第23話『予知夢』

《水戸side》


「私の役職は【預言者】です。」


「預言者…?」

「はい。まぁ簡単に言えば人狼ゲームとかで言う占い師ですね。狼を見つけるみたいな役割を果たす人です。」

狼を見つける…ってことは…

「水戸先輩…ここまで言ったらさすがに察しましたよね。」

つまり……


「狼…【裏切り者】の役職を持つ人がいるってことですよ。」


ゾワッと背筋が冷たくなる。

裏切り者…かすかに頭の中にあった存在が大きくなり出す。

本当にいるなんて…裏切り者が私たちの…中に?

「次は水戸先輩の番です。さすがにここまで来て【裏切り者】ではないですよね?」

「あぁ…もちろん。私の役職は【探偵】だよ。」

「探偵…?推理系ですか?」

「みんなが普通入れない部屋も入れるようになる役職みたいだ。」

「ふーん。入れない場所なんてあるんだ…」

琴梨が真剣な表情で考え始めた。


さすがに条件は伝えないようにしよう。

琴梨をこれ以上追い込むことは出来ない。


「まぁ、信じますよ。では約束通り何かあったら情報共有を。私の部屋にでも集まりましょう。」

「わかった。」

「あと…このことは誰にも言わないように。私も神希には言ってませんし。」

「…え、神希に言ってないのか?」

意外だ。てっきり神希には言ってあるのかと思っていた。

「えぇ。もしもの事があるかもしれないし。」

「…もしも…か。」

琴梨は仲が良い神希のこともちゃんと疑っているんだ。だから部屋に神希を入れようとしなかったんだ…

「なぁ、琴梨。ひとつ聞きたいんだが。」

「なんですか?」

「…昨日見た夢って……」

「……誰かが倒れてた。血が周りにあった。……あなたのリボンが落ちていた。それだけよ。」

「…そうか。」

「夢は写真みたいに切り取られて出てくるの。映像ではない。音も無い。」

「わかった。ありがとう。嫌なことを思い出させてすまない。」

「いいのよ。水戸先輩はお節介すぎるよ。そんなのいちいち気にしないで。」

「…わかった。」

琴梨は1年だが、きっと誰よりも大人っぽい性格だろう。言いたいことはきちんと言う。真っ直ぐな少女だ。

「来てくれてありがとう。」

「こちらこそ、教えてくれてありがとうな。じゃ、私はこれで。」

私はそう言って琴梨の部屋を出た。





琴梨部屋を出た後、私は自分の部屋へと向かった。

身支度を整え、校内の調査のために部屋を出ようとすると大きな校内放送が流れ出した。


『ピーンポーンパーンポーン』


この音が流れたということは…きっとあの子が出てくるのだろう。


『皆さんお元気ですか?

やっと皆さんがそれぞれのお部屋に来たので

ここで少しお知らせがあります!!

喜んで聞いてください!!皆さんが今必要なものを

一つだけなにか用意してあげます!!』


必要なものを…一つだけ?


『なんでもという訳ではありません!!

物にしてくださいね?決めたら机の上に置いてある電子パットに書いて送信ボタンを押してください!!』


『ピーンポーンパーンポーン』


今自分に必要なものをたった一つだけ手にすることが出来る…少女は放送で確かに言っていた。

自身の心を落ち着かせるもの・日常的に使えるもの…なんでも良いとのことだ。


「今私に1番必要なもの…」

私はぽつりと独り言を言った。

なんだか今は声に出さないと落ち着かない。

声に出した方が頭の中で整理がつく。これも大切な事だ。

「……整理か…」


私は電子タブレットを手に取り画面の上に指を滑らせ、机の上にまた置いた。


「私の選択は…正しいのだろうか……」


コンコンコン


深くため息をついていると扉の方からノックが聞こえてきた。


「水戸〜!そろそろ探索の時間だから一旦集まろ〜!」

ノックの正体は春樹と綴だった。

綴は別に声は出ていないが多分いるだろう。


私はドアを開けた。


「やっほ〜水戸!あれ、綴もいると思ったんだけど…」

「ん?綴と一緒じゃなかったのか。」

「うん。部屋にもいなくて…どこいっちゃったんだろう…」

「トイレにでも行ったんじゃないか?綴の事だし時間になったら広場に来るだろう。」

「そうだね。先に広場に行っちゃおうか。」

私は部屋を出て春樹と共に広場へと向かった。



広場で待つこと数分、3年生の2人と2年生3人が集まった。

「あれ、綴っちは?」

「実は部屋にいなくてだな…まだ会ってないんだ。」

「ありゃりゃ〜そうなのか…」

ちとせと話していると神希と琴梨も広場に来た。

「どうも。」

「あぁ琴梨。来てくれたんだな。」

「まぁ…私も力にならないとですし。」

「そうか、ありがとう。」

「…別に。」

琴梨は頬を赤くしながらそっぽを向いた。

「さて…もう時間だけど…綴くん、来ないね。」

世宗が時計を見ながらそう言った。

「あいつ、腹でも壊したのか?」

「広場のトイレには誰もいませんでしたよ?僕ここ来る前に行ってきたので。」

「え…じゃああいつ…どこにいるんだ…?」

心が少しザワザワする感覚。

綴…綴……?


私が下を少し向いていると琴梨が近づいてきた。

「あの…水戸先輩…」

「……どうした?」

「あの…私の…夢……もしかして………」

「ゆ……め……」

琴梨の夢。

確か血だらけで人が倒れていた夢。

そして私たちが関係していたかもしれない。

それって…

「つ…づる…!!!!」

私は1人で走り出した。

「え、ちょ水戸!?待って!」

春樹が驚いて私を追いかけて走ってきた。

「綴…綴…!!」

お願い…お願い……無事でいて…!!

「水戸先輩…!美術室!美術室の前です!!」

後ろから琴梨の大声が聞こえてきた。

美術室…確か1階の端に…!


私と春樹は猛ダッシュで1階端の美術室へと向かった。


息が苦しい。

呼吸が難しい。

そんなことも忘れるくらい走る。

走って走って走って…

私たちはついに美術室がある場所の近くまで来た。

「ここを曲がれば…美術室が…!」

長い長い廊下の曲がり角を曲がり美術室前へと到着した。


「……………え?」

「水戸…!どうしたのいきなり走って………っ!?」


息が苦しい。

呼吸が難しい。

胸が苦しい。


私たちの前には


「綴…!!!!」






頭から血を流した綴の姿があった。

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