「いえ…これは…」

「……大丈夫。お前のことは確かに許せないが…"仲間"だろ？」

「仲間…？」

解峰ちゃん、この子はカッコイイ女の子。女子にモテるタイプの子だ。でもこの子はとても優しくて真っ直ぐな性格で…

愛される人だ。

「愛されていますね、解峰ちゃんは。」

「ん？何か言ったか？」

「いえ、別に。ありがとう。」

僕は解峰ちゃんと綴くんの背中を見ながら食堂に入った。

《水戸side》

「本当に大丈夫なのか？また無理してるんじゃ…」

「してないよ〜水戸ってば心配性。」

「お前の日頃の行いだろ？」

「まぁ、水戸に構ってもらえるしいいんだけどさ〜？」

「おい……」

じゃれついてくる綴をはいはいと返しながら席へと向かった。

「綴、大丈夫だった？」

「うん、平気平気。さてと、お昼は何かな〜？」

先に席にいた春樹がこちらへと向かってきた。

そして綴はお腹が空いたのかすぐさまご飯の方へと向かった。

「神希、ありがとう。」

「あ、水戸先輩！いえいえ！今日は3年の先輩お二人方も手伝ってくれたので！」

「そうそう！僕が作ったこのお味噌汁！美味しいぞ〜！！！」

「作るものが本当におじいちゃんよな〜世宗は。完全に和食やし。」

「…ということでお昼は和食です！」

料理中仲良くなったのか、世宗先輩・乙羽先輩・神希がキャッキャと話をした。

「ありがとう。あとその…海苔ってあるか？」

「ありますよ！味付け海苔で大丈夫ですか？」

「あぁ！それで良い。ありがとう。」

「水戸先輩、もしかして味付け海苔がお好きなのですか？」

「ん？あ、あぁ…少し恥ずかしいけどな。」

「いえいえそんな！ご飯と一緒に食べるととっても美味しいですよね。よかったら沢山食べてください！」

「！！！！感謝する！！！！」

昼食も食べ終わり、私たちは全員中央の机に集まった。

「さて…今日は色々あったけれどまず何から話そうか？」

世宗が進行を始めた。

「まず話すことは綴くんのこと・琴梨ちゃんと神希くんのこと・ちとせちゃん雷華ちゃんかなめくんのこと・そして私たちのことやね。どれからにしようか。」

続いて乙羽も進行を始める。

「まずは…綴のことで良いですか？」

「ええで。水戸ちゃん、まずは詳しく説明してくれない？私たちはあとから来たからよく分からないの。」

「わかりました。まず、綴がいないことに気づいてから。琴梨は夢の中でその一部始終を見ていた。だから場所はすぐに分かりました。そこにすぐ向かったら頭から血を流して倒れていた綴、そしてすぐ近くに壊れた電子パットがありました。電子パットには傷はなく内部から壊されたと思います。」

「なるほどね…」

「この電子パットは犯人が壊したものだと思われます。」

「つまり綴くんを襲った犯人は…電子パットを傷つけずに壊せる力を持っている人…かな。」

「はい。名をあげるなら、重力で圧迫するちとせ、電気で壊せる雷華、水で壊せる乙羽さん…この3人です。」

「私たちがいわゆる容疑者ってやつなのか〜それでそれで、水戸っちは犯人わかったの？」

ちとせが問いかけてくる。

「あぁ…まず絞り込もう。ちとせの力は重力をコントロールする…だったな？圧迫で壊すことも可能だがそしたら表面のガラスが破損するだろう。だからちとせは外す。そして乙羽先輩、水で壊しているのなら電子パットが濡れているはずだ。だから外す。そして…残るは雷華。」

「…私の力なら、電子パットを壊すのは簡単ですね。」

「…雷華？」

かなめが雷華の袖をぎゅっと掴むのが見えた。

「…綴さんを襲ったのは私です。」

「…え！？」

このことを初めて知った春樹、ちとせ、神希、世宗先輩、乙羽先輩は衝撃を受けた表情をした。

「ら…雷華ちゃんが？綴くんを？なんで！？」

世宗は雷華に攻めよった。

「…それは……」

「みんなを守るため…ですよね。」

綴が私の横でいつもより低い声で話した。

「綴…」

「なんか、僕が知っている話とは違うけれど。自分だけ隠れるつもりなの？」

綴はそう言うとかなめの方を見てニッコリ笑みを浮かべた。

その笑みはどこか恐ろしく、不気味だった。

「…綴くんは、雷華に襲われた後意識はまだありました。」

「…かなめさん？」

「…あのね、僕雷華が綴くんを襲うところを見ちゃって…身体が勝手に…僕が、自分の手を硬い岩に変えて殴ったんだ。綴くんの頭を。」

「かなめくん…それは本当かい？」

「はい、本当です。」

世宗はかなめにそう聞くと俯いた。

「…して…」

「…雷華…？」

「どうして…！どうして私のことを庇ったんですか！？」

雷華は普段絶対にしないであろう表情で大声でそう言った。

「…僕は、自分のためにやったんだよ。」

「自分のため…？どうして？自分のためにわざわざ私の罪を庇おうとしたんですか！？」

雷華は泣いていた。

ポロポロと涙が頬をつたっていく。

きっと彼女は今、かなめの事しか見えていない。

「違う…！僕は！」

それはかなめも、同じだった。

「僕は…君にこんなことして欲しくなかった…」

かなめは崩れるように地べたへ足を着いた。

「雷華が優しくて、人のためなら何だってしちゃうってわかってる…わかってるから…こんなことして欲しくなかった…」

かなめが座り込んだ床が涙で濡れていく。

「僕は…怖かったんだ…」

食堂が静寂に包まれる。

聞こえるのはかなめの鼻をすする音、そして雷華の涙がこぼれる音だけだった。

「お互いを守り合うために傷つけあう…馬鹿じゃないの？」

「…綴？」

「あんたら、しょうもないことしてる自覚あんの？」

綴が雷華とかなめの前に立ち見下すようにしてそう言った。

「…かなめさんにしょうもないなんて…言わないでください。」

「だって本当の事じゃん。お互いのためを思ってやった事がお互いを傷つける。さらにはそれで喧嘩して泣かせて。馬鹿じゃないの。」

「綴…！お前それ以上は…」

春樹が綴を止めに入ろうとする。

「春樹はそう思わないの？」

「……お前、時と場合ってものがな…」

「みんなは？」

綴はニッコリとした表情で私たちにそう言ってきた。

「……」

誰も話さない。

誰も何も言わない。ただ、床を見つめるだけ。「…同意見ですね。」

琴梨ただ一人、綴の問に答えた。

「おや、あんたと意見が合うとは。」

「時間の無駄です。被害者がこんなヘラヘラしているならもう話すことは無いでしょう。次の議題に行った方が効率的です。」

「…琴梨」

「神希、私たちが見た資料について話してくれない？」

「でも…」

「話しなさい。」

「……かしこまりました…」

戸惑っている神希に琴梨は強く言い聞かせた。

神希は主人の命令に従った。

「では…その…綴さんが保健室につれられた後の自由行動の時に起きたことをお話しますね。」

神希から一通りの話聞き、世宗先輩と乙羽先輩の話も聞き終わった。その頃には雷華とかなめは泣き止んでおり、静かに話を聞いていた。

「『U's』に『ギオンガクエン』…聞いた事がないな。」

「僕達も聞き覚えがないんです。」

「でもおかしいな…こんな大事な事件なら私たちも1度は耳にしているはずだが…ニュースや新聞は毎日チェックしているしな…」

「時期の問題とかはどう…？この記事の曜日の前から私たちが閉じ込められていた…とか？」

「いや、それは無いでしょう。私はこの日、春樹と綴と遊んでいましたし。」

「この日は確か…買い物に行ってたっけ？」

「あぁ。大好きな小説のシリーズの発売日だったからな。よく覚えている。」

「じゃあ、その日確実に僕達は普通の生活を送っていた…ということですね。」

「あぁ…世宗先輩と乙羽先輩は記憶にありませんか？」

「僕は無いなぁ…」

「私も同じなの。」

「そうですか…琴梨と神希とちとせはどうだ？」

「私はあるよ〜！この日は確か新作のコスメ買ってた！」

ちとせはいつもより少し元気は無さそうだが変わらずニコニコしながら話してくれた。複雑な気持ちの中、彼女はいつも笑顔でいてくれる。この笑顔が今雷華とかなめの支えなのかもしれない。

「琴梨と神希は？」

「……この日は」

琴梨が頭を抑えながらこう言った。

「……午前中の事しか、覚えていない。」

「…午前中？神希は？」

「……僕も同じです。午前中、庭でお茶を飲んでいて…そこからの記憶がまったく…」

「私たちがここに来るまでの最後の記憶が、その日の午前中。お茶を飲んでいた時よ。」

午前中、プツリと消えた琴梨と神希の記憶。

なにか、不可思議だ。それ以降の記憶が無い…

もしかして…

「もしかして…琴梨と神希はその日の午後に、ここにつれてこられたのかも…」

「…本当ですか？」

「確定ではないけれど…その説もある。」

『U's』という奴らに襲われた生徒『5名』。

その『5名』は…

いや、しかし『意識不明の重体』と書いてあった。私たちの身体はどこにも怪我はないし意識もハッキリしている。

……となると考えられることは

私たちは今、『意識不明の重体』で発見された『5名』と同じ状況にいるかもしれない。

琴梨が言っていたように、もしこの中に『狼』である『U's』が紛れ込んでいたら…？

そうしたら私たちは…

「……殺される」

急な頭痛と吐き気が襲う。

息をするのが苦しい。

頭がはち切れそうなくらい痛い。

足元がおぼつかない。フラフラとする。

「っと！水戸！大丈夫？」

春樹が倒れかけた私を支える。

「……………っ」

「水戸、どうしたの！？殺されるって…」

このままじゃ春樹や綴…皆が…

「春樹くん、ちょっとごめん。」

誰かに頭を触られる。

意識が遠のく。

誰の声なのか、わからな、い。

「水戸ちゃん、大丈夫。落ち着いて。」

誰…？

「……一旦、それは考えない方が良い。」

このままじゃ…私たちは…

「落ち着くまで、その考えは停止するよ。」

ころ…………

「大丈夫。停止させるだけだ。負担はかからない。」

………………

「水戸!!大丈夫!?」

「………」

私は…何を…？

「水戸ちゃん、気分はどう？これ。お水飲める？」

乙羽先輩が私に水を渡してきた。

「……ありがとうございます。」

みんなが…どうなるんだっけ？

「春樹、水戸座らせてあげよ。はい、椅子。」

「綴…そうだな。ありがとう。」

どうして私…倒れたんだろう。

「水戸ちゃん、今はゆっくり休んでて。」

世宗先輩…？

「か弱い女の子がそんなこと考えちゃダメだよ」

「だから今は、ゆっくり休んでてね。」

乙羽先輩も…？

「そういうのは、お兄さん達が背負うから。」

「こういう時は年上に頼るのが1番なの。」

｢「だから」｣

｢「大丈夫だよ。」｣