第22話『取引』

僕には心の支えがいる。

きっとそれは僕だけじゃない。

他のみんなもいるのだろう。

きっと僕は彼女がいなかったら今ここにはいないだろう。

そのくらい彼女は特別な存在だった。

命の恩人、大切な人。

日が進んでいくうちに僕にとって彼女は「運命の人」へと変わっていった。



いつかこの気持ちを

あの子へ伝えられますように。



《水戸side》

私たちは朝食を食べに食堂へと来た。

食堂には琴梨以外の全員がもう既に揃っていた。

「あ、水戸ちゃん・春樹くん・綴くんおはよう!」

世宗が元気よく私たちに挨拶をしてきた。

「おはようございます。」

私はぺこりと頭を下げ朝食が置かれている方へと向かった。

朝はどうやらバイキング形式らしい。

メインはパンとコンフレーク、ヨーグルトだった。

「ん〜お米はないかぁ…」と春樹が少しだけしょんぼりしながら独り言を呟いた。

その隣で目を輝かせている人がいた。

「…!!」

綴がフレンチトーストと見つめあっていた。

綴はフレンチトーストが大好物で朝はだいたいフレンチトーストを食べていた。

「このフレンチトースト……めっちゃ美味しそう……」

新しいおもちゃを見つけた時の幼い少年のような表情で綴はフレンチトーストに話しかけていた。

「綴さん、フレンチトーストお好きなのですか?」

綴がフレンチトーストに話しかけているところを目撃してしまった神希はニコニコとしながら話しかけていた。

「…!!べ、別にそんなんじゃ…」

「実はこのフレンチトースト、普通のフレンチトーストじゃないんです!!僕が試行錯誤して考え抜いた最高のフレンチトースト!!ぜひ実食してくださいね!!!!」

「最高の…フレンチトースト……っっっ!!!!!!」

綴はフレンチトーストのお皿を手に取り、駆け足で机の方へと向かっていった。

「早く食べたいんだろうな。」

「そうだね〜他のおかずに見向きもせずに…」

私と春樹はそれぞれ食べたいものを手に取り、綴が座っている席へと向かった。

私たちが席につく頃には綴はもうフレンチトーストを口にしていた。

「う……うまい……!!!!外は程よりカリカリ食感、中はフワトロ卵…!!程よい砂糖と塩!!!!!最高……優勝だ………」

1人食レポを始めた綴を見て神希は嬉しそうな表情をしながら見つめていた。

「そうなのです!!この程よい味を出すのには苦労しました…!!喜んでもらえて良かったです!!」

「これ、毎日出して!食べる!」

「ぜひぜひ!ご用意しますよ!!」

「あ、僕朝お米食べたい!」

「わかりました!明日からはお米もご用意しますね!!」

神希の嬉しそうな表情をみて少しほっとした。


昨日の琴梨のこともあって神希の元気がなくなるのではと思っていた。

でもこんな笑顔今まで見たことがなかった。

心のどこかで何かが軽くなる感覚がした。


「あの…水戸先輩…少しよろしいでしょうか?」

神希が私以外の人に聞こえないであろう声の大きさで話しかけてきた。

「どうした…?」

「あの…実は琴梨から伝言がありまして…」

「琴梨が…?私に?」

「はい。食後、琴梨の部屋の前まで来て貰えませんか?」

琴梨が私を指名して呼びつけるとは思いもしなかった。

一体要件は何なのだろう…

昨日の綴のことで物申したいことでもあったのだろうか…?それなら勘弁だな。

頭の中で琴梨について考えながら私は朝食を口に運ぶ。

「水戸〜!それ美味しい?」

春樹が頭をコツンと横からあててきた。

「ん?美味しいぞ。1口食うか?」

「お!じゃあ遠慮なくいただこうかな!僕のも食べていいよ〜!綴は譲ってくれそうにないしね〜!」

もぐもぐと夢中でフレンチトーストを口にしている綴を見ながら春樹はそう言ってエビフライを1つ私の皿に置いた。

「ん〜!このポテトサラダ美味しい!」

「こっちのエビフライも美味しいな。油っぽくなくて食べやすい。」


美味しいご飯を食べ終わり私たちは広場で解散をした。

私は神希に言われた通り、琴梨の部屋の前まで向かった。

「水戸さん、来てくれたんですね。」

神希が扉の前で私を待っていた。

「あぁ。それで、琴梨は?」

「部屋の中です。僕は入らないように言われているので…水戸さん一人でお入りください。」

「?そうか。じゃあ言ってくる。」

神希は扉を開け、ぺこりと頭を下げた。

そして私は琴梨の部屋の中へと入った。


「…お邪魔します。」

「来てくれたんだ。」

部屋に入ると、ベッドの上に座る琴梨がいた。

「私のこと、警戒して来ないかと思った。」

「確かに警戒はしたが、信じようと思って。」

「ふぅん。そこ、座ってくださいな。」

私は琴梨が指さした椅子に腰を下ろした。

「で、話ってなんだ?」

私がそう言うと琴梨は少し間を置いて話し始めた。

「昨日、私が言いかけた言葉。覚えてますか?」

「昨日…」

確か琴梨は『私が琴梨と神希に手を出した』『血だらけ』という言葉を発していた。

「あの言葉がどうしたんだ?」

「あの言葉…多分何を言ってるんだこいつとか思ってましたよね。」

「……まぁ正直な。」

「あの言葉…ちょっと無かったことにして欲しくて。」

「無かったこと…?どうしてだ…?」

そう私が聞くと琴梨が顔を下に向け無言になった。

「…言いたくなかったらいいんだ。琴梨、顔色が悪そうだしな。」

「……え?」

琴梨が驚いたような顔で私を見てきた。

「…自分でも気づかなかったのか?お前、そうとうしんどい思いをした顔…してると思う…」

「……水戸先輩って面白いですね。」

琴梨が少し笑みをこぼした。

彼女の顔は多分ほかの人には分からないであろう、しんどい思いを隠している表情だった。

だが私にはわかってしまう。


見たことある表情に似ていたから。


「…水戸先輩の言う通りですよ。私、多分疲れてる。」

「……無理はしないように。」

「…水戸先輩、私と少し取引をしませんか?」

琴梨は勢いよく立ち上がり、そういった。

取引…?私と琴梨が?

「取引内容は…?」

「お互い力の内容を教え合いましょう。そして、その力でしか気づけない物の情報共有です。役職を教え合うのも私は大丈夫です。どうですか?」

確かに私たちはお互いに力の内容を知っていない。私の力は情報集めにはもってこいの力だ。琴梨がこのような取引を求めるということは琴梨の力も情報集めができるような力なのかもしれない。そして役職。彼女は人に教えても大丈夫な役職ということだ。

春樹と綴は教えられないと言っていたし、きっと条件に「教えていいもの・教えてはいけないもの」が書いてあるのだろう。

彼女が嘘をつく可能性もあるかもしれない…


でも私は琴梨を信じたい。


苦しんでいる彼女を少しでも楽にしてあげたい。


「……わかった。その取引、のるよ。」

「…ありがとう。」

琴梨は私に少し近づいて少し小さな声で話し始めた。

「私から先に教えた方が良いですよね。もしかけたのは私の方ですし。」

「そうだな。役職も私は大丈夫だ。」

「わかりました。」

琴梨は少し間をあけて話を続けた。


「私の力はいわゆる【予知夢】です。夢の中で未来が見える。そんな力です。見たいものも見たくないものもコントロールできないです。見れるものは…自分の身の回りで起きることですね。

私が昨日の夜言ったこと、あれは夢で見た事です。でも今日、水戸先輩が犯人ではないという証拠の夢を見ました。なので取り消したいって言ったんです。」


予知夢…現状なかなか強い力だ。

これから先何があるかを把握出来る。

でも、辛いことも見えてしまう…

彼女は今、複雑な状況だろう。

神希も昨日「彼女が1番辛い」と言っていたがこの事だったのか。


「ありがとう。私の力は【疑眼】。うまく説明は出来ないが…ゲームとか映画であるAIを考えてくれ。AIの目では普通見えない数値や文字が見えることがよくあるだろう?あれが見える感じだ。だから捜査とかに使える。例えば事件現場に凶器があるとしよう。その凶器が起きた事件にどのくらい関係があるかを数値で見れたりできる。上手く行けば付いている血の分析とかもできる。が、今の私にそこまでの力はない。」

「…なるほど。今の状況ではなかなか強い力ですね。とりあえず把握はしました。次は役職ですね。」


そして、琴梨は自分の役職について話し出した。




「私の役職は【預言者】です。」

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