第26話『不可欠』

《神希side》

僕と琴梨は話をしていた。

琴梨に放送の話を聞いて、そして綴さんに手を出した人が誰かの話。

そして僕達は2年生のクラスの探索をしようと教室に向かった。


教室は机が後ろに下がっていて床には紙が散らばっていた。

僕達はその紙を拾い集めて読んでいた。

そこには事件の切り抜きが書いてあった。


『【△月□日の新聞記事】

昨日、力を悪用するもの達、通称「U's」達による事件がまたも発生しました。

数週間Ozの力を持つ学生たちが通う学園「ギオンガクエン」の生徒何名かが行方不明になっていました。そして昨日、行方不明になっていた生徒5名が意識不明の重体で発見されました。

現場付近にU'sらしき人はおらず警察は近所に住む人達から事件について詳しく聞いているとのことです。

現場にはU'sがいた痕跡「結界」があり警察は結界中を慎重に調べているとのことです。』


かなり大きな事件らしいが僕たちには身に覚えがなかった。

【U's】・【ギオンガクエン】

知らない言葉ばかり。

でも琴梨の顔色はどんどん悪くなっていた。

僕が彼女に話しかけると彼女はフラリとして地面に倒れ込んだ。

顔色は青く、体は冷たい。

恐怖に襲われた僕は琴梨に必死に声をかけた。

「琴梨!起きてください!」

「琴梨!」

「琴梨!目を覚まして!」

ピクリともしない。

僕はもっと恐怖を抱いた。

お願いだから目を覚まして

僕は君がいなくなったらどうすればいいの?

君がいない世界なんて考えられないよ

…誰か助けて

「僕を…1人にしないで……」

そう呟いた時、なぜか僕の力が発動した。

教室を出ていき廊下を少し歩いたところ。

2年の端の教室、1枚の紙を持った人達。

ピンクの髪と黄色と黒の髪。

乙羽先輩と世宗先輩だ。

お願い…助けて…

「誰か…助けて…!!!!」

僕は大声を出し助けを求めた。

世宗先輩が反応し動き出すのが見えた。

僕の力はそこで止まった。

目が痛い

目が乾燥してきているのが分かる。

「お願い…はやく…」

遠くから聞こえる足音

「琴梨…起きてよ…」

どんどん近づいてくる

「琴梨…!」

「神希くん、どこ!?」

世宗先輩の声

僕のことを探してくれている

「助けて…!」

僕はまた少し大声を出す

「いた…!神希くん!」

世宗先輩と乙羽先輩が教室に入ってきた

僕はまともに話せる状況じゃなかった。

「助けて…琴梨が…助けて…」

僕は琴梨がいないとだめなんだ

「目覚まさないのね。ちょっと顔に水かけるよ」

乙羽先輩が琴梨の顔に持っていたペットボトルの水をかけた。

琴梨はピクリとも動かなかった

「まずいな…」

琴梨…目覚まさないの…?

「…神希くん、少し手荒なことするね。」

世宗先輩が琴梨のおでこに手を付けた。

「コントロール…琴梨ちゃん、目を覚ますんだ」

世宗先輩の腕から配線のような模様が光出した。

「うぐ…」

琴梨が苦しそうな顔をした。

「ごめんね…ちょっと辛いかもだけど、頑張って…!」

「…!!」

琴梨の目が勢いよく開いた。

「はぁ…はぁ……あ…れ…神希…?」

琴梨が目を覚ました。

「琴梨…琴梨…!!よかった!!!」

僕は勢いよく琴梨を抱きしめた。

「ちょ…くるし………あれ、世宗先輩と乙羽先輩…」

琴梨は先輩2人の方を見て困惑した。

「なんでここに…ってなんで私の顔濡れてるの…」

「ごめん、君を起こすのに精一杯になって…水かけても起きなかったから僕の力で無理やり起こしたんだ。」

「いえ…助かりました。最悪な夢見てたので。」

「神希くんが大声で助けを求めてたんだ。それで近くを探索していた僕達が来たわけ。」

「琴梨ちゃん具合は大丈夫…?顔色悪かったの…」

「はい、お陰様で。」

「それにしても…どうして倒れてたの?何かあった?」

「…実は新聞の切り抜きを見つけて…それを見てたら頭が痛くなって意識が…」

「…奇遇だね。僕達も切り抜きを見つけたんだ。」


『【△月○日の新聞記事】

本日、「U's」のトップグループと思われる者たちが指名手配となりました。

彼らは「シャドウ」という影を操っており、その「シャドウ」は昨日行方不明となっていた7名の力を引き継いでいる模様。

警察は「5人から事件について知っていることがないか調査をしている。」と発言しており、「シャドウ」についての話は語りませんでした。』


「…シャドウ。」

「琴梨ちゃんと神希くんは聞き覚えある?」

「いや…ないです。私もさっき知りました。」

「僕達が知らないところで事件が起きてる…」

「これを見せて、どうしようとしてるの…」

琴梨の真剣な表情。

さっきまで苦しかったはずなのに彼女はもう弱みを見せない。

本当に、強い主人だ。

「…とりあえず、今日はここまでにしとこうか。綴くんも心配だし…保健室に向かうの。」

「そうだね。じゃあ行こうか。琴梨ちゃん、歩ける?」

「琴梨は僕がおぶって行きます。」

「え、いや大丈夫。歩ける。」

「無理を言わないでください。琴梨が倒れて困るのは僕です。それに、僕は使いですよ。力にさせてください。」

「……わかった。世宗先輩たちは先に行っててください。」

「え、でも心配だし…」

「ほら、行くよ世宗。」

「え!乙羽!?ちょ、腕引っ張らないで!」

「ゆっくりでいいからね。先に待ってるよ。」

乙羽先輩は世宗先輩を引っ張りながら先に保健室へと向かった。

「ほら、乗ってください。」

「…ん」

僕は琴梨をおぶりながらゆっくりと歩き始めた。

「…琴梨、軽いですね。ちゃんと食べてますか?」

「…食べてる。てかご飯作ってるの神希でしょ。」

「…そうでした…でも本当、軽すぎます。身体も細いし心配です。」

「…そんなに心配しなくてもいい。」

「いえ、しますよ。」

「…神希ってさ、依存症だよね。」

「…そうですね。」

「私より神希の方が心配だよ。私がいなくなったら神希がどうなるか…心配。」

「琴梨がいなくなったら、後追いしますよ。」

「…冗談きつい。」

「…冗談に聞こえますか?」

「……」

「僕は琴梨が思っている以上、結構寂しがり屋なんですよ?だから、いなくなるなんて言わないでください。」

「…あっそ。」

「あ、でも僕がいなくなった時は後追いしないでくださいね?僕、死んでも琴梨のこと守りますから。」

「守護者みたいな…?」

「…はい。守護者でも。死神でもいいかもしれませんね。琴梨に近づく輩の死神。」

「…神希怒ってない?」

「…怒ってませんよ。」

「いや…怒ってるね。」

「……怒ってないよ。ただ…」

「ん?」


「僕のこと…もう1人にしないでね。琴梨。」

「……ん。」



《世宗side》

僕と乙羽は保健室を出たあと2年の教室へと向かった。

そこには1枚の新聞の切り抜きが置いてあった。

僕達がそれを手にしているとどこからか神希くんの声が聞こえてきた。

そして僕達は神希の元に向かい琴梨ちゃんを起こして、それぞれの探索結果を話した。

そして今、僕と乙羽は保健室へと向かっていた。


「…どうしたの世宗?」

「ん…あぁ、さっき琴梨ちゃんをコントロールしたから水戸ちゃんのコントロールが解除されてね…よかったよかった。」

「そっか。やっと外れたの…琴梨ちゃんのは?」

「外れたよ。焦ってたから特にあの子の頭の中も見なかったし。ほんとよかった。」

「…世宗ってほんとお節介なの。」

「へ!?なんで!?」

「普通、さらっと琴梨ちゃんの頭の中除くと思うよこの状況。でも見ないんだもん。」

「…僕はこの力あんまし使いたくないしね。それに、使いすぎたらボロボロだった琴梨ちゃんがもっとボロボロになっちゃう。」

「…せやね。」

「それに、人には使わないって約束してたし。」

「…約束は絶対…か。」

「うん。」

「なんで世宗は約束にこだわるん?約束なんて、普通破って出来るようなもんでしょ。この世界。」

「…そうかもね。破っても特に何も無い。けど、僕は自分と約束したんだ。」

「…決心てきなやつ?」

「ま、簡単に言えばそうだね。」

「…ほんまお節介さんやなぁ…たまには自分のこともちゃんとし?」

「わかってるよ。」

「い〜や、わかってないね。」

「わかってるって…!」

少し気分が楽になる。

こうやってただ話すだけの時間が今僕達は必要なのだろう。

水戸ちゃんたちも…

「友達って、大切だよね。」

「…そうやな。」

僕達は保健室へと向かった。



《春樹side》

「…ん」

目が覚める。

だいぶ寝た気がしていたが僕が目をつぶってから10分しか経っていなかった。

10分だけでもだいぶ疲れが取れた気がする。

「おはよ、春樹。」

「綴…おはよ…」

綴はずっと起きていたみたいだ。

「寝起きの顔、ぶっさいくだなぁ…ほら、水でも飲みな。」

綴はそう言って僕にペットボトルに入った水を渡してきた。

「…ありがとう。」

冷たい水が喉を通る感覚。

寝ぼけた感覚が無くなる。

「水、ありがと。水戸は?」

「ほい。水戸はまだ寝てるよ。この通り。」

水戸はスヤスヤと寝ていた。

「……そっか。」

「…今春樹、水戸の寝顔かわいい〜って思ったでしょ。」

「!?!?お、思ってないよ!」

「春樹くん〜僕に嘘が通用しないのは分かってるでしょ〜?」

顔が熱くなるのがわかる。

綴は僕をおちょくるのが好きみたいだ。

「…思ってても口に出したら恥ずかしいじゃん…」

「あら〜春樹くんったら〜!かっわいい〜!!」

綴はニヤニヤとしながら僕の頭をわしゃわしゃとしてきた。

「っおい!やめろ!!」

「へへ〜!」

ボサボサになった髪を直す。

綴は水戸の方を1回ちらっと見て僕にまた目線を戻した。

「ねぇ春樹。せっかくだし2人だけでしか話せないこと、話さない?」

「…例えば?」

「う〜ん…そうだなぁ…」

綴は少し間を開けてまた話しを続ける。

「まずは…そうだ。もしさ、僕達の中の一人が今回みたいに襲われたら…春樹はどうする?」

「…どうするって?守るけど。」

「いやそうじゃなくて…犯人が分かったら、だよ。」

「…犯人が?」

「そう。もし襲った犯人が分かったら。春樹はどうする?」

「……綴は?」

「う〜ん…僕だったらお巡りさんに渡したいから拘束するかな。」

「…そっか。」

「もしかして…襲い返すって思った?」

「いや、綴はそういう事しないだろ。僕達が悲しむことはしない。」

「……まぁね。」

「僕は…もしかしたら怒りが抑えきれなくなるかも…」

「…襲い返す?」

「襲い返すっていうか…拘束しても怒りで…少し傷つけちゃうかも…」

「…なるほどね。」

「もし、そんなことがあったら…止めて欲しい。」

「…もちろん。それが僕の仕事だしね。」

「……うん。」

もし水戸や綴が襲われて…今回よりも酷い怪我をしていたら…

きっと僕は抑えきれなくなる。

感情も、力も何もかも。

抑えきれなくなる。

あの時のように…

「…春樹、大丈夫。僕達はまだここにいるから。」

綴が僕の頭をそっと撫でてくれた。

「…綴?」

「春樹がそんな暗い顔してたら、水戸が元気無くすよ?水戸は僕達のこと、頼ってくれてるんだから。」

「…うん。」

「ねぇ春樹。春樹はさ、自分自身に頼りすぎ。」

「…僕自身?」

「そ。何でもかんでも自分だけで何とかしようとしてる。」

「そう…だね。否定は出来ないな。」

「だから春樹は、僕に頼りな。」

「綴に?でも…僕は綴も守るって…」

「だーかーら!お互い、頼りあって守り合う。そういう関係ってこと。」

「守り合う?」

「そ。お互い背中を預けるってこと。」

「…背中を預ける…か。」

「ま、僕は今まで勝手にそういう関係だと思ってたんだけどね!春樹は意外と鈍感だから言わないと気づかないかなってね。」

「う…鈍感…なのか僕…」

「え、知らなかったの!?だいぶ鈍感さんだよ春樹!?」

「そ、そんなに鈍感鈍感言わなくったっていいだろ!」

「…そこまで鈍感だったのか…ってことは……」

綴は少しうーんと悩むような顔をして下を向いた。

「…なに?」

「…春樹さ、水戸のことどう思ってるの?」

「水戸のこと…?好きだけど?」

「じゃ、僕のことはどう思ってるの?」

「好きだけど??」

「んんんんんんんんんん!」

綴は顔を抑えた。

「…え、なに?」

「春樹…そんなに余裕ぶってていいの?」

「え、なにが??」

「はーーーー」

綴は僕の耳に近づいてコソコソ話しをするようにしてきた。


「そんな余裕ぶってると、取っちゃうよ?」

「…なにを?」


「はーーー!春樹のバカ!鈍感!筋肉オタク!」

「へ!?筋肉オタク!?!?」

僕達がわちゃわちゃしていると水戸の身体が少し動いた。

「…ん」

「あ、水戸おはよ。起こしちゃった?」

「あー…綴…おはよ…」

「春樹が騒ぐから水戸起きちゃったじゃん」

「え!?僕のせい!?って綴も騒いでただろ!?」

「いや、大丈夫…そろそろみんな帰ってくる時間だろうし…気にするな。」

「ま…2人とも顔色良くなったみたいだし、よかったよかった!」

水戸も目を覚まし僕達は少し話していると廊下から音がした。

「お、帰ってきたみたいだね」

綴がそう言うとすぐに扉が開いた。

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