第28話『関係』
僕はソワソワとしていた彼女が気になって、後ろを追いかけた。
そして、彼女はあの人に手を出してしまった。
僕は見てしまった。
苦しそうにしている彼女の顔を。
泣きそうになっていた彼女の顔を。
彼女は悪くない。
僕が…彼女を守ってあげるんだ。
僕のことを守ってくれたみたいに…
《かなめside》
腕を硬い石に変える。
動かない奴の頭を人殴りする。
ゴツンと響く音。
奴から溢れ出る綺麗な赤い血。
そうだ、僕がやったんだ。
お前さえ動かなくなれば、みんな傷つかなくて済むんだ。
全部全部、お前と僕のせいだ。
《水戸side》
「…どうしてかなめがやったってわかったんだ?」
「…私たちそれぞれが動いていた時、トイレに行ったのですが、ちとせさんがかなめさんがトイレにいないって教えてくれて…」
「…なるほど。重力の動きが感じ取れなかった…からとかですか?」
「…はい。それで少し心配になって…申し訳ないのですがトイレの中を確認したところ、水道に血を洗い流した跡があったんです。」
「…でもそれだと私たちと保健室にいる時から手が血で汚れていたってことですよね?それじゃあさすがに気づきますよ…」
「……彼の力は【変身】。自身の姿を変えられるのです。」
「…変身?」
「はい。なので、自身の手を普段の手に変えていたのかと…」
確かにそれなら辻褄は合う。
だが、どうしてかなめは自ら犯人になろうとしていたのか。
「…かなめは、雷華とは仲が良いのか?」
「仲が良い…と私は思っています。」
仲が良い、ただそれだけの事。
でも、それだけの事で行動を起こしてしまうこともある。
私もきっと同じ立場なら、そうしていただろう。
かなめの行動を許すことは出来ない。
けれど本当のことを綴に話して、和解することは出来ないだろうか。
このままだといけない気がする。
どうにかして、2人の心を楽にすることはできないだろうか…
「水戸さん」
「……どうした?」
「かなめさんは、きっと今頃綴さんの所にいると思います。」
「…かなめが?」
「はい。彼は、真面目な子ですから。」
「…そうか、揉め事にならないと良いが…」
「…もし何かあったら、かなめさんのことよろしくお願いしますね。」
雷華は少し悲しい顔をして部屋を後にした。
「…水戸先輩、ちょうど良いので私たちが見つけたファイル見せますね。これです。」
「ありがとう。」
琴梨は私にひとつのファイルを渡した。
琴梨のくれたファイルには【U's】【ギオンガクエン】【意識不明の重体で発見された生徒7名】と書いてあった。
何かの事件か…?こんな大事な事件なんかあったか?
思い出せない。事件やニュースのことなら全て脳にインプットしていたはずだが…
何かがひっかかる。
『ギオンガクエン』という名前。
どこかで聞いたことのある学校の名前だ。
でも、思い出せない。
どうして…?
「…水戸先輩?」
「…あぁ、すまん。少し考え事してた。」
「何か気になることでも?」
「あぁ…この学校にいくつか置いてある資料…この世界の基礎知識や事件の切り抜き…そして綴のプロフィールのようなもの…こんなもの、手に入るのか?普通。」
「基礎知識や記事の切り抜きは簡単に手に入りますけど、確かに人の個人情報丸々あるなんておかしいですよね。」
雷華が見つけた綴のプロフィール…こんな物がぽつんと置いてあるなんてどう考えてもおかしい。
それに事件の切り抜き…私たちがここに閉じ込められているのと何か関係があるのか…?
胸がざわつく。
まるで「この謎を解いて欲しい」と誰かに言われているようだ。
覚えのない事件、なにか引っかかる言葉。
もしかして私たちは、とても大切なことを…
コンコン
部屋にノックが響いた。
「琴梨いますか?昼食の準備が出来ましたよ。」
「はいはーい、今行くよ。水戸先輩、行きましょ。」
「あぁ、そうだな。」
私たちは食堂へと向かった。
何かモヤモヤとしたものを、心に残したまま。
《綴side》
僕は春樹に運ばれて自室へと来た。
「綴、気分はどう?」
「あぁ、最高だよ。」
「最高なわけないじゃん!さっきまで頭から血流して人だよ!?何言ってんの!?」
「春樹がいたから早く治ったんだよ。」
「え、でも僕の回復の力って風でしょ?心地よい風を吹かせることによって精神力を回復する〜って親から言われてるんだけど…」
「人間ってのは精神的なことが身体に出るからね。心が元気になったから身体も元気になったんだよ。」
「えぇ、そういうものなの…?」
「まぁ嘘なんだけど。」
「はあああああ!?」
「ごめんって。」
僕はいつものように春樹をおちょくっていた。
「…ん?」
「どしたの?春樹。」
「いや…部屋の外に誰かいるな〜って…」
「…誰?」
「ちょっと待っててね。見てくる。」
春樹はドアの方へと向かって勢いよく扉を開いた。
「ひゃ!?」
聞こえてきたのは少し高い声。
かなめの声だった。
「あれ、かなめ…さん?どうしたの?」
「あの…えっと…綴くんに用があって…」
「綴に?」
「うん…入っても良い…かな?」
「うーん…」
「いいよ春樹。入れてあげて。」
「わ、わかった。」
「おじゃまします…」
かなめはそろそろと部屋に入ってきた。
「…で、なんの用?」
「えっと…その…」
「………春樹、少し席外してもらってもいい?」
「…え、でも」
「いいから。」
「わかった、何かあったら大声で呼んでね。」
春樹は心配そうな顔をしながら部屋を出ていった。
「…で、なにか僕によう?謝りにでも来たの?」
「…やっぱりわかってるんじゃん。」
「そりゃあね。僕は簡単に死ぬような人じゃないから。」
「…恐ろしい人ですね、貴方は。僕のこと怒らないんですか?」
「怒りはしないよ。君ははめられただけでしょ?ありもしないことを書いた紙」
「ありもしない紙?あれは嘘なんですか?」
「嘘だよ、僕記憶にないし。」
「…嘘はついてなさそうな顔ですね。」
「僕はメリットのない嘘はつかないからね!」
「…怒らないんですか?」
「まぁ確かに?殺しにかかってきたことについては意味わからないくらい腹立つけど?まぁ、正当防衛みたいなものでしょ。轟さんの為でもあったんでしょ?」
「べ、別に雷華は関係ないよ…」
「僕に嘘ついても意味無いって知ってる〜?正直になった方がいいんじゃない?」
「……」
「いるよね〜好きな子の事になると何でもしちゃう系の人。ほんと、すごいよ。」
「すすすすす、!?!?!?ち、違うって!僕がほっとけないから殺っただけ!雷華のためじゃ…」
「はぁ……も〜さっき言ったでしょ?…まいっか。さすがにここまでいじるのも可哀想だし。」
「………」
かなめは少しムッとした表情でこちらを睨んだ。
「綴くんだって!解峰ちゃんのこと好きなくせにー!」
「は?」
「え?違うの?」
「水戸は親友。それ以上でもそれ以下でもないよ。」
「…そう…なの?」
「うん。」
「な、なんかごめん」
少し気まずい雰囲気の中、ノックが部屋に響いた。
「綴〜お昼ご飯できたって〜!」
「ん、今行くよ。」
「じゃ、じゃあ行きましょうか…」
「あ〜…ちょっと待って。」
「?」
「僕と…"契約"してくれない?」
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