第27話『動機』
《水戸side》
「綴くん…!目覚ましたんだ!よかった…!!」
「顔色も良さそうやね。とりあえず一安心なの。」
帰ってきたのは世宗先輩と上白先輩だった。
「心配かけちゃってすんません、もう大丈夫です。」
綴が軽く頭を下げる。
「とりあえず今日は安静にするんだね。食欲はある?」
「はい。」
「じゃあよかった!みんなが帰ってきたらお昼ご飯とでもいたしましょうか!」
「そうね。今回は私も神希くんのお手伝いするの〜」
3年生2人が話しているとドアに人影がうつった。
「ドンドンドン!」
ドアが叩かれる音が保健室に響いた。
「おっと、神希くんかな?」
世宗先輩がドアに駆け寄り開く。
「あ、ありがとうございます…!綴さん…!目を覚ましたんですね!よかった……!」
「あ、起きてる」
琴梨をおぶった神希が近づいてきた。
「どうした、琴梨?足でもひねったか?」
私が琴梨に言うと琴梨は頬を赤く染めながら
「違います…眠たかっただけです…」
と言った。
「そうか、なら良かった…」
「…2年生3人組の方は?」
「まだ帰ってきていないな…そろそろだと思うが…」
そう言っていると廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。
「つ〜づ〜るっち〜!!!???起きてるーー!!??」
微かにちとせの声が聞こえた。
「うえーい!到着!お!起きてるみたいだね!よかったよかった!!」
先にプカプカと飛びながら来たちとせが満面の笑みでそう言った。
「はぁ…はぁ…ちとせ…はやいです…」
「ちょっと…2人とも…僕のこと…置いてかないで…よ…!」
ぜえぜえと息を切らしながら雷華とかなめも来た。
「さて…みんな揃ったことだし、お昼ご飯にしようか!神希くん、今回は僕と乙羽も手伝うよ。」
「本当ですか!?助かります…!」
「ほら綴、おんぶしてあげるよ!」
「は!?いい歳した男がおぶられるなんて真っ平御免だわ!」
「はいはい、肩貸すからね〜」
先程まで静かだった保健室があっという間に賑やかになった。
みんな笑顔で話している。
こういう時こそ、笑顔は大事だ。
心が落ち着いてゆっくり考えることが出来る。
「水戸先輩、琴梨のことお願いしても良いですか?」
「え?あぁ、構わないぞ。」
「じゃあ琴梨をお願いします!じゃ、僕はご飯作ってきますので琴梨は水戸先輩と一緒にいてくださいね?」
「…ん。」
私たちはそれぞれ話しながら食堂の方へと向かっていった。
「なぁ、琴梨。少し暇だし話でもしないか?」
「…話ですか?」
私と琴梨は食事ができるまでの時間、琴梨の部屋で話をすることにした。
綴は春樹に任せた方が良いだろう。こういう時は男同志話している方が気が楽だろうし。
私は琴梨にそれぞれの過去の話をふった。
「琴梨は神希とどういう関係なんだ?主従関係らしいが…」
「…そうですね。あいつは私に使えてる身です。」
「いつからそんな関係に?」
「……生まれた瞬間からです。神希の家計は元々私の家計に使えていたので。ずっと一緒にいました。」
「なるほど…ずっと一緒なら、相当な信頼関係だな。」
「…水戸先輩はいつから綴先輩と春樹先輩と?」
「あぁ…2人は幼稚園位かな。元々綴とは近所で、春樹は少ししたら引っ越してきて公園で遊んだのがきっかけだな。」
「……」
「前は私と春樹は弱虫で…ずっと綴が引っ張ってくれてたな…」
「…綴先輩って結構頭回りますよね」
「そうだな、ああ見えても頭は良いし、よく考えるタイプだな。最近は私が2人に助けられてばかりだ…」
「2人とも、水戸先輩のこと本当に大切にしてますよね。」
「…ありがたいことにね。春樹は力で守ってくれるタイプ、綴は頭脳で守ってくれるタイプだな。2人とも真逆だが、いいコンビなんだぞ。」
「背中合わせ…って感じですね。」
「あぁ…」
少しの沈黙
頭の中で平凡な生活だった頃の春樹と綴の映像が流れる。
2人の顔が思い浮かぶ。
暖かくて、落ち着く。
2人は私の中で、大きな存在。
もし…もしその2人がやられてしまったら…
もしその2人のどちらかが「狼」だったら…
そう考えると心臓が痛くなる。
ズキズキと痛む。
「水戸先輩、もし【狼】が本当にいたら…」
「…?」
「襲われた人間で、だいたい誰が【狼】かわかると思うんです。」
「…どういうことだ?」
琴梨は立ち上がり私の前に来た。
「…つまり、今回襲われたのは綴先輩。水戸先輩はともかく、春樹先輩が襲う理由は無い。」
「そうだな…」
「そして私と神希…私たちにも襲う理由は無い。私は役職、神希は食事に毒でも入れれば全員やれます。」
「……そうだな。」
「そして3年生の2人。2人はさっき倒れた私を必死に助けてくれました。」
「…倒れた?琴梨が?」
「まぁ…話すと長くなるので後で話しますけど、神希の声を聞いて駆けつけてくれたんです。」
「もしその2人のどちらかが【狼】だと…助けるメリットが無い…」
「そうです。残るは2年生3人組…」
「あの3人は…」
「襲うメリットはわかりませんが、今のところ助けるメリットも無いです。」
「つまり…可能性があるならあの3人のうち誰か…?」
「はい。あの場所に落ちていた端末、持ってますか?」
「え?あぁ…ここにあるぞ。」
「ちょっと貸してください。」
私は琴梨に壊れた端末を渡した。
「…これ見て水戸先輩はどう思いますか?」
「…壊れ方からして中身から破損してるのは確実だ。」
「そうですよね。そしてあの3人の力…」
「…ちとせだとこの壊し方はできない!」
「…ですね。なのでちとせさんは省きます。」
「残るは…雷華とかなめ…」
「2人の中だとこの壊し方で可能性があるのは…」
「……雷華?」
コンコン
私たちが話しているとドアからノックが聞こえた。
「……誰?」
「神希じゃないのか?」
「…神希なら、ノックは違うリズムのはずです。」
「……琴梨、少し下がっていてくれ。私があける。」
「大丈夫なんですか?」
「何かあったら枕でも投げつけてくれ。」
「…わかりました。」
琴梨が下がったのを確認して私はドアノブに手を回した。
ゆっくりとドアを開ける。
「…誰だ?」
ドアの先にいたのは…
「あ…水戸さん、こちらにいたのですね。」
ニッコリと笑みを浮かべた雷華だった。
「…雷華?私に何か用か?」
私は少し身構えながら話をする。
「…水戸さんと琴梨さんに言わなくちゃいけないことがあるんです。少し中に入ってもよろしいでしょうか?」
私は後ろをちらっと見て琴梨の顔を見た。
琴梨は「構いませんよ」と言っているかのように首を縦にふった。
「わかった。入ってくれ。」
「では、おじゃまします。」
雷華はお行儀よくお辞儀をしながら部屋に入った。
「…で、言わなくちゃいけないことってなんだ?」
私たちは椅子に座って話を始めた。
「……すごく、大切なことです。」
雷華は下を見ながら言った。
「大切なことって…?」
琴梨は後ろに銃を隠しながら聞き返した。
「……綴さんを襲ったのは、私です。」
雷華が自白をした。
私たちは驚き、喋れなかった。
「…大切なお友達を襲ってしまったことは、反省してもしきれないです。本当に、ごめんなさい。」
雷華は深く頭を下げた。
「…なんで綴を襲ったんだ?」
「…ちゃんと、理由はあります。」
「……」
「私の部屋に、1つ資料が置いてあったんです。」
「…資料?」
「はい。その中に…」
「綴さんが、私たちと同じ学園の生徒を重症にしたっていう情報が書いてあったんです。」
「………綴が?」
「…信じられませんが、本当です。」
そう言うと雷華はひとつのファイルを私に渡した。
「………」
「…私が綴さんを襲った前後の話をします。情報量が多くて困惑するとは思いますが、聞いてください。」
雷華は真剣な眼差しでこちらを向きながら話を始めた。
《雷華side》
机の上にはひとつの資料が置かれていた。
『【■△■_?@についてのファイル】
年齢 高校2年生
性別 男性
性格 頭の回転が早く、冷静な判断ができる。
特殊な力 ライアーグラス
※相手の嘘が見抜ける力。非常に強力で国からはランクSの力とされている。
誕生日 4月1日
血液型 A型
大切な物 友人とされている《_?@》《_011000》の2人。
現在「ギオンガクエン 生徒行方不明事件」について詳しい取り調べをしている。
彼はこちらの質問には一切回答せず《_??・?.?》の安否についてしか喋らない。彼の精神は現在非常に深刻で、会話すらまともにできる状態ではない。引き続き彼の様子と事件について、調べていきたいと思う。』
私はこの資料を読んでこの少年の正体は「信条 綴」さんだとわかった。
このままじゃ他の皆さんが危ない。
誰かが傷ついてしまうかもしれない。
私はそう思って、食事を済ませたあと彼の後ろを着いていった。
彼はてくてくと美術室の前に行った。
壁の後ろに隠れていると彼は独り言を呟いた。
「はぁ……邪魔だなぁ……」
私はその一言を聞いて正常な考えが出来なくなった。
このままじゃ本当に、彼が皆を傷つけてしまう。
我に返った時にはもう彼は私の足元に横たわっていた。
ピリリと痺れる指先からして、私は彼に力を使ったのだろうと察した。
命の別状はないと判断した私はそっとその場から去った。
命に別状はなく、動けないのならこの選択が正しい。
そう思って私は秘密にしていた。
けど彼は、血だらけで発見された。
私がやった時、彼に怪我なんてひとつも無かった。
一体誰が綴さんを…?
そう思いながら私はしばらく全員の様子を見ていた。
そして、私は見つけてしまった。
いつもと違う様子の人を見つけて、見てしまった。確信的な証拠を。
《水戸side》
雷華の話は終わった。
確かにそれはきちんとした動機でもあり、私たちを守るためであった。
でも、綴は誰かを襲ったりしない。
そんな人じゃない。
「……そのファイルの人物、綴さんですよね?」
雷華は私に問いただしてきた。
誕生日、年齢、血液型、力の内容…
何もかも綴と同じだった。
綴本人のプロフィールだった。
でも、綴は誰も傷つけない。
それに、そんなことがもしあったら私が何も知っていないはずはない。
「……確かにこれは綴のプロフィールに間違いはない。」
「……ではやはり」
「…でも綴は絶対にこんなことをしない!私が一番知っているんだ!!」
「ちょ、水戸先輩落ち着いて…」
「綴さんのことを1番知っているのは綴さん自身でしょう!?あなたではありません!落ち着いてください!」
雷華は私に怒鳴り返していた。
いつも落ち着いた表情をしていた雷華が冷静さをなくしている。
「………」
「…雷華先輩、それで綴先輩にトドメをさそうとした人、誰なんですか?」
琴梨が私をおさえながら雷華に言った。
「……それは」
「それは…?」
「…私のことを守ろうとしてくれた…」
「かなめさんです…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます