第24話『ずっと一緒』
《水戸side》
頭から血を流した綴が倒れていた。
「つ…づる…?」
視界が揺れるのがわかる。
気持ちが悪くなっていくのがわかる。
「つ…づる………!」
私と春樹は綴にかけよった。
「綴…!大丈夫か!?しっかりしろ!」
春樹が綴の身体をゆっくりと起こしあげ壁に寄りかからせた。
「綴…綴……!!」
大事な親友が、傷ついている。
どうして
どうして?
誰がこんなことを
誰が…綴を…
「と……みと!?」
「…!何…?」
私は春樹の声で我に返った。
「力、今使える?綴の致命傷と脈拍。あと出血量。」
「わ、わかった……」
私は目を瞑りゆっくりと息を吸った。
力を…使うんだ…
『彼の致命傷は?
[頭の傷。強く殴られた痕跡あり。]
彼の脈拍は?
[乱れあり。]
彼の出血量は?
[20%]』
ゆっくりと目を閉じて力を止める。
「致命傷は頭の傷。強く打たれてる。脈拍異常あり。出血量は20%。かなり危険な状態…でもまだ…生きてる…!」
「了解、ありがと。とりあえず頭の血を止めるよ。僕は保健室に綴を運ぶ。水戸はみんなを呼んできて。」
「わかった…!」
「水戸先輩、私がみんなを呼んできます。」
後ろから琴梨が声をかけてきた。
「琴梨…!ついてきてたのか!」
「はい。私が呼んでくるので水戸先輩は現場の調査をしてください。お願いします。」
「わかった。ありがとう。」
琴梨は私の言葉を最後まで聞かずに広場の方へと走っていった。
「琴梨ちゃん、いい子だね。じゃあ僕は綴を運ぶから。頼んだよ。」
「ありがとう、春樹。」
春樹は綴に負担をかけないように慎重にかつスピーディーに保健室へと向かっていった。
よかった…まだ…生きてる…
私はまた深呼吸をして綴が倒れていた周りを調べた。
凶器になるようなものは落ちていない。
あるのは綴の血と壊れた電子パットだけだった。
『この血の持ち主は?
[信定 綴]
この電子パットの持ち主は?
[信定 綴]
電子パットの壊れた理由は?
[d_///ry?@によるもn]』
「…あれ…?」
最後の文がバグのようになってしまい読めない。
「なんだこれ…理由は?理由…!」
何度試して見ても文字は元に戻らなかった。
「なんで…なんで…!?」
どんどん目が充血していくのがわかる。
どうして?
いつもならわかる物がわからない。
どうして…?
それって……
「力の能力が落ちているってことか…?」
しばらく調査をして私は保健室へと向かった。
そこには全員が既に到着していた。
「綴…!」
「水戸…綴…まだ意識なくて…」
「……そうか」
「うん……」
その場が静まる。
綴の身の心配をするもの…そして…
誰が綴に手を出したのか
そう考えている。私だってそうだ。
誰が綴に…最後の情報さえ掴めていれば…何かわかったかもしれないのに…
「…ごめん、とりあえず綴は僕と水戸が見てるから。みんなは校内を調べてて。」
春樹が皆にそう言った。
「…………」
全員が静まる。誰1人喋ろうとしない。
息が詰まる。
「…わかった。」
琴梨が沈黙を破った。
「ほら、いくよ神希。」
「え…は、はい。あの、とりあえず僕がやれるだけの治療はしました。なので…あとは綴先輩次第です…。」
「あぁ、ありがとう。神希。」
「…信じてます。では、失礼します。」
神希はぺこりと頭を下げ琴梨と共に保健室を出ていった。
「私達も行こっか!綴っちのことは2人に任せたよ!さ、行こ!」
「え、ちょ、ちとせさん!?」
「痛いって!自分で歩けるから!」
ちとせがかなめと雷華の腕を引っ張りながら保健室を出ていった。
保健室には私と春樹、世宗先輩と乙羽先輩が残った。
「とりあえずひと通りの処置は済んだし、あとは綴くんの目覚めを待つだけかな」
「はい…そうですね。」
「……ねぇ水戸ちゃん、1つおかしなことを言ってもいいかな?」
世宗が真剣な表情で私にこういった。
「僕らの力、なんだかいつもと様子が少し違う気がするんだ。」
私たちの力。
さっき私の力が上手く使えないのと他に力の変化がある人がいたのだ。
「世宗先輩も…力がおかしいんですか?」
「…まぁね。」
「世宗先輩、力を使ったってことですよね。いつ使ったんですか?」
「……」
世宗は少し間をあけて話を始めた。
「水戸ちゃんの頭に触った時、誤作動してしまってね。力の制御が出来ずに水戸ちゃんの身体に負担をかけてしまったんだ。」
「…お前」
春樹が世宗のことをギロりと睨む。
「…なるほど。私が倒れた理由はそれもあるということですね。」
「あぁ。そうだ。」
「世宗先輩の力ってどんな力なんですか?」
「それは…」
世宗が黙って下を向く。
教えたくないのだろうか。
もしかして事件に関係が…
「コントロール。」
乙羽がそう言い放った。
「え、乙羽!?」
「世宗の力はコントロール。触れた物の思考回路がわかったり操作できるの。」
「乙羽さん!?!?」
乙羽が世宗の力の解説を始め、世宗が焦り始めた。
余程教えたくなかったのだろう。
「…なるほど。つまり世宗先輩は私の役職や力なども知っているということですね。」
「……まぁ、そうなるね。ごめん。見るつもりはなかったんだ。」
「いえ、大丈夫です。他の人にはあまり言わないようにしてください。」
「わかった。ありがとう。」
世宗は少し悲しい顔をして横を向いた。
きっと彼にはあいつと同様、辛い過去があったのだろう。あまり触れない方が良い。
「じゃあ私達も調査してくるの。何かあったら呼んで欲しいの。これ、持っといて。」
乙羽は水で作り出したトランシーバーの片方を私に渡した。
「ありがとうございます。」
「時間が経ったら水に戻っちゃうけど、できる限り頑張るから。」
「はい。じゃあ、気をつけて。」
「うん。行ってくるね。」
乙羽は世宗の手を掴み保健室を後にした。
みんなが保健室を出て数分、綴はまだ気を失ったままだった。
「綴…起きてくれ…」
私は綴の手を握り必死に祈る。
今は祈ることしかできない。
綴…頼む…
「お前がいなくなったら…私…」
「寂しくて死んじゃいそう…とか言わないでね」
「何言ってんだよ春樹…」
「え、僕何も言ってないよ?」
「…へ?」
ゆっくりと顔を上げると目を開きニヤリとした表情を浮かべる綴がいた。
「手、握っててくれたんだ。水戸ちゃん可愛いね〜」
「綴…!!!!」
私は喜びを抑えきれず綴に抱きついた。
「ふぅえ!?水戸!?ちょ、なになになに!?」
「綴〜!!!!」
「ぐえっ!春樹まで…ちょ、ぐるじい……」
春樹も思いっきり綴に抱きつく。
本当に…本当によかった…!!
「意識はちゃんとあるか?視界は?ぼやけてない??」
「大丈夫だよ。そんなに心配しなくても!僕もう全然元気だし!」
「あんなに頭から血流して!?」
「ほら、僕傷の回復早いから!血も止まってるから大丈夫だよ!」
「…でも…」
「まぁまぁ、元気そうならよかったよ。でも、今日は1日休むこと。おっけい?」
「ういうい〜」
元気そうな綴を見て私も春樹も力が抜けていく。
「今日は1日、僕らも休もうか。水戸、それでいい?」
「あぁ、そうだな。色んなことがありすぎて頭がパンクしそうだ。」
私はゆっくりと目をつぶり少しでも疲れを体から逃がしていくようにした。
「そういえば、前にもこんなことあったよね。」
春樹がぽつりとつぶやく。
「あったねぇ…あの時は春樹だったね。今の僕のポジション。」
「そうだね…嫌な思い出だけど、3人にとっては大事な時間だったな…」
「………」
ゆっくりと記憶が蘇る。
私達がまだ小学生の時。
春樹が怪我をした時だった。
「春樹〜大丈夫…?そんなに泣かないでよ」
「うぅ…だって…だって僕…」
「う〜…水戸ぉ〜なんとかして!春樹ず〜っと泣いてるじゃん!」
「…うぅ……」
「ん〜もう!春樹!泣いちゃダメでしょ!?」
「っ!?お、大声出さないでよ水戸ぉ…」
「ほら涙拭いて!こんなとこで泣いてても何の解決にもならないんだよ!」
「ふぇ…?」
「今泣いても別に何かが変わるってわけじゃない!なら涙をふいて前を向いてた方がいい!ってパパが言ってた!」
「……うぅ」
「水戸のパパかっこいいね〜!ほら春樹?」
「……うん。僕もう泣かない!次は僕が守るんだ…!」
「そうそうその調子だよ春樹〜!!」
「やっぱ春樹は笑顔が1番だな!」
「えへへ…2人とも、ありがとう!」
あの時の思い出は今でも忘れない。
大事な約束をしたんだ。
「僕達3人はずっと一緒だよ…!」
《綴side》
少ししたら水戸がすやすやと眠り始めた。
幸せそうな顔をしている。
いい夢でも見てるのかな。
「春樹も寝なよ。僕起きてるし。」
「普通逆だろ?って言いたいところだけど…ちょっと僕も眠いや。ごめん数分だけいい?」
「いいよ。おやすみ。」
春樹も目を閉じ眠り始めた。
僕は自分の頭に手をあてた。
傷は痛まない。
出血も止まっている。
「そういえば…電子タブレット…水戸ちょっと失礼するね」
僕は小声で水戸に囁きながら水戸の上着のポッケに入っていた電子タブレットを手に取った。
画面は割れてはいないが電源はつかない。
「あ〜あ。壊しちゃったよ。」
僕は壊れた電子タブレットを水戸の上着のポケットに戻した。
僕もほんの少し休むことにしよう。
正直疲れた。
いろんなことがてんこ盛り過ぎて、頭がパンクしそうになる。
僕は目を閉じ眠ることにした。
「あ〜…失敗しちゃったな。」
おやすみ水戸、春樹。
「邪魔だな、あの人。」
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